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#4 君からの手紙
omr side
涼ちゃんがいなくなってからの世界は、思っていたよりもずっと冷たくて、重かった。
朝が来ても、胸の奥の暗闇は消えないし、夜になれば怖いくらい静まり返る。
スタジオにも行けなかった。ギターも触れられなかった。
触れるだけで思い出してしまう。涼ちゃんと一緒に笑った景色も、泣きながら音を作った夜も。
それが、全部遠いところへ行ってしまった気がして。
何度も思った。「俺はもう歌えないかもしれない」って。
若井からは何度も連絡が来たけど、返せなかった。
声を聞くのが怖かった。
誰かと話したら、本当に涼ちゃんがいないことを認めることになりそうで。
でも、時間だけは止まってくれなかった。
そんなある日、俺はふと涼ちゃんの家に行ってみた。
理由なんてなかった。ただ、会いたかったんだと思う。
涼ちゃんの気配が残る場所に。
玄関を開けると、ほんのり潮風の香りがした。
窓の向こうには、海が見えていた。
何度もここで涼ちゃんと一緒に笑ったことを思い出した。
リビングには、変わらない風景が広がっていた。
でもそこに涼ちゃんはいなかった。
「涼ちゃん……」
呟いた声は、静かな部屋の中で消えていった。
ふと、テーブルの上に置かれた白い封筒が目に入った。
俺の名前が書いてあった。
『元貴へ』
手が震えた。
まさか、涼ちゃんからの手紙だなんて、思ってもいなかった。
怖くて、すぐには開けられなかった。
だけど、胸の奥で「読みたい」という気持ちがそれに勝った。
震える指で封筒を開けると、中には涼ちゃんの字で綴られた手紙があった。
_______________________
元貴へ
この手紙を読んでいるということは、僕はもうこの世界にはいないんだろうな。
ごめんね。悲しい思いをさせて。 本当はもっと一緒にいたかったし、もっと音楽を作りたかった。
元貴と出会ったあの日のことは、今でもはっきり覚えてる。 真っ直ぐな目で「一緒にやろう」って言ってくれたあの瞬間。あれが僕の人生を変えてくれた。
それからの日々は、全部が宝物だったよ。 デビューして、嬉しかったことも苦しかったことも、全部隣に元貴がいてくれたから乗り越えられた。 本当にありがとう。
元貴のことが、本当に大好きだよ。 それはこれからもずっと変わらない。
最後に、どうしても伝えたいことがあるんだ。
元貴には、これからも歌い続けてほしい。 若井と一緒に、ミセスを続けてほしい。 僕がいなくなっても、音楽は残るし、繋がっていく。
僕は、元貴の歌声が大好きだよ。 どんなときも支えてもらったし、救われた。 元貴の声には、人を笑顔にできる力があるんだよ。
だから、どうか止まらないでほしい。 涙を流しながらでもいい。迷いながらでもいい。 それでも、また歌ってほしい。
元貴が歌うことで、きっとまた誰かが救われる。 その声が、海の向こうにいる僕にも届くと信じてるから。
元貴と出会えて、本当に幸せだった。 ありがとう。
元貴のこと、ずっと愛してるよ。
藤澤涼架より
_______________________
読み終えた瞬間、胸の奥から何かが崩れ落ちた。
「涼ちゃん……」
声を出したとたん、涙が溢れて止まらなくなった。
ずっと怖かったんだ。
涼ちゃんがいない世界を生きることが。
でも涼ちゃんは、最後まで俺のことを信じてくれていたんだ。
「歌ってほしい」って、言ってくれた。
その言葉が、胸の奥を強く叩いた。
手紙を握りしめたまま、窓の外を見た。
そこには、どこまでも続く海が広がっていた。
涼ちゃんが愛した海。
そして今は、その向こう側にいるんだと思うと、胸が苦しくて、でも少しだけあたたかかった。
「俺……また歌っていいのかな」
小さな声で呟いた。
返事はないけど、潮風が頬を撫でていった。
それがまるで「大丈夫だよ」って言われたような気がした。
まだ怖いし、まだ涙は止まらない。
だけど、涼ちゃんの言葉が、僕の背中を押してくれる。
歌いたい。
また、歌いたいと思った。
涼ちゃんが僕にくれたものを、今度は僕が誰かに届けたい。
手紙を胸に抱いて、僕はもう一度だけ涙を拭った。
「ありがとう、涼ちゃん……」
海を見つめながら、胸の奥で強く呟いた。
大切な人と出会えた奇跡を、僕はずっと歌っていきたいと思った。
涼ちゃんが信じてくれた僕を、今度は僕が信じるために。
幼稚園児くらい昼寝してた