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人気商売である芸能界において、昔から太智の嗅覚は鋭かった。
世間が何に注目するのか、何を見せれば魅せれるのかを心得ていた。
彼の中では、冷静な分析以上に勝るものはない。
そんな彼がプロデュースしたコンテンツは次々と世間を沸かせている。
そして、一番付き合いの長い自分であっても彼のコンテンツの一つに過ぎないのだとも思う。
今日は、勇斗との動画撮影を言い渡された。太智の中では、俺と勇斗の二人の動画が最も再生回数が稼げるとの計算なようで、かなりな頻度で絡むことを要求される。
ビジネスと割り切ってしまえばいいのに、俺は太智からそう求められる度に、胸にモヤモヤとした気持ちが立ちこめるのだ。
じんだいチャンネルという二人のYoutubeでのチャンネルが復活して以降、俺のことをコンテンツではなく一人の人間として見てくれているんじゃないか、他のメンバーとは違った存在として認識してくれてるんじゃないかと、ふとした時に思ってしまうことがある。
けれど。
その度に。
こうやって他メンバーとのかなり際どい絡みを求められる度に。
勘違い甚だしいと叩きつけられているかのようで、余計に苦しくなるのだ。
「170万回再生!」
指をパチンと鳴らして、太智は撮影に臨んだ。
「よし、完璧」
撮り終えた映像を俺に共有するように、肩をこつんとくっつけてスマホ画面を向けられた。
「これはさのじん廚堪らんやろなぁ〜仁人可愛い〜ってなるで」
自然な流れで可愛いと言われて思わずドキッとする。さらりと何も他意を含まずに言えてしまうあたり、彼の中で自分はその程度の、心を動かすに足る存在ではないのだと言われているようで、喜びの後すぐに肩を落としてしまう。
どうやったら俺のこと見てくれる?
数字が稼げるだけの存在でしかない?
切ない気持ちに飲み込まれてしまって、俺は思わず太智の投げ出された足先に、自分の足を伸ばしてくっつけた。
気がついてるくせに、太智は動画から目を離さずに一人でぶつぶつと呟いている。
はいはい、俺になんて興味ねぇよな。
拗ねて体ごと離したところで、太智がパッとスマホから顔を上げて言った。
「仁人、次は俺とのショート動画撮るで」
「あら、珍し」
ふいに宣言された撮影予告に、不覚にも心臓が跳ね上がった。浮いた気持ちを悟られないように、いつもの落ち着いたトーンで返す。
「最近、じんだいが来てんねん、だからさのじんを超える数叩き出すで!」
目を爛々とさせて言う太智を見て、微笑まずにはいられなかった。
同時に、同じ熱量で自分のことも見てほしいなんて思ってしまって、俺はそんな気持ちを押し殺すように下を向いた。
こんな気持ち、太智は知らなくていい。
「オッケ、俺は何すればいいの?」
笑いながら顔を上げた。
太智の思考に俺がいるだけで充分だと言い聞かせた。
最近の仁人と太智の絡みは目に見えて変わったと思う。
二人とも自然に見つめ合って、微笑み合うようになった。昔は一向に目が合わなかったくせに、今では太智の方が積極的に仁人の目線に入るように動くし、それを仁人が、それはもう可愛い笑顔で受け止める。そして、その甘い空気感に居た堪れなくなる俺がいるのだ。
「さのじん」の人気にあぐらをかいていたわけではないが、こうも「じんだい」が注目を集めている背景には、ファンが二人の間にリアルな何かを感じ取っているからにちがいないと勘繰ってしまう。
楽屋で、腕を組んでソファに深々と座る仁人の横に腰を下ろした。
若干眠気を感じさせるとろんとした目が俺を見る。そんな仕草にすら息を詰めてしまう。
「お、勇斗、お疲れ様」
「お疲れ、仁人、眠い?」
こくりと頷くうさぎのような白い仁人。
そういえば今日は金曜日か。深夜ラジオからの流れできっと睡眠時間は少なかったに違いない。
「寄りかかっていいよ」
「え、まじで?カメラとか回さない?」
「しねぇって、はい寝て」
いつかの撮影を思い出して、仁人がふざけてみせた。半ば強引に頭を引き寄せて温もりを感じる。
幸いにも他のメンバーは残りの撮影で出払っていて、楽屋には俺と仁人の二人きり。
そういう雰囲気に寄せることも出来ただろうに。
すぐに重みを増した肩口に、目を落とした先の、あまりにも無防備な寝顔に、俺の心は一瞬で撃ち抜かれて動けなくなった。
いつもであれば寄せられがちな眉間のシワも今はなく、うっすら口を開けて完全に脱力しきった顔。まるで、俺といるときにだけ見せてくれる姿のように思えて、体の底から感情が溢れ出す。
可愛い
可愛い仁人
太智にばっかり気を向けないで。
開かれた唇にそっと指を伸ばす。
気づいてるよ、俺ずっとお前のこと見てるんだもん。
指先に広がる感触は、マシュマロのように柔らかで、暖かくて、求めてしまうには充分すぎる艶だった。
仁人の頭を、ソファの淵に乗せた。
顔を近づける。
チュッと音を立てて重ねた唇は、一度では満足できるわけもなく、何度も熱っぽく惹き寄せられる。
時折、ん…っ、と悩ましい声を漏らす仁人に、誘われるがままに俺は体勢を変える。
最後、銀糸をひいて離れたタイミングで、楽屋のドアが開いた。
入ってきた太智は、仁人に跨る形になっていた俺を見て、眉を一瞬ぴくりと動かした。
「何してんの、勇斗」
いつもの明るいトーンじゃない。
落ち着いた、それでいてどこか怒気を含んだような声色。
その反応に、俺は焦りよりも驚きが勝った。
「んー、仁ちゃんが可愛かったから寝顔見てたとこ♡」
「なんやそれ」
言いながらソファに近づいてくる。
俺の横に立つと、いまだ無防備に眠り続ける仁人の横にドカッと座った。
「勇斗、降りて?」
長い睫毛の奥から見つめられて、俺は仁人から離れる。
それを待って、太智は仁人の頭を自分の肩に抱き寄せた。少し前に俺がしたことをそのままなぞられる。
そのままスマホを取り出してSNSの更新を始めた。
「はやとー」
目線は向けずに太智が呼んくる。
「あんまりいたずらしすぎたら、あかんでー?」
まるで後輩を嗜めるかのような口調。
俺は苦笑しつつも、素直に2人から距離を取る。
「俺、そろそろ撮影だわ」
「太智」
とはいえ、やられっぱなしは性に合わない。
同じように目線を合わせずにオレも名前を呼び返す。
「大事なもんなら名前でも書かないと。誰のもんか分からないやつは他のやつに食われるよ?」
「ごちそーさま」
バタンと扉を閉めて楽屋を後にした。
コメント
2件

うををををを!!これはアツい関係性 続きを楽しみにお待ちしています!
わああ〜〜〜っ!!第1話からもうドキドキが止まらないんですけど!!?😭💕 仁人くんの「コンテンツ」としてしか見られてない寂しさと、太智くんへの片思いが切なすぎる…!でも勇斗くんはこっそり仁人くんのこと見てて、最後の楽屋でのキスシーンはマジで声出た!「大事なもんなら名前でも書かないと」って勇斗くんの捨て台詞カッコよすぎて痺れたよ…!!太智くんの反応も気になりすぎるし、続きが待ちきれない〜っ!!🫣💘
のんの
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