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『わたしの脳みそをたべないで』
目がさめた。 目がさめた。 目がさめた。
目がさめた。 目がさめた。 目がさめた。 目がさめた。
どこまでが夢で、どこまでが私?
朝ごはんは脳みそ。ママが笑って出してきた。 「あったかいうちに食べなさいね」 ありがとうって言ってスプーンでほじくったら、自分の記憶が出てきた。 幼稚園で転んだこと、初潮がきた日、猫を殺した夜。
「おいしいねぇ」
パパがテレビの中で首を吊っていた。 画面越しにこっち見て笑ってる。 「お前がうまくいかないのは、お前のせいだよ」 「でも、俺は愛してたよ、だから死ぬんだよ」 わたし、笑えなかった。 口角が引きちぎれて血が出た。 舌が歯を噛み砕いて、歯がのどに詰まって、苦しかった。
それでも学校に行かなきゃ。 行かなきゃ、行かなきゃ、行かなきゃ。
外に出たら道が溶けてた。 アスファルトが心臓みたいに脈打って、叫んでる。「踏むな、踏むな、踏むなよぉ!」 仕方ないから空を歩いた。 雲の上で知らない子どもたちが自分の顔で遊んでた。 「これがあたしの顔〜」 「こっちは、泣いてるあたし〜」 「これが、ママに殴られたときの顔〜」
空が爆発した。 鳥が降ってきた。翼の代わりにハサミをもってた。 私の目をくりぬこうとしてくる。逃げても無駄。 だって私の中にいるんだもん。 目をつぶっても、見えてる。 まぶたの裏に、首を吊った私がいる。 ベロをだして、笑ってる。「わたし、きれい?」
いいえ。
でも、でも、でも、
「死んだら、静かになる?」
誰か教えて。 誰か、だれか、だれか、わたしの名前を呼んで。 わたしがここにいるって、わかって。
……ダメだ。耳の穴から虫がはいってきて、脳を食べてる。
ああ、たべて。ぜんぶ。 思い出も、傷も、声も、悲鳴も、あの人の顔も。
わたし、 もういらない。
いらないいらないいらないいらない
「いらない」
目の前に現れたのは、首のない自分だった。 手にナイフをもって、でも笑ってた。 「ありがとうって言ってよ」
わたしも笑った。
「ありがとう」
ナイフが胸に入った瞬間、世界はパチンと割れて、
――ぜんぶ、きこえなくなった。