「はー、今日は疲れたぁ~……」
ぼふん、と宿屋のベッドに飛び込んでいく。
鉱山を少し見て帰ろうと思っていただけなのに、まさか崩落事故に出くわすとは……。
ナイフを持った男にも襲われたし、何故かジェラードにも出くわしたりと、本当によく分からない展開だったなぁ……。
「……あ。そういえば服、ちょっと汚れちゃったかな」
何だかんだで、土埃がたくさん付いていたことをすっかり忘れていた。
時すでに遅し。
ベッドも少し汚れたし、掃除と洗濯をしないと――
……とかやってたら、時間は15時をまわってしまった。
そういえば昼食を食べ損ねていたので、宿屋の食堂に行ってみる。
厨房は片付けの真っ最中だったけど、残った食材でサンドイッチを作ってもらえた。
さて……腹ごしらえも終わったし、そろそろ錬金術のあれこれでもしようかな?
今ある素材で作れるものは――
……と、『創造才覚<錬金術>』に意識を傾けながら思いを巡らせる。
ちなみに『創造才覚<錬金術>』を使ったときの脳内イメージは、作れるものが一覧のようにズラーっと並ぶ――
……のではなくて、使う素材をいちいち意識しなければいけない。
そして、作りたいものを大まかにイメージすることで、持っている素材から作れるものが浮かび上がってくる……といった具合だ。
そのため、素材から何を作れるのかを確認するだけでも、それなりに時間が掛かってしまうのだ。
……そういえば、ジェラードの右腕は『右腕可動障害(極)』だったっけ?
あれって治せるのかなぁ……?
ルイサさんとアイーシャさんは『歩行障害(小)』だったから、障害の度合いが違うんだよね。
えーっと、それじゃ『創造才覚<錬金術>』で――
……あ、作れるわ。
錬金術ってすごーい……。
――さてさて、他には何か作れるものは無いかな?
頭に浮かんだイメージを追っていくと、『アイアンリング』なるものが浮かんできた。
アイアンリング……鉄の指輪?
もしかして、彫金技術を持っていなくても指輪が作れるのかな?
いいじゃんいいじゃん、やってみよー!
「れんきーん!」
バチッ
いつもの音と共に、右手の上には小さい指輪が出来上がる。
「おお、凄い!」
自分の指をイメージして作ったせいか、サイズもぴったりだ。
それにデザインも、かなりシンプルなものでなかなか――
「……シンプルすぎる」
気を取り直して、次はもう少しデザイン性のあるものを作ってみることにした。
えぇっと……天使の羽でも付けてみようかな?
「れんきーん!」
バチッ
右手の上には小さい指輪が出来上がった……のだが、何やら形状が不安定だ。
「これ、天使の羽というか……何だろう?」
もはや何を表現したいのか分からない『でっぱり』が、シンプルな指輪にくっついていた。
「もしかして、装飾品を作れはするけど――
……デザインは上手くできない、ってこと?」
とすると、もしかして――
「超豪華なアイアンダガーを……れんきんッ!!」
バチッ
おもむろに武器を作ってみる。
材料の都合でダガーくらいしか出来なかったのだが――
……完成したのは、柄の部分に何やら変なでこぼこが付いたダガーだった。
「これはもしかして……、まずいかもしれない」
私の旅の目的は、神器を作ることである。
一番最初は剣が良いかな、とは思っているんだけど――
……もしかして、装飾が無いものしか作れなかったりする?
装飾が無い剣というと、武器屋に置いてある一番安い武器……のような感じだろうか。
さすがにそんな見た目で、『神器』とは名乗らせたくないよね……。
いや、大切なのは性能なんだけど、でもやっぱりデザインにもこだわりたいわけで……!
うーん、参った。
装飾が立派に出来ないなら、神器とかどうでも良くなってきたぞ……?
ここにきて、謎のモチベーションダウンである。これはまずい。
……よし、ここは一旦置いておこう。
他にやりようがあるかもしれないし、神器の件は今度にしよう。
そもそも神器を作るにしても、素材だって全然分からないわけだし――
……あ。そういえば先日、ミスリルの指輪を見たんだよね。
指輪の一部が純粋なミスリルだったから、もしかして素材が分かったりするのかな?
えーっと、ミスリルのところだけ思い出して……『創造才覚<錬金術>』!!
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【『ミスリル』の作成に必要なアイテム】
・賢者の石×1
・銀×1
・特殊条件<魔力>
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出来た……!!
……けど、『賢者の石』が必要だああああああああああ!!
賢者の石ってあれだよね、ファンタジーでお馴染みの『他の物質から金を作り出す』ってやつ。
由来や物語次第では別の解釈があるみたいだけど、基本的にはそんなところだったと思う。
さすがにそんなレベルのアイテムを素材にするんじゃ、すぐに作れるわけはないよね。
……ちなみにこれは勘だけど、このパターンでいくと……『オリハルコン』は『賢者の石』と『金』が必要になるんじゃないかな……?
いや、何となくだけど……滅茶苦茶ありそう。
と、それは置いておいて、ミスリルはやっぱり採掘で手に入れるしかない……?
でも、それが一番早そうだなぁ……。
――さて、他には何か作れるものは無いかな。
……。
……。
うん? 何か『ダイアモンド原石』って浮かんでくるな……。
確かダイアモンドって、炭素の塊なんだよね。
普通の炭と同じ元素で出来ているんだけど、その並び方がちょっと違う……って感じだったっけ?
どれどれ、素材は何かな……『創造才覚<錬金術>』!
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【『ダイアモンド原石』の作成に必要なアイテム】
・炭系列の素材
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――……え、本当に作れるの?
「れんきーん?」
バチッ
その瞬間、私の右手には重い塊が作り出された。
恐る恐る見てみると……大きなダイアモンド原石が、右手の上に堂々と乗っている。
「――……あれぇ?
もしかして、もう金策しないで良いんじゃないかな……?」
私は一人、ダイアモンド原石を見ながら目を丸くしていた。