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#ギャグ
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第五章 誤魔化しと高次元激突 ~校長の正体は未知数~
一、裏路地の弁解 ~最強の逃げ言葉~
アリーナの裏手、人気のないコンクリートの路地。
高木暸は背中を壁にもたれ、白銀雫の鋭い視線を浴びながら、内心「しまった…どうしよう…」と冷や汗をかいていた。だが顔には一切その焦りを出さず、相変わらず眠そうな半目で、あくびを一つわざとらしくつく。
「…何ですか、先生? 俺、負けたし、これから寮に帰って寝ようと思ってたんですけど。」
雫は一歩ずつ彼に近づき、碧色の瞳を一瞬たりとも逸らさない。今まで見たことのないほど真剣な表情で、低い声で問い詰める。
「先ほどの試合。鎌田の攻撃を1分間、一歩も動かずに全てミリ単位で避け続けた。あの動きは、Fランクの能力値では物理的に不可能よ。体の無駄な力が一切なく、攻撃の軌道を全て事前に把握しているかのようだった。――あなたは一体何者なの?」
(きたきたきた! ここでどうにかして誤魔化さないと、俺の平穏が終わる!)
暸は脳内をフル回転させる。彼は普段は全くやる気がないだけで、生まれつきの地頭は極めて良い。今まで何度も自分の力を隠すために、ありとあらゆる言い訳を考えてきた経験が、ここで生きる。
暸はまず、大きくため息をつき、「めんどくさいなあ…」という態度を全面に押し出してから、ぼそぼそと話し始めた。
「あーあ、やっぱり言われるかと思った。先生、それは単純な話なんですけど。俺、小さい頃からずっと弱かったもんだから、いつも周りの強い奴らに喧嘩を売られたり、いじめられたりしてたんですよ。」
彼はわざと少しだけ視線を伏せ、過去を思い出すような演技をする。
「だからさ、俺は昔から『戦うこと』だけは諦めてたんです。どうせ勝てないんだから。代わりに、とにかく『逃げること』『避けること』だけをひたすら練習してきたんですよ。何年も何年も、毎日毎日、殴られ続けて、やっと体に覚え込ませただけなんです。」
暸は肩を竦め、にっこりと笑う。その笑みは、どこか諦めにも似た、Fランクの落ちこぼれらしい哀しげな笑みに見えた。
「今回の試合だって、俺はただ『死にたくないから必死で避けてただけ』なんですよ。鎌田先輩のパンチ、当たったら絶対に骨折るじゃないですか。俺、痛いのは超嫌いなんで、必死になったらたまたま全部避けられただけ。運が良かっただけなんです。最後にリングアウトされたのが全てだと思ってくださいよ。結局実力差は歴然だったわけですし。」
論理的に筋が通っている。しかも、彼の態度があまりにも無関心で、「こんなことでいちいち問い詰めるなよ、めんどくさい」というオーラ全開なのが、逆に「もし本当に最強の能力者だったら、こんなにもつまらなそうにはしないだろう」という思考を雫の中に生み出す。
雫は一瞬、言葉を詰まらせる。
確かに――彼女が探している「世界最強の人」は、絶対的な力を持ちながらも、どこか大きくて包容力があって、暗闇の中で彼女を救い出してくれた、英雄のような存在だった。そのイメージと、目の前の、制服のボタンを一つ外し、あくびばかりついて、「寝たい」「めんどくさい」しか言わないFランクの少年が、どうしても重ならないのだ。
(そうよ…そんなはずないわ。あの人は、もっと…もっと違う人なの。この子はただ、逃げるのが上手いだけの可哀想な落ちこぼれなのよ…)
雫は自分で自分の疑いを打ち消そうとする。だが、それでもどこか心の奥に引っかかるものが残る。あの試合中の暸の動きは、単なる「練習したから」では説明できない、何か別次元のものだったのだ。
彼女は少しだけ視線を逸らし、再びいつもの冷徹な仮面を取り戻す。
「…分かったわ。そういうことなら、仕方ないわね。確かに、最後はあっさりと負けたし、Fランクとしては異常な行動はなかったのかもしれない。」
だが、次の瞬間、彼女は再び鋭い視線を暸に突きつけた。
「だが、一つだけ言っておく。もし万が一、あなたが何かを隠しているのだとしたら――私は絶対に見逃さないわ。この白銀雫の目を欺けると思わないで。」
そう言い残すと、彼女はスカートの裾をひるがえし、颯爽と路地を立ち去っていった。
暸は彼女の姿が見えなくなるまで待ち、それから壁に沿ってずるりと腰を下ろし、大きくため息をついた。
「…はあーあ、やばかったわ…あの先生、勘が鋭すぎるだろ…まあ、とりあえず今回は何とか誤魔化せたみたいだし、良しとしよう。これで俺は完全に大会とは無縁だ。残りの二日間は、寮でずっと寝て過ごすぞ――!」
彼はウキウキと立ち上がり、誰もいない路地で小さくガッツポーズを決めた。だが、彼は知らない。路地の二階の窓の陰から、白銀雫が彼のその無邪気な笑顔を、じっと見つめ続けていたことを。
(…やっぱり、何か違う。この子の笑顔、どこかで見たことがあるような気がするの…あの時の、あの人の…)
雫は胸の高鳴りを抑えながら、静かに窓から身を引いた。乙女の心は、今もまだ、誰かを探し続けていた。
二、大会二日目 四天王激突! ~氷vs筋肉、知恵vs幻~
翌朝。ドームアリーナは昨日以上の熱気に包まれていた。一回戦が終わり、残った実力者たちによる二回戦・準々決勝が行われる今日は、チケットは完売、立ち見まで出るほどの大盛況だった。
暸は例によってアリーナの一番端の床に体育座りをし、早くもまどろみ始めている。俺はもう負けた身だから、ここでただ見ているだけで良いのだ――彼はそう思っていた。
「――それでは、二回戦第12試合! 青コーナー Zランク 四天王第一位 黒鉄 剛! 赤コーナー 同じくZランク 四天王第二位 氷室 雪菜!!」
アナウンサーの声が響くと、会場全体が割れんばかりの歓声に包まれた。四天王同士の対決――これは大会開始前から最も注目されていたカードの一つだった。
リングに上がった黒鉄剛は、2メートルの巨体をゆすり、拳をガシガシと打ち鳴らして笑う。
「おおお! 雪菜! 久しぶりに本気でぶつかり合おうじゃねえか! 俺の全力、全部受けてみろよ!」
対する氷室雪菜は、銀髪をなびかせて静かにリングに上がり、無表情に黒鉄を見つめ返す。
「…馬鹿ね。あなたの筋肉なんて、一瞬で氷の塊にしてあげるわ。30秒で終わらせてあげるから、覚悟しなさい。」
「――よーい、スタート!!」
審判の合図と同時に、黒鉄が地面を蹴って一気に雪菜に襲いかかる。筋肉を限界まで隆起させ、空気を切り裂くような全力のストレートが、雪菜の顔面に叩き込まれる――その瞬間。
パチッ。
雪菜が指を鳴らすと、黒鉄の体の前に突然、厚さ1メートルの透明な氷の壁が出現した。黒鉄の拳は壁に直撃し、ゴウン! という轟音と共に氷が砕け散る――が、壁は砕けても次から次へと新しい氷の壁が生まれ、黒鉄の進路を塞ぎ続ける。
「ちぇっ! 氷で隠れてばっかりいないで、直接かかって来いよ雪菜!!」
黒鉄が怒鳴りながら、更に能力を解放する。ダメージを受ければ受けるほど筋力が上昇する彼の能力「身体強化・無限」が発動し、氷の破片で傷ついた彼の体は、見る見るうちに更に大きく、更に硬くなっていく。
「ほう…ならば、これはどうかしら?」
雪菜が静かに手をかざす。今度はリング全体の空気が一気に冷え切り、床から黒鉄の足元に向かって、一気に氷の蔓が伸びて彼の両足を凍りつかせる。さらに上空からは無数の氷の槍が雨あられと降り注ぎ、黒鉄の全身をめがけて突き刺さっていく。
「うおおおお!! こんなもの、俺の筋肉の前じゃ役に立たねえええ!!」
黒鉄が雄叫びを上げると、全身の筋肉が爆発的に膨れ上がり、足元の氷を木っ端みじんに砕き、降り注ぐ氷の槍を両腕でたたき落とす。彼の体は今や、戦車の装甲よりも硬くなっており、どんな氷の攻撃も彼の肌を傷つけることはできない。
「…馬鹿なのね。力だけが全てだと思ってる?」
雪菜が、珍しく唇を歪めて笑う。彼女は突然、両手を広げ、低い声で能力の名前を唱えた。
「――絶対零度・零域展開。」
次の瞬間。
リング全体が、まるで時間が止まったかのように、完全な静寂に包まれた。
黒鉄の動きが、ピタリと止まる。彼の体の周りだけでなく、彼の体を構成する分子の運動そのものが、雪菜の能力によって極限まで奪われていたのだ。どんなに筋力を上げても、分子が動かなければ体は一ミリも動かない。黒鉄はただ、目を見開いたまま、全身を凍りつかせて動けなくなっていた。
「10秒数えるわ。あなたの勝ちは、10秒以内にこの状態から動けたらね。――1、2、3…」
雪菜がゆっくりと指を折って数えていく。観客席は固唾を飲んで見守る。黒鉄の筋肉が、凍りついた体の中で、ビク、ビクとわずかに痙攣する。
「…8、9、10。――時間切れよ。」
雪菜が手を下ろすと、同時に能力が解除され、黒鉄はくたっとその場にへたり込んだ。
「くそっ…またお前に負けちまったのか…」黒鉄が苦笑いしながら地面に拳を叩きつける。「だが楽しかったぜ、雪菜! 次こそは絶対に勝ってやるからな!」
「…あら、次があると思ってるの? 馬鹿ね。」雪菜は相変わらず無表情だが、唇の端がわずかに上がっているのが見えた。
勝者は氷室雪菜。会場は、四天王同士のハイレベルすぎる戦いに、暫くの間、呆然とした静けさに包まれていた。
そして数時間後。次の注目カード、準々決勝が始まった。
「――準々決勝第3試合! 青コーナー Zランク 四天王第三位 御手洗 叡智! 赤コーナー 同じくZランク 四天王第四位 天宮 詩織!!」
眼鏡の知将と、天然の幻覚使い。これまた正反対の能力を持つ四天王同士の対決に、再び会場が沸く。
御手洗はタブレットを指で弾きながら、冷静に詩織を分析する。
「天宮詩織。能力『幻夢創造』。五感を完全に支配し、偽の現実を相手に信じ込ませる。対策は――まず、自分の五感を疑うこと。全ての情報を論理的に検証し、矛盾点があればそれが幻覚だと判断する。これで彼女の能力は無効化できるはずだ。」
一方の詩織は、ぴょんぴょんと跳ねながらにっこり笑う。
「えへへ~! 御手洗くん、頭が良すぎるのは悪い癖だよ~? そんなに論理ばっかり追いかけてると、いつの間にか私の世界に閉じ込められちゃうかもしれないよ~?」
「――スタート!!」
合図と同時に、詩織が指をパチンと鳴らす。
次の瞬間、御手洗の周りの景色が一変した。リングだった場所は見る見るうちに無限の宇宙空間に変わり、彼の体は無重力で浮かび、周りには何千、何万もの詩織の分身が現れて、四方八方から笑いかけてくる。
「ふん。所詮は幻覚だ。矛盾点を探せば――」
御手洗が冷静に周りを見渡す。すると、右側の詩織の髪の色が少しだけ違うことに気づき、「これが幻だ」と判断してそちらに歩き出す――だが、その瞬間、足元の宇宙が突然崩れ落ち、彼は真っ暗な底なしの穴に落ちていく感覚に襲われる。
「――っ!」
御手洗が慌てて視線を戻すと、今度は景色が元のリングに戻っている。だが、よく見ると審判の顔が詩織になっていたり、観客席の歓声が全部詩織の声に聞こえたり、自分の手の指の数がいつの間にか6本になっていたり――。
「おかしい…全ての情報に矛盾点がある。だが、矛盾点が多すぎて、逆にどれが本当の情報か分からなくなっている…!」
御手洗は額に汗を浮かべる。彼の戦略は「幻覚=矛盾点がある」だったのだが、詩織は逆に「全てに矛盾点を作ることで、論理的な判断そのものを麻痺させる」という高等戦術を使っていたのだ。頭で考えれば考えるほど、詩織の幻覚の中に深くはまり込んでいく。
「ほらほら~? どうしたの~? 御手洗くん、頭が混乱してきたでしょ~?」
詩織がゆっくりと彼に近づき、至近距離から指を彼の額に軽くタッチする。
「――じゃあ、最後のオマケ。今からここに、御手洗くんが一番怖いものを見せてあげる~?」
パチッ。
指を鳴らすと、御手洗の目の前に突然、分厚い数学の問題集が無限に積み上がっていく光景が現れた。彼が幼い頃、両親に強いられて一日1000ページ解かされた、トラウマの問題集だ。
「いやだ…これだけは…! いやだああああ!!」
御手洗が悲鳴を上げて、思わず後ろに飛び下がる。その瞬間、彼の背中がリングのロープに触れ、審判が声を上げた。
「――ロープタッチ! 3秒経過! 勝者 赤コーナー 天宮詩織!!」
パッと、全ての幻覚が消え去る。
御手洗は正気に戻り、自分がたった3分で詩織に敗北したことに呆然と立ち尽くす。詩織はぴょんぴょんと跳ねて彼の前に来て、ぺこりと頭を下げる。
「えへへ~! ごめんね御手洗くん? 頭の良い人って、頭で考えること自体に夢中になるから、幻覚にかかりやすいのよ~? 次はもっと面白いの見せてあげるね~!」
会場は、知将を論理ごと粉砕した詩織の能力の高さに、再びどよめきと歓声で包まれた。
こうして四天王同士の激闘は終わり、雪菜と詩織が勝ち上がる。だが、誰もが知っていた。この大会の最大の山場は、これから始まるのだと。
三、メインイベント 校長登場! ~未知数の力 vs 嘘つきルーキー~
「――それでは、本日最終試合! 準々決勝第5試合! 青コーナー Aランク 一年生 九条 覇斗! 赤コーナー 天叢雲学園 校長 天城 蒼!!」
アナウンサーの声が響いた瞬間、会場全体が静まり返った。
教師も参加する今回の大会、最強と名高い天城校長がついに登場するのだ。そして対戦相手は、入学式の嘘つき事件で一躍有名になった、Aランク最強のスーパールーキー九条覇斗。
リングに上がった九条は、相変わらず自信満々に胸を張り、校長を指さして宣言する。
「ハハハ! ついに俺の出番が来たぜ! 年寄りの校長だって、俺の重力操作の前じゃ赤子も同然だ! ここで勝って四天王に勝ち上がり、そして優勝して1000万円を手に入れてやる! 覚悟しておけよ、ジジイ!」
一方の天城蒼校長は、ゆっくりと杖をつきながらリングに上がる。小柄で白髪のおじいさんは、にっこりと穏やかな笑みを浮かべ、九条に向かって手を合わせる。
「まあまあ、そう怒らないでくださいな。若い力は見ていて嬉しいものです。さあ、好きなように攻撃してきてください。私はこの場から一歩も動きませんから。」
「――よーい、スタート!!」
「ほらほら! 年寄りには遠慮はいらねえ! まずはこれで目を覚ませ!!」
九条が能力を解放する。両手をかざすと、校長の周りの重力が通常の数十倍にまで高まり、校長の体を地面に押しつけようとする。通常の人間なら骨が砕けて失神するほどの重力だ。
だが――天城校長は、相変わらず穏やかな笑みを浮かべたまま、ピクリとも動かない。杖一つついて、まるで庭で散歩しているかのように、ただ静かに立っているだけだ。
「…ん? 効かねえのか? じゃあこれはどうだ!!」
九条は更に力を込め、重力を100倍、200倍と高めていく。リングの特殊合金の床が、校長の足元だけ悲鳴を上げて歪み始める。それでも校長は微動だにしない。
「おかしい…なんで動かねえんだ! じゃあ重力を逆にして、宇宙まで吹っ飛ばしてやる!!」
九条が手をひっくり返すと、今度は校長の周りだけ重力が完全に反転し、上向きの力が加わる。周りの観客の髪の毛までがふわりと浮き上がるほどの強力な反重力だ。
――だが、校長の足元からは、全く離れようとしない。むしろ、校長が杖で床をコンと軽く叩いただけで、九条のかけた反重力は、まるで何もなかったかのようにピタリと消え去った。
「…な、なんだよ…? 俺の能力が…効かない…?」
九条は顔色を変える。彼はAランクトップの実力者だ。今まで自分の能力が効かなかった相手など、四天王以外にいなかったのだ。
「じゃあ…これでも行ってみるか!! 重力場・最大解放!!」
九条が渾身の一撃を繰り出す。校長の体だけでなく、周りの空間ごと重力を圧縮し、校長を一点に押しつぶそうとする。リングのバリアが悲鳴を上げ、観客席まで衝撃波が伝わる。これは、四天王の黒鉄ですらまともに受ければ重傷を負うほどの一撃だった。
だが――。
煙が晴れると、そこには相変わらず笑顔の校長が、ピクリとも動かずに立っていた。服のシワ一つ、乱れていない。
「…もう、終わりですか? それとも、まだ何か攻撃がありますか?」
校長が穏やかな声で問いかける。九条はパニックになり、「嘘だろ! なんでなんでなんで!!」と叫びながら、重力の槍、重力の壁、重力の渦――ありとあらゆる技を校長に叩き込んでいく。
だが、どんな攻撃も校長の体の手前10センチのところで、まるで別の世界に吸い込まれたかのように、音もなく消え去っていくのだった。
会場は、完全なる沈黙に包まれていた。誰もが、今目の前で起きている光景を信じられずにいた。Aランクスーパールーキーの全力が、一人の老人によって、全く意味のないものにされてしまっているのだ。
ついに、力尽きた九条がひざまずく。
「…くそっ…俺の力が…全く通じない…一体、あんたは何なんだよ…」
天城校長は、ゆっくりと杖をつきながら九条の前まで歩み寄り、小さな手で彼の頭を優しく叩いた。
「私はただの校長ですよ。ただ、少しだけ『あらゆる力を元に戻す』のが得意なだけでね。若いうちは力に頼って生きるのも良いですが、いつか覚えておきなさい。この世界には、力ではどうにもならないものが、たくさんあるのですよ。」
そう言うと、校長は静かに手を上げた。
「審判君。彼はもう戦う力がありません。勝利は私の方でよろしいですかね?」
「あ、あっ…はい!! 勝者 赤コーナー 天城 蒼校長!!」
会場は、数秒の沈黙の後、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。今まで伝説として語り継がれていた校長の実力が、ついに白日の下に晒されたのだ。誰もが心の底から思っていた。
――この大会、校長が優勝するんじゃないだろうか…?
四、終わらない平穏 ~ただ一人、見つめている者~
大会二日目も無事に閉幕し、生徒たちがぞろぞろとアリーナを後にする中、暸は誰よりも早く出口に向かって足を運んでいた。
「はーあ、今日も一日めんどくさいのばっかりだったわ…四天王同士の戦いもすごかったけど、校長のジジイ、あれはチートだろ…あんなのと当たらなくて本当に良かった…俺は一回戦で負けて本当に正解だったわ!」
彼は満面の笑みで、明日の最終日も「寮で一日中寝る」計画を立てていた。もう誰も俺に注目しない。もう誰も俺の能力を疑わない。これで完全に平穏な日々が戻ってくる――。
だが、彼がアリーナの出口を出ようとしたその瞬間。
背後の、アリーナの最上階のVIP席の窓際から、たった一人の老人が、暸の背中をじっと見つめていた。
天城蒼校長だ。彼は今までの穏やかな笑みのまま、ただ暸の歩き去る姿を眺めている。その瞳の奥には、四天王や雫ですら感知できなかった、深い深い何かが宿っていた。
「…ふふっ。やはり、いましたね。この学園に、とんでもない大物が紛れ込んでいたとは。」
校長は杖で床をコンと叩き、にっこりと笑う。
「概念干渉…いや、それ以上の何かかね。入学式の照明を止めたのも、今日の試合でわざと負けたのも、全部あなたのお計画でしょう。私の『還元』の能力だけが、唯一あなたの気配を感じ取れるのですよ。」
校長はゆっくりと窓から身を引き、明日の最終日のトーナメント表に視線を落とす。
「さあ、明日の最終日、あなたはどうやって自分の平穏を守り通すのかな。それとも、ついにその力を見せてくれるのかな。――私は、とても楽しみにしていますよ、高木暸くん。」
夜の風がアリーナに吹き込み、校長の白い髪をそっとなびかせた。
最強の落ちこぼれと、最強の校長。二人の知られざる闘いは、今、静かに始まろうとしていた――。
(次回に続く)
コメント
1件
あ、第5話読み終わりました!暸くん、白銀先生の追及をあの演技でかわすところ、めっちゃヒヤヒヤしました…「逃げることだけ練習してきた」って、あんなに哀しげに言われたら先生も疑いきれないですよね。でも最後の校長の「概念干渉…いやそれ以上」って台詞がすごく気になる…!暸くんの正体、ますます知りたくなりました。四天王同士の戦いも迫力あって、特に詩織ちゃんの「論理ごと幻覚に巻き込む」戦法が面白かったです。次の話も絶対読みますね!