タクシーを降りると真琴が聞いてきた。
「相手は銃も含めて完全武装で待ち構えていると思われます。陛下はいったいどんな武器を用意してきたのですか? やはり陛下も銃で対抗しますか?」
「そんなことが気になるのか?」
「わたくしの戦い方はすべて陛下の戦闘を間近で見て学んで身につけたものですから」
「もちろん武器なら用意してある。キッチンにちょうどいい物があったからそれを持ってきた」
「さすが陛下のご自宅だけあって、キッチンにも銃が装備されてるのですね」
そんなわけはない。わが家は普通のサラリーマン家庭だ。
「特別に見せてやる。これだ」
余が懐から取り出したものを見て、真琴はしばらく沈黙した。
「それで戦うのですか?」
「そう言ってるだろう」
「冗談ではなく……?」
余が取り出したものは刃渡り十センチほどの折りたたみ式の小さなフルーツナイフ。
「人殺しだって躊躇しない敵と戦うんですよ。リンゴの皮をむくようには簡単にいきませんよ」
「余にとっては敵を切り刻むよりもリンゴの皮をむく方が難しい。魔王時代、リンゴの皮はむいてもらうばかりで、一度も自分でむいたことがないからだ」
「そういう話でなく、たくさんの銃にフルーツナイフ一本で立ち向かうなんて、自殺しに行くのと同じです」
「余が負けると思うならついてこなくてもよい」
「いえ。陛下とわたくしは一心同体。死ぬときはいっしょです」
真琴は悲壮な表情。それはいいが一心同体は勘弁してほしい。余が傷ついて二人きりになったらまた襲われるかもしれない。それだけは避けなければ!
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