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MKhmr3
#BL
鎖音が夜の静寂を引き裂いた。イースラン・マルコムは暗い牢の隅で身を縮める。
鉄製の手枷が冷たい肌に食い込み、その痛みだけが現実だと思い知らせた。窓枠の隙間から差し込む月明かりが、埃まみれの石壁を青白く照らしている。
今夜は満月だった。空は澄み渡り、星々が冷たく輝いている。
「起きろ!出番だ」
粗暴な声と共に鍵束が鳴った。檻の扉が軋む音と共に開かれ、二人の男が松明を持って入ってくる。彼らの手には長剣があり、その刃先が不気味な光を放っていた。
「足を引っ張るなよ、お前みたいなガキが一番高く売れるんだからな」
一人が皮肉っぽく笑う。イースランは顔を上げた。優しげな面立ちが奴隷商の目に留まったようだ。
「良い目をしている。金持ちの貴族好みだ」
その言葉にイースランの胸が締め付けられた。優しい心を持つ彼にとって、これから始まるであろう運命を考えると吐き気がする。だが同時に、彼の脳裏に閃光のようなイメージが走ったそれは彼の持つ「未来を見る力」の発露だった。
市場の中央広場に立つ自分。周囲には人ごみ。そして……三人の男たち。黒髪の大柄な男、鋭い眼差しの細身の若者、そして……。
「行くぞ!」
思考を遮られ、イースランは二人の男に連れられて小さな小屋の外に出た。夜気が肌を刺すように冷たい。村の市場広場には既に何台もの荷馬車が並んでおり、それぞれに人間が詰め込まれていた。
その時、再びあの予見的なビジョンが襲ってくる。アルバートという名前の男。冷酷無慈悲と言われる軍師。たくさんの人間を殺してきたはずなのに、なぜか今はどこか懐かしそうな表情をしている。
そしてイースラン自身が奴隷としてではなく、彼の「道具」として使われる未来が見えた。
「これは……どういう意味なんだ?」
イースランの呟きは誰にも聞こえない。しかし彼の中で何かが確信に変わっていく。この苦難は終わらないかもしれないが、単なる奴隷人生ではない何かが待っていると。
「おい!ぼーっとするな!」
一人の奴隷商人が鞭を振るった。恐怖が走る。でも……。
「大丈夫です。急ぎます」
思いがけない冷静さで答えると、商人は少し驚いたように眉を上げた。
「変わったガキだな」と呟きつつ、イースランを大きな荷馬車に押し込んだ。すでに十数人の男女が木箱の中に詰め込まれている。
「明日の朝まで我慢しろ。明日は王都の競売だからな」
そう言って男たちは去っていった。馬車の中は息苦しく、暗い。人々の嘆きや祈りの声が混ざり合う中、イースランは壁に背を預けた。瞼を閉じると再びビジョンが訪れた。
今度はもっと鮮明だった。自分が確かにアルバートのもとにいる姿。そして傍らには二人の若者、フィリップとレオナルドだろう。フィリップは薄い唇を持ち、常に本を携えている。レオナルドはまだ十二歳らしいが、大人顔負けの知性を感じさせる少年だ。
「アルバート様、新しい道具を見つけました」
声が聞こえたような気がした。しかし、イースランはアルバートの表情を見て息を飲んだ。冷徹さの下に、どこか哀しみが隠れているような目だ。
「使い道があるのか?」
アルバートの声は低く、威厳があった。
「はい。私の……特別な才能が役立つと思います」
そこでビジョンは途切れた。
イースランは深く息を吸う。奴隷として売られることが決まっても、希望を見出すことにしていた。未来を見る能力こそが彼の唯一の武器であり、生き延びる術だ。
ふと、荷馬車の扉がわずかに開いていたことに気づいた。脱走のチャンスかもしれない。しかし周囲を確認すると、武装した警備兵が見回りをしている。迂闊には動けない。
「今じゃない」
イースランはそっと自分に言い聞かせた。もっと好機が来るはずだと信じて。
彼は自分の右手の甲にある生まれつきの痣を見つめた。星形のような不思議な模様。古くからの伝説によれば、これは「選ばれし者」の印だと聞いたことがある。もちろん今の境遇では笑い話だ。
しかし本当に未来を変えられるなら……。
馬車が揺れ始めた。村を出発するようだ。遠ざかる故郷の景色を思い出しながら、イースランは決意を新たにした。たとえ奴隷になろうとも、ただ従うだけの人生にはしない。
星空の下、長い旅路が始まる。
コメント
1件
第1話読了!冒頭の鎖音と牢の描写がもう引き込まれたわ。イースランの未来視、まだぼんやりしてるけど「ただの奴隷じゃ終わらない」って予感がしてめちゃくちゃ気になる。特に軍師アルバートの哀しみ含んだ目が印象的。痣の設定も「選ばれし者」フラグっぽくてワクワクした。脱走は今じゃないって冷静なところも好印象。続き、アルバートとどう関わっていくのかすごい気になる🔥