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美月ゆめか🌸だよ〜!第4話読んだよ〜!😭💕 暸くん、めんどくさいけど結局最強なのバレバレじゃん!?笑 あのミリ単位で避ける動き、絶対Fランクじゃないって!!!白銀先生の「わざとだったのね?」で終わるラスト、続き気になりすぎて今夜眠れないんだが…?!😳✨ 1000万円より昼寝優先ってスタンス、めっちゃ好き。でも雫先生の乙女妄想シーンが可愛すぎて悶えた…あの布切れを胸に抱くシーン、尊い…!🥺💕 次回、暸くんの正体バレちゃうのかな?続き楽しみにしてるよ〜!🌸
#ギャグ
梨本和広
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桜咲かな
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ねこ飼いたい
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第四章 天叢雲最強決定大会 ~1000万円より昼寝が大事~
初授業から一週間が経った。
高木暸にとって、この一週間は文字通り「天国のような日々」だった。Fクラスの生徒は自分一人、担任の白銀雫は必要最低限の指示以外は一切話しかけてこない、授業中は机に突っ伏して何時間でも眠れる、休み時間には誰も邪魔しに来ない。ランチも学園の一番端の誰も来ないベンチで、コンビニのパンをかじりながらぼーっと空を眺めるだけ。四天王や生徒会長の姿を遠目に見かけても、こちらには一切気づかれない。九条覇斗の一件もすっかり収まり、校内の噂はもう「Sランクの嘘つきルーキー」から次の話題に移っていた。
「完璧だわ…これ以上の平穏はない。このまま3年間、誰にも迷惑かけずに生きていける…」
昼休み、いつものベンチで暸があくびを一つ、満面の笑みでつぶやいたその時だった。
校内のスピーカーから、ガリッというマイクテストの音が響き、続いてどこか渋くて貫禄のある男性の声が、学園全体に流れた。
「――全校生徒、教職員の皆さん。こちら天叢雲学園 校長の天城蒼である。突然の放送で失礼するが、本日一つ、重大な発表がある。来週月曜日より、三日間の日程で『第一回 天叢雲学園 全校最強決定大会』を開催する!」
一瞬、校内全体が静まり返り、次の瞬間、どこからともなくどよめきが沸き起こった。
暸はパンをくわえたまま、ぽかんと空を見上げる。
「…は? 大会? なんだそりゃ?」
一、全校集会で明かされる 賞金1000万円の真実
その日の午後、全生徒と全教職員が学園最大のドームアリーナに集められた。数千人分の座席は埋め尽くされ、最前列には生徒会長の神無月凛を筆頭に四天王、そして白銀雫をはじめとする教師陣がずらりと並ぶ。壇上の中央には、白い髭を生やした小柄な老人が、にっこりと笑いながら立っていた。天城蒼校長――一見ただの穏やかなおじいさんに見えるが、実は天叢雲学園創設以来の歴代最強能力者の一人であり、今でも四天王全員を相手にして余裕で勝てるという伝説の持ち主だ。
天城校長はマイクを叩き、会場のどよめきを静めると、ゆっくりと大会の詳細を発表し始めた。
「今回の大会は、この学園に存在する者全員――最底辺のFランクの一年生から、最上位のZランクである生徒会長と四天王、さらには教師陣まで、例外なく全員が参加資格を持つ。真の実力主義を標榜する本学園において、『本当に一番強いのは誰か』を、改めて全校に示すための大会である!」
会場からどっと歓声が上がる。SランクやAランクの生徒たちは目を輝かせ、B以下の生徒たちは「俺たちにもチャンスがあるのか?」とざわめき、上級生たちは闘志に満ちた表情を浮かべる。
だが天城校長は、さらに会場の熱気を沸騰させる言葉を投げつけた。
「そして今回の優勝者には、こちらの特典を用意している!」
壇上の大型スクリーンがパッと点灯し、ゴージャスな文字で特典一覧が表示された。
【優勝者特典】
1. 賞金 1000万円 現金贈呈
2. 3年間 学園費用全額免除 + 毎月50万円の特別奨学金
3. 専用の独立寮(Sランクの二倍の広さ・温泉付き)を一生涯使用権
4. 白銀財閥をはじめとする世界的大企業の就職内定権
5. 学園内のあらゆる施設を24時間いつでも優先的に利用可能
6. 生徒会役員・四天王ポストへの挑戦権(希望すればいつでも最上位クラスに昇格)
7. 学園長との特別食事会 + 世界一周旅行ペアチケット
表示されるたびに、会場から「おおおお!!」「1000万!?」「夢ありすぎるだろ!!」という絶叫が上がる。男子生徒たちは賞金と就職権に目を血走らせ、女子生徒たちは独立寮と旅行チケットに歓声を上げ、中には「これで人生決まる!!」と泣き出す者まで現れる始末だった。
黒鉄剛は「1000万か…全部筋肉トレーニングの器具に変えてやる!」と拳をガシガシと鳴らし、天宮詩織は「旅行チケット~! ハワイに行きたい~!」とぴょんぴょん跳ね回り、氷室雪菜は「…別に欲しくはないが、負けるわけにはいかないわね」と冷ややかながらも瞳に闘志を宿らせる。御手洗叡智はタブレットで特典をスクロールしながら「データ上、優勝するメリットは計り知れない。戦略を立て直さねば」と冷静に分析し、神無月凛は静かに壇上の天城校長を見つめながら、「校長がここまで大掛かりな大会を開くのは…もしかして、あの『真の最強』を炙り出すため?」と心の中で推測していた。
教師陣の席では、他の教師たちが「四天王や白銀先生が相手じゃ、俺たちに勝ち目はないだろ…」と尻込みする中、ただ一人白銀雫だけが、静かにスクリーンの特典一覧を眺めていた。彼女の表情は相変わらず冷徹で、1000万円や世界一周旅行など、彼女の財閥令嬢としての身分からすれば何でもない金額だった。だが彼女の碧色の瞳の奥には、他の誰とも違う、ある一つの思いだけが渦巻いていた。
(この大会に、もしかしたら――あの人が現れるかもしれない…)
彼女の心臓が、小さく速く高鳴った。
二、Fクラスの二人 ~無関心な少年と、冷たい仮面の奥~
集会が終わり、暸はいち早く人混みから抜け出し、誰もいないFクラスの教室に逃げ込んだ。彼はドアに鍵をかけるように背中を押し当て、大きなため息を一つつく。
「やばい…やばいわこれ…」
彼の頭の中は、今しがた聞いた大会の話でいっぱいだった。といっても「1000万円欲しい!」とか「豪華特典が!」という興奮ではない。100%純粋な「めんどくさい」という感情だけが、彼の心を支配していた。
「全校生徒、教師まで全員参加? ふざけんなよ…俺はただ静かに寝てたいだけなのに、なんでこういうめんどくさいイベントがいきなり始まるんだよ…賞金1000万? 使い道もないし、お金があったって使う時間がもったいない。独立寮? 今のボロボロのF寮で十分だし、誰もいない方が快適なのに。就職権? 俺は別に大企業に勤めたいわけでもないし…」
暸は机に突っ伏し、両手で髪をぐちゃぐちゃにかきむしる。
「何より一番問題なのは、大会で能力を使わなきゃいけないことだ…適当に手加減して一回戦で負ければいいだけの話だけど、万が一手加減をミスって相手を吹き飛ばしでもしたら、その瞬間に俺の正体がバレる。バレたら最後、あのめんどくさい四天王や生徒会長が群がってくるし、もう平穏な生活は送れなくなる…最悪だわ…」
その時、ドアがカツンとノックされ、雫が無表情に教室に入ってきた。彼女は大会のしおりのような冊子をパラパラとめくりながら、暸の方をちらりと見るなり、いつもの冷たい声で言い渡した。
「高木。大会のエントリーは既に完了している。Fクラスの生徒はお前一人なので、代表として必ず全試合に出場してもらう。ルールはこれを読んでおけ。」
そう言うと、彼女は分厚いルールブックを暸の机の端にポンと置く。
「一応言っておくが、棄権は認められていない。理由の如何に関わらず、試合に出場しなかった場合は退学処分となる。覚悟しておけ。」
「…え? 退学!?」
暸は飛び上がるように顔を上げる。
「な、なんで棄権したら退学なんですか!? 俺、大会に出るメリットなんて一つもないんですけど! 1000万円も特典も何も欲しくないんで、適当に欠席させてくださいよ…」
雫は彼の言葉に、まるでゴミでも見るような冷たい視線を送りつけた。
「メリットがないから出ない? それがFランクの浅はかな考え方ね。この大会は、自分の実力を知り、上を目指すための絶好の機会なのよ。それを放棄するような人間は、この学園にいる価値すらない。それが校長先生の考えであり、私の考えでもあるわ。」
彼女は一歩前に踏み出し、より鋭い声で続ける。
「それに、あなたのようなFランクが優勝できる可能性など、最初からゼロに等しいのですから、ただ適当に一回戦で負けてくればいいだけの話でしょう? 一試合数分の我慢で、退学を免れるのですから、あなたにとっても悪い話ではないはずよ。」
(――あ! そうだった!)
暸の目が、パッと輝く。
そうだ。雫の言う通り、ただ一回戦で適当に負ければいいだけなのだ。誰も期待していないFランクの自分が、一回戦であっさり負けたところで、誰も驚かない。誰も疑わない。ただ数分間、適当に相手の攻撃を避けて、最後に「あーもうだめだ」と降参するか、リング外に出るだけ。それだけで大会とはおさらばできるのだ。
「そ、そうですね! 確かに! 一回戦で負けるだけなら、めんどくさくもないですね! 先生の言う通りです!」
暸は急に明るい声で答え、にっこりと笑う。
その突然の表情の変化に、雫は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに「どうせ落ちこぼれらしい、浅はかな了見ね」と心の中で吐き捨て、再び無表情に戻る。
「分かっているなら良いわ。それでは、来週月曜日の朝8時に、必ずアリーナに集合すること。遅刻した場合も退学処分よ。」
そう言い残すと、彼女は颯爽と教室を出て行った。
暸はドアが閉まるのを確認すると、再び机に突っ伏し、ガッツポーズを決める。
「やったー! なんだ、結局一回戦だけ出ればいいだけか! 適当に負けて速く終わらせて、その後は寮で三日間ずっと昼寝だわ! 最高! 1000万円も豪華特典も、俺には一切関係ない話! 平穏無事に乗り越えてやるぜ!!」
三、雫の乙女な夜 ~探し続ける人への想い~
その夜。
都内の高級住宅街の一角にそびえる、白銀財閥の本邸。白銀雫は自分の部屋の大きなベッドに腰を下ろし、一日の疲れをとるように肩を落とす。彼女はまずスーツの上着をハンガーにかけ、髪留めを外して白金のロングヘアを一気にほどく。鏡に映る自分の顔は、一日中張りつめていた冷徹な仮面が少しだけ緩み、普段は見せない少女のような柔らかさが滲み出ていた。
彼女はベッドに横になり、天井を眺める。すると、今日の大会の発表のことが、自然と頭に浮かんでくる。
(全校最強決定大会…教師も生徒も、全員が参加するのね…)
彼女の手が、自然とパジャマのポケットに伸びる。そこには、数ヶ月前に自分を救ってくれたあの少年の現場に落ちていた、小さな布切れが入っていた。ほつれた黒い制服の切れ端――彼が着ていたものと同じだと、彼女は信じて疑わなかった。
雫はそっと布切れを取り出し、頬に優しく押し当てる。すると、あの時の記憶が鮮やかに蘇ってくる。
厚い鉄の壁が紙のようにめくれ上がり、少年が面倒くさそうに現れた姿。ただ手をかざしただけで、10人を超える凶悪な能力者たちが次々と倒れていく光景。絶対的な力の前で、全てがひれ伏す様。そして、自分に「大丈夫か?」とだけ声をかけ、「ただの通りすがりだ。忘れてろ」と言い残して、いつの間にか消えてしまった彼の背中――。
「あなたは…今、どこにいるのかしら…」
雫の声は、いつもの冷たさとは打って変わって、甘くて少し震えていた。
(もし…この大会に、あなたが出てくれたらどうするかしら…?)
突然、彼女の頭の中に、一つの妄想が浮かぶ。
大会の決勝戦。アリーナ中の歓声が轟く中、一人の少年がゆっくりとリングに上がってくる。無気力で、どこか眠そうな表情。誰もが彼を見下し、嘲笑う中、彼はただ面倒くさそうにため息をつく。
相手は四天王全員を次々と打ち負かし、生徒会長の神無月凛さえも降参させた、最強の教師――つまり自分自身。雫が「あなたが、真の最強なのね…?」と問いかけると、少年は少しだけ口元を歪めて「まあ、なんだかんだでね」と答える。
スポットライトが彼一人を照らし、アリーナ全体が静まり返る。彼はゆっくりとこちらに向き直り、手を差し出して言う。
「ずっと探してくれてたんだろ? 白銀雫。――もう、探さなくていい。」
雫は思わず顔を真っ赤にして、布団をかぶって悶える。
「きゃあああああ!! なんなのよこの妄想! 恥ずかしい! 私がこんな子供じみたことを考えるなんて…!」
布団の中で、彼女は両手で熱くなった頬を覆い、足をばたばたとさせる。財閥令嬢として、そして最強クラスの能力者として、常に冷静沈着で誰にも弱みを見せない彼女が、この時ばかりはただの恋する十七代の少女に戻っていた。
(だけど…もし本当にそんなことがあったら…私はきっと…)
再びゆっくりと布団から顔を出し、彼女は天井を見つめながら、心の中でつぶやく。
「あなたが優勝したら、賞金も特典も全部あなたにあげるわ…白銀財閥の全てを使って、あなたが望むものは何でも手に入れてみせる…あなたがこれまで一人で背負ってきた全てを、私に分けてくれないかしら…強さだけじゃなく、弱さも、痛みも、全部…私が一緒に抱えてあげるから…」
碧色の瞳に、うっすらと涙が浮かぶ。彼女は再び布切れを胸に抱きしめ、ゆっくりとまぶたを閉じる。
「早く…私の前に現れて…お願いだから…」
その夜、雫は長い長い間、最愛の人の夢を見ながら眠りに落ちた。彼女はまだ知らない。自分がこんなにも心から探し求め、胸を焦がしている相手が、明日の朝もまた、Fクラスの教室で机に突っ伏してよだれを垂らしながら眠っている、たった一人のFランクの少年だということを。
四、各陣営の思惑 ~大会前夜~
大会まであと三日。学園全体は、すっかり大会ムードに包まれていた。廊下にはトーナメントの予想表が貼り出され、生徒たちは休み時間になると「誰が優勝するか」で議論を白熱させる。大半の予想は「生徒会長 神無月凛」か「四天王の誰か」、次いで「白銀雫先生」がトップを争い、Sランクの新入生たちがダークホースとして名前を挙げられていた。
生徒会室では、四天王と凛が作戦会議を開いていた。
「まあ、俺が優勝するに決まってるだろ! 1000万円全部トレーニング器具に突っ込んで、この学園で最強のジムを作ってやる!」黒鉄剛が豪快に笑いながら宣言する。
「あら? それはどうかしら? 私が優勝してハワイに行く方が、よっぽど可能性が高いと思うわ~」天宮詩織がべらんめえ調で対抗する。
「二人とも、静かに。今回の大会の目的は、優勝することよりも、あの『真の最強』を見つけ出すことの方が重要です。」御手洗叡智がタブレットを叩きながら冷静に割って入る。「校長先生がこのタイミングで全校参加の大会を開くのは、明らかに入学式の照明事件の犯人を炙り出すためでしょう。あれだけの力を持つ者が、この大会に出場すれば、必ずどこかで実力の欠片を見せるはずです。我々の任務は、大会の全試合を監視し、少しでも異常な能力の使い手を見つけ出すことにあります。」
「その通り。」神無月凛が静かに頷く。「優勝は二の次で構わない。ただし、もし本当にZランク以上の実力者が現れた場合、彼が敵対心を持っていないか、即座に判断する必要があります。万が一の事態に備え、我々5人は常に連携を取れるようにしておいてください。」
氷室雪菜が腕組みをしてつぶやく。
「だが、本当にそんな相手がこの学園にいるのかしら…? 入学式から一週間、誰も異常な気配を感じていないわ。もしかしたら、ただの設備の不具合だったのでは…?」
「それはないわ。」詩織が首を横に振る。「あの時の空気の歪み、私は絶対に感じたの。普通の人間には出せない、世界のルールごと書き換えるような、すごく大きな力だった。絶対にどこかに隠れてるわ。きっと大会で何かあると思うな~。」
一方、生徒会室の片隅で、掃除をしながら彼らの話を聞いていた男がいた。九条覇斗だ。嘘がバレてからというもの、彼は生徒会の雑用係として毎日掃除に反省文にと大忙しの日々を送っていた。だが彼の瞳には、すでに敗北感はなく、再び燃えるような闘志が宿っていた。
(ふん…今回の大会こそ、俺が真の実力を見せつけてやる! 一回戦から連続一撃KOで勝ち上がり、四天王、生徒会長、白銀先生を全部倒して優勝だ! そうすれば、前回の汚名も晴らせるし、きっと全校の女の子が俺に夢中になってくれる! 1000万円も手に入るし、いいことづくめだぜ! 覚悟しておけよ、天叢雲の強者ども――!)
彼はモップを持つ手に力を込め、にやりと悪戯っぽい笑みを浮かべた。嘘つきルーキーの再起をかけた戦いが、静かに始まろうとしていた。
五、大会開幕! ~Fランク、最初で最後の試合~
ついに大会初日の朝が来た。
ドームアリーナは朝から大入り満員。各ランクごとに色分けされたユニフォームを着た生徒たちが歓声を上げ、大型スクリーンには次々と試合の組み合わせが表示されていく。アリーナの中央には、厚さ1メートルの特殊合金で作られた正方形のリングが設置され、周りには能力の暴走を防ぐための最強のバリアが張られている。
天城校長の開会宣言の後、いよいよ一回戦のトーナメントが始まった。序盤は下級ランク同士の試合が続き、能力をぶつけ合う生徒たちの熱戦に、観客席は毎回どよめきと歓声に包まれる。中には見事な逆転劇や、予想外の新星が現れて、会場を沸かせる場面もあった。
そんな中、アリーナの一番端の、誰も気に留めない通路の床に、暸は体育座りをして、早くも眠りに落ちかけていた。
「…一回戦の俺の出番、まだかなあ…速く終わらせて寮に帰りてえ…」
彼のトーナメント上の位置は、一番最後の方。一日目の最終試合が、暸の出番だった。それまでの間、彼はずっとこうして隅っこで寝たり、空を眺めたりして時間を潰していた。周りの生徒たちが時折「あ、あいつがFランクの高木だ…」「一回戦でひどい目に遭うだろうな」とひそひそ話すのも、彼には全く気にならない。むしろ「そうだそうだ、俺はただのFランクの落ちこぼれだから、誰も期待するな」と心の中で頷くばかりだった。
やがて太陽が沈み、アリーナの照明が一層明るく輝く頃、アナウンサーの声が高らかに響いた。
「――それでは、一日目最終試合! 一回戦第78試合! 青コーナー Dランク 二年生 鎌田 猛! 赤コーナー Fランク 一年生 高木 暸!!」
どっと、会場から笑い声とどよめきが上がる。
鎌田猛――Dランクの中でもトップクラスの実力を持ち、腕っぷしには自信があると名高い二年生だ。身長2メートル近い巨漢が、ガンガンと床を踏み鳴らしながらリングに上がり、両手の拳をガシガシと打ち鳴らして観客にアピールする。対する暸は、あくびを一つつきながらゆっくりとリングに上がり、手も挙げずにただぼんやりと相手を眺めているだけ。
「おいおい、これは完全に虐げ試合だな!」「Fランクの一年生がDランクの鎌田に当たるなんて、運が悪すぎるだろ!」「一発で終わるなよ、せめて30秒は持ちこたえろよ!」
観客席の冷ややかな声が、暸の耳にもはっきりと届く。だが彼は全く動じない。むしろ、心の中でガッツポーズを決めていた。
(ラッキー! この相手なら、適当に手加減して負けるのも簡単だ! 作戦はこうだ――最初の30秒は相手の攻撃を適当に避けて、「こいつ、意外に動けるぞ?」くらいに思わせて、最後に大きくパンチを受けたふりをしてバランスを崩し、自ら吹っ飛んでリング外に転げ落ちる。これで完璧! 誰も疑わないし、めんどくさいことも何もない! よっしゃ、いくぞ!)
リング中央で、審判が両者の間に立ち、手を高く上げる。
「――よーい、スタート!!」
「ほらほら、Fランクの落ちこぼれめ! 俺の一発を真面目に受けてみろや!!」
鎌田が雄叫びを上げながら、全身の筋肉を隆起させ、右のストレートを暸の顔めがけて叩き込んでくる。風を切る音がはっきり聞こえる、Dランクトップの全力パンチだ。
暸は無意識のうちに、首をちょっとだけ横に傾げる。
――ヒュッ。
鎌田の拳は、暸の鼻の先をわずか1センチの隙間で通り過ぎた。
「…ん?」
鎌田が一瞬、目を見開く。だが暸は自分でも「よし、ちょうどいい感じに避けられた」と思っているだけで、その動きがどれだけ異常なものか、全く気づいていなかった。
相手の拳の速度、軌道、威力、全てを瞬時に読み取り、「避けるのに必要な最小限の分だけ」動く――それは、何千、何万という戦いを経験した最強の能力者だけが持つ、無意識の領域の動きだった。通常の人間なら、全力のパンチを1センチの隙間で避けようと思えば、少なからず体のどこかに緊張が走り、次の動きに遅れが出る。だが暸の体は、まるで風に吹かれてたなびく草のように、全く無駄な力が入っておらず、次の瞬間には既に次の攻撃に備えた体勢に戻っている。
「チッ、見逃したか! じゃあこれはどうだ!!」
鎌田は怒りを込めて、次々とパンチやキックを浴びせてくる。フック、アッパー、回し蹴り、ヒジ打ち――Dランクの実力者が繰り出す連続攻撃は、普通の人間なら一瞬で失神するほどの威力だ。
だが暸は、ただその場から一歩も動かずに、首を傾げ、肩を引き、腰をひねり、体をわずかにひらめかせるだけで、全ての攻撃をミリ単位の隙間でかわし続けた。
30秒が過ぎ、1分が過ぎる。
会場のどよめきは、いつしか静けさに変わっていた。
観客席の誰もが、口をぽかんと開けてリングの上を見つめている。鎌田の攻撃は、まるで風が岩の周りを分かれて流れていくかのように、暸の体には一切当たらない。一歩も動かないのに、全ての攻撃が自然と彼を避けていくかのように見えるのだ。
「…今の、なんだ?」「あのFランクの子、全然動いてないのに全部避けてる…?」「鎌田の攻撃、遅く見えるのは俺だけか? いや、あいつの動きがおかしい…!」
教師陣の席では、白銀雫が思わず身を乗り出していた。碧色の瞳が、いつもの冷たさを捨てて、驚きと疑問に輝いている。
「…あの動き…絶対にFランクの動きじゃないわ…無駄がなさすぎる…まるで、全ての攻撃を最初から知っているかのように…」
四天王の席では、御手洗叡智がタブレットの再生ボタンを連打し、コマ送りで暸の動きを解析しながら、声を潜める。
「…おかしい…体の中心が、全くぶれていない…こんな動き、Sランクでも不可能だ…詩織、お前はどう思う?」
隣の詩織は、いつもの笑顔を消し、真剣な表情で暸を見つめていた。
「…この人の気配、全然しないの。まるで、ここに存在していないかのように…だけど、動きはすごく速いの…なんなの、この人…?」
黒鉄剛は腕組みをして唸り、雪菜は唇をきつく結び、神無月凛は静かに指を組み、暸の一挙手一投足を見逃すまいと瞳を凝らしていた。
リングの上では、鎌田が次第にパニックになり始めていた。
「なんだよ…なんで当たらないんだよ!! このただの落ちこぼれめ! 」
彼は怒りのあまり、ついに能力を解放する。「筋肉強化」の能力で、さらに筋肉を隆起させ、拳を赤く熱く輝かせて、渾身の一撃を暸の胴体に叩き込んでくる。
「これで絶対に当ててやる――!!」
暸は心の中で「あ、これで終わりにしよう」と判断する。
(よし、このパンチをわざと少しだけかすらせて、その勢いでリング外に吹っ飛んだふりをすれば完璧だ! そうすれば「力負けした」ってことになるし、誰も疑わない! いくぞ――!)
暸はわざと体の力を抜き、相手のパンチが自分の服にかすめるように調整し、それから自分から大きく体を反らせて、まるで吹っ飛ばされたかのようにリングの外側に向かって倒れ込んでいく。
「――きゃあ!!」
暸はわざとらしい声を出しながら、バランスを崩し、ゆっくりとリングのロープを乗り越えて、外のマットの上にゴロンと転がり落ちた。
審判が驚いたように一歩下がり、次の瞬間、手を下ろして宣言する。
「――リングアウト!! 勝者 青コーナー 鎌田 猛!!」
会場は一瞬の沈黙の後、どっと沸き起こった。
「なんだよ、結局負けたのか!」「最後の最後で吹っ飛ばされたな…まあ、Fランクだからな」「あの動きは一体何だったんだ…? 気のせいか?」
大半の生徒たちは「結局最後は実力差が出た」と納得し、再び次の話題に移り始める。一部の者たちだけが、あの1分間の不可解な動きに疑問を抱きながらも、「鎌田が最後に本気を出したから終わった」という結果に、結局は疑問を飲み込んだ。
暸はマットの上に寝そべり、「あーあ、やっと終わったわ…めんどくさかった…」と心の中でため息をつきながら、ゆっくりと立ち上がる。作戦は大成功だ。誰も自分を疑ってはいない。これで大会とは完全におさらば。残りの二日間は、寮でずっと昼寝だけをして過ごせる。
彼は満面の笑みを浮かべ、ウキウキとアリーナの出口に向かって歩き始めた。
だが――その時。
彼の背後から、冷たく、それでいてわずかに震えたような、よく知る女性の声が呼び止めた。
「――高木暸。ちょっと、話があるわ。」
暸はびくりと肩を竦め、ゆっくりと振り返る。
そこに立っていたのは、白金の髪をなびかせ、碧色の瞳に今までに見たことのない複雑な感情――驚き、疑問、そしてわずかな期待――を宿らせた、白銀雫だった。
彼女は、彼の一連の動きを、最初から最後まで、一秒たりとも見逃さずに見つめていたのだ。
「今の試合…あなたは、最初から最後まで、全部『わざと』だったのね?」
暸の脳内で、「しまった――!!」という絶叫が響き渡った。
彼の「平穏無事な高校生活」は、大会初日の夜にして、再び最悪のカオスへと崩れ始めていた――。
(次回に続く)