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同期で仲良くしたいと思った人に舌打ちをされた。
私は少し酔っていたのかもしれない。振り向いてまた近寄って、
「なんなの? 自分が仕事ができるから同期なんていらないって?」
と喧嘩を売るようなことを言ってしまった。人のこと責めておいてなんだけど、私もいつもみんなに優しくされているのが当たり前になっていたので、やっぱりちょっと傲慢になっていたのかも。
彼はいきなり怒鳴られて驚いているようだった。
私は追い打ちをかけるように、
「モテモテで話しかけてくる女は自分に気があるとか思ってるんですかね。私は違いますからご安心くださーい」
と言って走って席に戻った。ちょっと言いすぎたかなと、ちょっとビビったのでダッシュで戻った。
その後、歓迎会は無事終わり、私はこの先もチヤホヤされながらカラオケとか行きたくなかったので、
「酔ってしまったかもしれません。そろそろ帰ります」
と可愛く言った。そしたらみんな、
「そうか、気をつけて帰るんだぞ」
「水分取れよ」
などとたくさんアドバイスをくれて、快く見送ってくれた。
ここで「送っていく」なんて無理してついてくるような人がいないのが救い。お父さんたちはジェントルマンなのだ。
例の彼は二次会にも連れて行かれたようだ。
私は家に帰り、お風呂に入ってリラックスしていた。サアヤとコトリは普通にしてくれているけど、その他のほとんどの人にチヤホヤされて、一人になりたいと思うことが増えた。
もう彼氏とかどうでもいい。もちろん強がりだけど。
お風呂から出てスマホを見ると、一つ後輩のユキちゃんからメッセージが来ていた。
「先輩〜(ハート)横山さんヤバいでしゅ!」
あの男がどうした? 私は返信した。
「どしたの? 何かあった?」
数秒後に返信が来た。
「なんか目が離せないって言うか、他の先輩方も言ってるんですが、すごく格好良く見えるんですよ! 私彼ぴいるのにぃ」
なんじゃそりゃ。普通に見た目良くて仕事できて、愛想も悪くない。そりゃモテるだろうけど……そんなに?
あれ? なんだか、自分と近い状態なんじゃないかと思った。
嫌なやつだけど、同期のよしみで少しだけ心配してあげた。
「他の男性社員から嫌な目で見られてない?」
「今のところ、大丈夫みたいっす。男の先輩をたてるのも上手っぽいっすよー」
そう。良かった。いきなりトラブルは迷惑だし、モテるのは本人のせいじゃないから可哀想だしね。
とりあえず、私は来週から彼にはあまり関わらないように仕事を頑張ろうと誓った。
誓ったのだが……
翌週から、私はいつもお世話になっている直属の上司と、横山と三人で組んで若い男女がターゲットの香りにまつわるイベントの企画を任されることになった。
とりあえずの私たちの仕事は大まかな企画を考えたり、それを実現するために若い人たちの意見をまとめたり、データ集めをして上に上げることだ。会議などのデスク仕事半分、外回り半分といったところか。
私にとっては大きめの仕事に絡めて嬉しいことだし、横山にとっては小手調べ的な仕事なのだろう。
先日のこともあり、やりづらくないといいなと思いながら仕事は始まったけど、割と普通に日々は過ぎて行った。
なんと言っても、私の上司はいい人だから、私のことも横山のことも上手く持ち上げて気持ちよく仕事をさせてくれる。私もいつかこんな上司になりたいと思える男性である。時々お父さんになるけど。
驚いたことに、課長のお父さんぶりは私にだけではなく横山にも向けられていた。横山も少し戸惑いつつも、いい上司に当たったと思っているんだと思う。異動してきた時より表情が柔らかくなったように見える。
それにはもう一つ理由があって、たぶんだけど、チヤホヤしてくる女性たちのほとんどに下心がないことがわかったからだと思う。既婚者も多かったし。
「ただみんな優しくて親切」
彼はどう思っているんだろう。普通に話せるようになったら聞いてみたいものだ。
ある晩、夢を見た。知らない村での大宴会中。私は怯えている。でも涙を見せないよう、笑顔を絶やさないよう、気をつけて中央の上座と思われる席に座っている。
下座に座る若い女性が数人泣いている。そのうちの一人が私の妹だ。宴会の後、泣きじゃくる彼女を抱きしめて「幸せになって」と告げて、私は牢へと入っていった。逃げたりなんてしないのに。私の愛する人は私の妹とそう遠くない未来で結ばれるだろう。私は幸せだ。
目が覚めてもずっとベッドから出られないでいた。あれは夢じゃない。記憶だ。これから大勢の大切な人たちのために死出の旅へ出る前夜の記憶。
妹は幸せに一生を終えたのかなぁと思った。そうじゃなきゃ嫌だと、今の私が思った。
そんなセンチメンタルな気分で会社へ着くと、今日は横山と二人で街へ出てアンケートを取ってきて欲しいと言われた。ネットではなく、実際に若い人に直接聞いたリアリティのある資料を出したいとのこと。
私たちは、お互い黙ったまま会社の玄関を出た。受付の人たちが私たち二人に小さく手を振ってきた。二人で同じように軽く会釈をして外に出た。
そして、同時にため息をついた。
「あのさぁ」
横山が話を切り出してきた。
「はい?」
「歓迎会の日のことなんだけど」
「なに?」
「感じ悪くしてごめん」
「……ちなみになんで舌打ちを?」
「……」
「言っちゃいなよ」
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