テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
鷹槻れん

28,181
鷹槻れん

5,813
鷹槻れん

4,188
#契約結婚
鷹槻れん

14,125
「私は確かに、人を見る目がなかったのかもしれません」
「……」
「でも、あの頃の私が陽人さんを愛した気持ちまで、間違いだったとは思いません」
静かに息を吸う。
「その時間があったからこそ、晴永と晴留が生まれました」
そして、迷いなく言い切った。
「息子たちは、私の人生で最高の宝物です。そんな晴永がここまで言っているんです。私はこの子を信じます」
一拍置き、清香はまっすぐ父を見た。
「お父さん、あなたもかつて私に対して同じ気持ちを持ってくださったからこそ、陽人さんとの結婚を許してくださったのではないのですか?」
その声に、一切の迷いはなかった。盛晴が、清香を見つめて瞳を揺らせたのが分かった。
応接室に、重苦しい沈黙が落ちた。
盛晴は何も言わない。
ただ、清香を見つめたまま微動だにしなかった。
その沈黙は数秒だったのか、それとも数分だったのか。
晴永には判別がつかないほど長く感じられた。
やがて――。
「……そうか」
盛晴が静かに目を閉じる。
深く息を吐き、それからゆっくりとソファへ背を預けた。
「そこまで言うのなら……もう、わしが何を言っても無駄なんだろうな」
晴永が思わず目を見開く。
「おじい様……」
盛晴は軽く手を上げ、その先を制した。
「勘違いするな」
鋭い眼光が晴永を射抜く。
「恋愛結婚が正しいと認めたわけではない」
「……」
「お前たちの覚悟を見届けてやろうと思っただけだ」
短い一言だった。
「その覚悟をもって責任まで背負うと言うのなら……これ以上反対しても意味はあるまい」
晴永は思わず拳を握り締めた。
「……ありがとうございます」
自然と頭が下がる。
そんな晴永を見て、盛晴は小さく鼻を鳴らした。
「まだ礼を言うには早い」
「え?」
「婚約を公表した以上、このまま終わる話ではないからな」
盛晴の声は、再び社長のものへ戻っていた。
「藤井田家には正式にわしからも頭を下げる。だがおそらくは向こうも同じように頭を下げてくるだろう」
「……!?」
なんでもないことのように告げられた言葉に晴永が瞳を見開くと、盛晴が盛大に溜め息をついた。
「……おおかた、藤井田の娘の方にも好いておる男がいるんだろう?」
「……何故、それを……?」
「藤井田の娘との間で話がまとまったからこそ、お前は今日ここへ来た。違うか?」
晴永は千紗に恋人がいる話を盛晴にはしていない。もしや、と思って清香の方を見遣ると、母も小さく首を振った。
「お前たちはわしを侮りすぎではないか?」
晴永が藤井田千紗と話を付けずに自分の所へ来るはずがないと盛晴が続ける。
「今日、お前らが晴留の店へ集まっていたことも知っておる。そこへ見知らぬ若い男が一人混ざっていたのも確認済だ」
「……っ!」
晴永が驚いたのに対して、清香は小さく吐息を落とした。こんなことはよくあることなのかも知れない。
「わしの情報網を見くびるな」
腐っても大会社の社長。娘や孫が何やらコソコソと動き回っていることに気付いたうえで、あえて泳がせていたらしい。
「実際、お前らがどう動こうと、なんとでも出来るつもりだった」
そこまで言って小さく吐息を落とすと、清香と晴永を交互に見遣る。
「……それが、まさか清香から説得されるとは思ってもみなかったわい」
それは晴永も同意見だった。
コメント
2件
お母様ありがとう!
わあ、清香さん、すごかったですね……! 自分の過去の選択を「間違いじゃなかった」と言い切る強さに、胸が熱くなりました。息子たちを宝物だと迷いなく言えるお母さん、素敵すぎます。そして盛晴さん、実は全部お見通しだったんですね。でも清香さんの言葉に心を動かされた様子が、じんわりと伝わってきて……家族っていいなあ、と思える名シーンでした🌷