TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する




あの監獄から出て、数日が経った。その間も反逆の準備は着々と進んでいて、俺だけが取り残されていた。ら民は昔と変わらずふざけながらも仕事はしっかりして、運営は面会に来ていた時より生き生きとしていて楽しそうだった。

俺だけが隅の方でうずくまっている。

「……らっだぁ、大丈夫?」

「…ぶるちゃん…」

俺の横にストンと座り、労りの言葉をかけてきたのはぶるちゃん。優しげな声とマイペースな性格とは裏腹に、運営を含めたら民で1・2を争う実力者だ。

話しかけてくれたのは嬉しいが、今は誰とも話す気分ではない。彼を一瞥してもう一度腕の中に顔を埋める。それに対して何も言わずに頭を撫でる彼の手は優しくて、今まで溜めていたものが全部溢れ出してしまいそうだ。

「……らっだぁは、嫌なの?」

「………」

「…俺はらっだぁにあんな扱いをした帝国を許さないよ、多分皆そう。

…でも、らっだぁは優しいから、嫌なんだね」

「………俺が嫌なのは、反逆じゃなくて、みんなが傷つくことだよ。帝国を相手にするなら、無傷で帰ることは不可能じゃん」

「………」

ぶるちゃんは俺の意見に否定も肯定もしなかった。ただ、何も言わずに話を聞いてくれた。

俺が何を言ったところでもう引けないところまで来てる。だから無意味だと思っただけかもしれないけど。

「……ねぇ、こばこださんは?」

声をあげたのはみこだよ。彼も相当な実力者で、ぶるちゃんと対等だと言えるほどだ。

それより、こばこだ?…確かに、つい数時間前まで俺の傍にいたはずだ。そういえば、最近彼を見ないことが増えた。…この軍隊に必要不可欠な男を誰も認識しないなんてことはないだろう。──それこそ、彼が本気で気配を消したりしなければ。

俺がそう考えたところで、同じ考えに至ったであろうみどりくんの瞳が怪しく揺れる。

まずい、まずい、まずい!こばこだが傷つくなんてことはあってはならない。あの子がどこで何をしているのかなんて知らないが、あの子を守る義務が俺にはある。

「こばこだなら、俺がおつかい頼んだけど?」

「……オツカイ?」

「うん。昔俺が気に入ってたクッション、どこにやったの?って聞いたら、こばこだが自分が持ってるから持ってこようか?って」

「…なら、ええわ」

きょーさんの興味がこばこだから逸れた。みどりくんはきっとまだ警戒しているだろうが、一旦アリバイができればいい。他のら民も各々作業に戻っていて、俺は1人ほっと胸を撫で下ろした。

「……嘘つき。そんなこと頼んでないくせに」

「へっ」

ぶるちゃんがそうボソッと呟いて、じゃあ俺も仕事するからと腰を上げて歩いていく。その後注意深く彼を監視していたが、そのことを彼が誰かに話した様子もなく、もやもやを抱えたままとりあえず頭の隅に追いやることにした。


「どうも」

「うぉあッッ!?」

突然上から降ってきた声に、自分でも過剰だと思うような反応をしてしまったため彼に視線が集まる。見上げた先には俺の声に驚いたのか目を丸くし、耳を塞ぐこばこだが立っていて、勿論その手にはクッションなんて物は握られていなかった。これでは俺のでっちあげたアリバイが寧ろ不信感を募らせるだけだ。

「こば───」

「こばさん、ごめんらっだぁのクッション俺が持ち出したんだよね。言えば良かった。無駄足踏ませてごめん」

「え?…あぁ、どうりで探しても見つからないと思いました。ぶるちゃんさんが持ってたんですね」

「うん。どうするらっだぁ、俺持ってきても良いけど」

「……いや…別に、わざわざいい…」

「そっか。了解」

俺が声をかける前にぶるちゃんがこばこだに話しかけた。こばこだは一瞬で意図を理解して返事を返す。さすが俺のこばこだ。……違う、今はそこじゃない。何でだぶるちゃん。俺が視線を送ると、それに気づいたぶるちゃんは華麗なウインクを返してきた。イケメンだなこんちくしょう。

「……今のは…」

「ごめん、俺が勝手に言った。こばこだがいないって怪しまれてたから…」

「なるほど、ありがとうございます。…ぶるちゃんさんは、何で僕のこと庇ったんでしょう?」

「俺もわかんない〜〜…」

ぶるちゃんに関しては本当にわからない。敵なのか味方なのか……いや、もう敵が誰で味方が誰なのかもよくわかっていないのだからそりゃあそうなのだけど。運営&ら民は、俺のために動いてくれてるけど俺の願いとは違う動きをしてる。ぐちつぼ達は俺らを捕まえようとはしてるけど…って感じなんだよなぁ。

……ぐちつぼ、元気かな。運営の謎の意図で生かされたぐちつぼ。なぜ殺さなかったのか、俺に教えてはくれなかったけど、でもあいつが死んだら俺は多分何もできなくなっていた気がする。……俺の、唯一の希望。

「らっだぁ、ちょっと空気吸いに行かない?ずっと地下生活だから息詰まっちゃって」

「……いいよ」

考え事をしながら目を伏せていたら声をかけられる。ゆっくり瞼を開けると、にこにこと微笑む胡散臭い紺色が立っていた。彼の提案に二つ返事で返し、立ち上がる時にビキと体が悲鳴をあげたことで今日1日動いていなかったことを思い出した。

久しぶりの地上の空気は澄み渡っていて、俺も無意識下で詰めていた息を吐き出した。風が少し強くて、整えていない長い前髪が視界を塞ぐ。

「あははっ、らっだぁそれ前見えてる?」

「見えてない!まぁ手で抑えればなんとか…」

「はぁ〜…疲れちゃったなぁ」

「……疲れるならやめればいいのに」

「…俺、らっだぁが捕まってから士官学校の理事長務めてたんだけどさ、そこ本っ当につまんないの。

らっだぁの技術を知ってるから誰の動きを見てもすごいと思わないし、らっだぁの優しさを知ってるから誰のことも尊敬できないし、らっだぁの……」

「やめて、コンちゃん」

「……だから、理事長は疲れる上につまんなくて、本当に嫌だった。でも今は疲れてもそこに達成感とかがあるから寧ろ気持ちいいんだ」

そう語るコンちゃんは本当に楽しそうで、こんなことやめて欲しいなんて言えるわけもなかった。理事長やってるコンちゃんが、どんどん笑わなくなっていったのもこの目で見てきたし。

「……ねぇ、コンちゃん。ら民に、スパイがいたらどうする?」

「殺すに決まってる」

こちらを真っ直ぐ見据えて、笑顔を崩さないままのコンちゃん。その目は俺への執着や愛情や憎悪がごちゃ混ぜになっていた。

「……そっか」

自分で質問しておいて、返事の仕方がわからなかった。コイツらがこんな風になってしまったのは、俺のせいだ。なら、俺が終わらせてあげなきゃ。

loading

この作品はいかがでしたか?

801

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚