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起床して軽く朝風呂を堪能していると九尾さんが朝食を持ってきてくれた。
スモークカナール、スモークチーズ、キュリンのサンドイッチ。
モローコシ三種類のポタージュ。
ハニーシュガーが入ったカフェラテだった。
九尾さんに昨日のお礼がしたかったので、指輪の中に油揚げ系の何かが入っていないか検索をかけたところ、おいなりさんと油揚げの煮浸しが入ってたので九尾さんに捧げてみれば、九本の尻尾を千切れんばかりに振るという、もふもふ好きには堪らない反応で返してくれた。
本当は自分で作った物をわたしたかったのだが、夫の料理は超一流だ。
次に来たときは、自分が作った物をわたしたいと告げれば、うっとりとした眼差しのまま絨毯の上にお腹を見せて転がられてしまった。
朝からもふもふは禁止じゃの! と彩絲に止められてしょんぼりしているうちに、雪華が腰砕けになってしまった九尾さんを部屋の外へと運んでいった。
雪華が戻ってくるまで大人しく待ってから、朝食をいただく。
カナール=鴨とのことで、初めての鴨サンドイッチを食べた。
夫にも食べさせたいと思う絶品だった。
特に胡椒の加減が好ましいのだ。
チーズも向こうにはないタイプでねっとり系の濃厚さ。
何のチーズか尋ねれば良かったと深く反省する。
キュリン=キュウリは、向こうと変わらないしゃきしゃき加減で、カナールとチーズの食感を飽きのこないものにさせた。
モローコシ=とうもろこしの、ポタージュにはちょっと驚いた。
味が慣れ親しんだコーンポタージュなだけに。
黄色のコーンは良い。
白色のコーンも見たことがある。
だが、虹色のコーンは初めてだった。
向こうでもあったらしいのだが、日本では手に入りにくかったらしく、見たことがなかったのだ。
とても華やかだとは思うのだが、典型的な日本人の自分としては、ここまでカラフルなのには少しだけ抵抗を感じてしまう。
「あー。でも、味は美味しいかも……」
目を閉じてもぐもぐと口を動かせば、どうしたの? と、雪華に目で尋ねられたので説明をする。
「ぷ! 主らしいけど、そんなの気にしてたら、この世界の食事は楽しめないよ!」
と笑われてしまったが、雪華の言うことももっともだ。
夫の苦手な物はちゃんと事前に教えますからねー、の過保護な囁きに頷きながら、虹色コーン粒がたっぷりと入っているポタージュも飲み干した。
味は極々普通の美味しいとうもろこしだった。
「ご馳走様でしたっ!」
手を合わせて器を片付けやすいように重ねる。
「あ! そう言えば、二人はオススメの奴隷館とかあるのかな?」
「御方は何と?」
「裏に行くなら表を訪ねてからとはあったけど、特にどこがオススメとは言ってなかったの」
「ふむ……裏なら『闇色の薔薇』じゃな。癖のある女性奴隷が多いがアリッサなら問題ないだろうて」
「表なら『百合の佇まい』ね! 女性のための女性奴隷を扱っているの。支配人も女性だから安心だと思う『闇色の薔薇』も女性の支配人だったよね?」
「じゃな」
それなら夫も納得してくれそうだ。
咎める声も聞こえない。
「じゃあ、まずは『百合の佇まい』から行こうか。あ! 宿はどうしようか。新規開拓したいけど、奴隷購入となると変えない方がいいのかな?」
「今夜の宿もここで良いと思うぞ。奴隷にもきちんとした食事を出すのでも有名じゃからな」
「だよね。高級宿だと入れてくれても隔離されちゃうのがほとんどだし。ん? でもうちら的には、そっちの方が歓迎なのかな?」
新しい宿も気になるが、購入した奴隷たちに食べさせる料理内容を考えると、獣肉萌館が無難な気がする。
胃に優しく、しっかりと血肉になる料理が上手そうだ。
「うーん。奴隷たちが落ち着くまではここでいいかな。ギルドのオススメを聞いてみてもいいかもね」
「ギルドは拠点を勧めてきそうだがの」
それは私も考えた。
王都に拠点は欲しいが、リゼットさんの連絡を待った方が良さそうだ。
やはり海鮮の強い所に、まず実家的な帰る場所が欲しい。
「王都の拠点はリゼットさん待ちで。私としては海鮮の美味しい場所でいろいろやりたいの」
「海鮮が美味しいとなると……タンザンコかカプレシアかなぁ」
「ラヌゼーイも良いが、あそこは御方がやらかしているから、アリッサが行ったら女神扱いになりそうじゃ」
夫が何をやったのかは気になるが、女神になるのはごめんだ。
「じゃあ、奴隷が落ち着いたらラヌゼーイ、 タンザンコ、カプレシアに行って、メインの拠点を決める方向で」
「まぁ、そこがアリッサの好みでなかったら、また考えればいいよね」
「うん。そんな流れでいこう。そういえば奴隷館に営業時間ってあるの?」
何となく二十四時間営業の気がしないでもないが、襲撃や脱走を恐れて決まった時間にのみ営業の気もしてくる。
「薔薇は無休じゃが夜の十時まで、百合は二十四時間年中無休じゃったな」
「だね。一般的には後ろ暗いところがある奴隷館は、二十四時間営業な感じみたいだよ」
時計を見ると九時を回った所だった。
獣肉萌館から『百合の佇まい』までは、徒歩二十分といったところ。
今から出て、のんびりと観光などをしながら行けばちょうど良さそうだ。
疲れたら馬車に乗るのも楽しいだろう。
受付で連泊の手配を取った私たちは、徒歩で『百合の佇まい』へと向かった。
着いた『百合の佇まい』は、瀟洒な館だった。
外観からでは、とても奴隷館には見えない。
大きな看板は銀色で百合が浮き彫りになっている。
その下に、この国の言葉で『百合の佇まい』と彫り込まれていた。
英語の筆記体に似ていて格好が良い。
入り口には甲冑を着た女性が二人立っていた。
門番だろうか。
会釈をすれば、槍で地面を打つという挨拶をしてくれる。
歓迎……されているのかは分からない。
二人が動じないのだから、問題はなさそうだ。
入り口を潜った途端、百合の香りに包まれる。
広々とした受付とロビーには、百合の生花が数か所、花瓶に生けられていた。
「本日は『百合の佇まい』にようこそお越しくださいました。アリッサ様、彩絲様、雪華様」
支配人らしき女性は、小柄で可愛らしかった。
ぴんと立った兎耳に障ってみたい。
指先が妖しく蠢きそうになるのを、握り込んで押さえる。
どんなに愛らしい姿形をしていても、有名な奴隷館の支配人であるならば、外見通りの性格ではないはずだ。
名前を呼ばれても驚かない。
ギルドか下手したら、王城辺りから直に話が通っていてもおかしくないとすら推測しているからだ。
「本日は、どういった奴隷を御所望でございましょうか?」
ソファに案内され、不思議な香りがするお茶を出され、お茶請けも添えられる。
「戦闘奴隷は欲しいのぅ」
彩絲はティーカップを口にしながら告げた。
「拠点を護ってくれる子たちも欲しいかなぁ」
雪華はお茶請けを食べながら首を傾げる。
「戦闘奴隷は2~3人、家事ができる奴隷も2~3人。後は……騎獣になれる奴隷というのはいるのかしら?」
私はお茶を啜りながら尋ねた。
不思議な香りがするお茶は、飲み込むとほんのりと百合の香りがするフラワーティーだった。
鬱陶しくない仄かな香りと砂糖が僅かに入っているのがとても口にあう。
「大変申し訳ございませんが、騎獣になれる奴隷は扱っておりません。他は全て御用意が可能です」
高級店らしいから何でも揃うのかと思ったら、そうでもなかったようだ。
騎獣に関しては専門店もあるようなので、そちらを頼った方が良い気もするのだが、奴隷館で手に入れた方が良いと、何となく勘が働いているので、闇色の薔薇の方で捜すとする。
「では、人族以外でお願いします」
「承りました。少々お待ちくださいませ」
優雅に頭を下げるも、兎耳がぴょこんと立つので、美しさよりも愛らしさが際立つ。
兎耳に釘付けになりながら、お茶請けを食べた。
こちらは香ばしいナッツ系の味がする。
「あ! 偏見とかないって、言うの忘れた!」
ラノベテンプレではその点が重要な場合が多い。
「まぁ。ここの支配人なら問題なかろうて」
「私もそう思う。きっと優秀なだけでなくレアな子が出てくると思うよ」
先ほどとは違う新しいお茶とお茶請けを半分ほど堪能したところで、支配人が奴隷を連れて戻ってきた。
背後にしずしずと続いている奴隷を見て、思ったのは、テンプレ乙!
ロップイヤー兎獣人の双子。
……白毛、赤い目でへた耳。
細身で普通身長。
どう見ても愛玩される対象なのに、鞭と死に神が持つような巨大な鎌をそれぞれ手にしている。
間違いなく戦闘特化の奴隷のようだ。
背中に羽、頭に輪を浮かべた天使族。
……羽、髪、瞳が純黒。
比較的長身。
武器はハルバード。
これも漆黒。
一体どんな金属でできているのだろうか。
夢のファンタジー金属辺りの気もする。
こちらも戦闘奴隷で間違いなさそうだ。
器用に尾びれで歩く人魚族。
……水色のロングヘアで瞳も同じ色。
耳が大きく、たぶん水が入らないように畳める仕様。
武器は持っていないので、魔法系を使うのだろうか。
おっとりした感じなので、戦闘奴隷ではないのかもしれない。
余談だが、貝のブラジャーではなかった。
人間の背丈ほどもあるリス族+通常サイズのリス族×4。
……顔と手が人で、後はリス。
人間とのハーフかもしれない。
もっふもふの尻尾が緊張で硬直している。
大きいリス族の両肩にそれぞれ二匹ずつ、小さいリス族が乗っていて可愛い。
大きいリス族は背丈のメイスを手にしていたが、小さいリス族は何も持っていないようだったので、どちらなのか迷う。
どちらでもOKというのもあるのかもしれない。
全員を凝視して、ナイスセレクトです! と、これまた内心で思いつつ、全員に自己紹介を促した。