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「重さってどういう事です?」

「もしかしてあの泡が凄く重いとか?」


泡と重さという要素が、どうしても結びつかないオスルェンシスとパルミラが首を傾げている。


「……どういう事なのよ?」

「いやパフィが言ったんですけど」


言った本人も結びついていなかった。

泡を食材として操れば重さはあまり関係無いのだが、それでも根本の性質や重さ自体が変化するわけではない。メレンゲの場合は変形して横に流れてしまい、押しつぶされる程重さを感じる事はそうそう無いのだ。

しかしそんなよく分からない現象について強引に納得させる言葉を、ミューゼは知っている。


「そこはほら、アリエッタの力だし」

『なるほど』


理屈なんてどうでもいい。「そうなる」事実がそこにある。数々のリージョンと能力を知れば、自分達の考える常識で計れない事は多々存在するのだ。

ミューゼも、幼い頃にパフィと出会ってラスィーテ人の料理能力に驚き、シーカーになって先輩シーカーやピアーニャの能力に驚いていた。それを思えば、出身リージョンが分からないアリエッタの能力が意味不明なのも、よくある話である。驚きこそすれ、いつまでも頭を悩ませていては、シーカーなど勤まらない。

そして詳細不明な相手に対抗する為の行動も、シーカーとして学んだばかり。アリエッタに加えて総長が後ろにいる事もあり、いつまでもボーっとしていられない。


「ファナリアシーカーの心得その1! まずは色々やってみろ!」

「おう。ミューゼ、がんばれ」

「みゅーぜ、がんばえー!」


杖を掲げて気合を入れると、後ろから可愛い声援が送られた。片方は声だけが可愛い最高級のプレッシャーだが。

ピアーニャの真似をしただけとはいえ、アリエッタの応援はミューゼにとって最高のご褒美である。だらしない顔のまま、全身に凄まじい魔力が漲らせた。


「んふっ……さぁ覚悟しなさいシャービット。今のあたしは何だって出来るわ」

(ホントにそうおもえるから、コワイよな……。パフィがくやしそーにニラんでるし)

「今度はミューゼさんなん? 分かったん。アリエッタちゃんを貰う為には避けては通れない壁なん!」


ミューゼ以外は一旦見学。これもシーカーの心得の内で、知らない相手と争うならば、相手の事を知る為に動くという、立派な戦術である。まぁ迷惑度はともかく、危険が少ないせいで、だいぶほのぼのとしているが。

そしてその先発としての役割に一番向いているのが、ファナリアの様々な魔法。火や水などの環境変化、遠近問わずの物理攻撃、さらに治療に補助と、その万能さは相手を分析するのに最適なのだ。そしてその事を、この場にいるシーカーや護衛達はよく知っている。


「まずは【水の弾アクアバレット】」


手始めに水をかけてみた。


「わっやめるん! メレンゲが溶けるん!」

「いきなり弱点発見!?」


ドロリと流れるヴェリーエッターの表面。水分の多いクリーム状なので当然といえば当然の結果である。

ミューゼは流れ落ちた地面が悲惨な事になっているのを見た後、次の検証に進む事にした。


「【火の弾ファイアバレット】」

「すんすん、香ばしい匂いなの。クッキーになって落ちたの」


焼いたら料理として完成し、固まった部分が下に落ちた。


「【爆風破エアーボム】」

「アワがだいぶふきとんだな……」


そもそも大部分が軽いクリームなので、爆風で吹き飛んでしまう。


「【縫い蔓ストリングヴァイン】」

「そんな太い蔓で殴らないでほしいん! 腕落ちたん!」


くっつき直す事も出来ないように間に物を挟んでしまえば、シャービットの支配から離れ、ただのメレンゲになってしまう。


『弱点しかないんかい!!』


ミューゼの攻撃手段は、どれも有効過ぎて参考にするまでも無かったようだ。全員から抗議に近いツッコミが入った。


「……ま、まぁ、食べ物を形にしただけだから、そんなもんなのよ」

「そもそも食べたら解決するの」

「いやあの量は食べらんないですケド……」


ラスィーテ人にとっては、食材はやはり食材でしかないという。

結局小さい面積の物理攻撃が通用しないだけで、割と何でも効くという事で、魔法による調査は終わった。

なんとも微妙な結果になったが、それとは関係無くアリエッタは嬉しそうである。


「はぁ~♪」(みゅーぜの魔法かっこよかったー!)

「で、どうするのだ?」


キラキラした目を向けるアリエッタの腕の中から、ミューゼ達を試そうとする総長の視線が刺さる。

間違えたら怒られるのではという気持ちが生まれ、全員に緊張が走った。


「ええっと、とりあえず木で囲って焼く!」

「ちょっと待つん! それわたしが丸焼きになるやつなん!」


あまりに乱暴な解決案に、シャービットから抗議の声が上がる。


「こんな騒ぎを起こしたのよ。ちょっとくらい覚悟するのよ」

「そのちょっとが大惨事なん! こうなったらられるまえにアリエッタちゃん貰うん!」

「うわぁ……」


命の危険を感じたシャービットが、ついに動き出した。

まずは魔法を封じる為、ミューゼに向かって腕を伸ばす。


「って伸びまくった!?」


ヴェリーエッターは棒立ちのままで、腕だけが長く伸びる。どうやら足も一緒に操るのは難しいようだ。

咄嗟の事で反応が遅れたミューゼは、腕のメレンゲの直撃を食らってしまった。


「うぐっ!? 重っ!」


ふわふわと動いていた筈のメレンゲが、とにかく重い。全身にまとわりつくせいで、ミューゼはまともに動けなくなった。


(【爆風《エアー》……ボム】……)

ぼふん


なんとか絞り出した爆風の魔法で、泡を自分ごと吹き飛ばす。弱めに発動したので、数回ゴロゴロと転がっただけで止まった。

なんとか身を起こすと、ヴェリーエッターが地面に落ちたメレンゲを取り込んでいる。吹き飛んたメレンゲ分を回収しているのだ。


「ふぅ、これで元通りなん」

「なるほどな。メレンゲをホジュウできるのか。となると、シャービットをとらえないと、いくらでもモトにもどるな」

「みゅーぜっ! がんばえっ! みゅーぜ! がんばえっ!」(頑張れー!)

「………………」(キがちる……)


アリエッタの応援が止まらない。魔法でテンションが上がって、ますます元気である。

そんな声を聞いて、ミューゼのテンションが上がらないわけがない。パフィも応援する姿を見て鼻から血を出している。


「はぁ、はぁ、もう辛抱たまらんのよ。あの子をナデナデスリスリチュッチュしたいのよ」

「やめてください……」

「その為にも、シャービットをシバき倒す! 【木の壁ウォールツリー】!」


ミューゼもパフィと同じ事をしたいのか、全力で魔法を使った。

ヴェリーエッターの周囲から木が生え、一気に伸び上がる。木を使って閉じ込めるつもりである。

仕掛けられたシャービットは、その木を見て焦る。


(マズイん。これ燃やされるん。逃げるん!)


先程の話の流れで、シャービットもろとも焼こうとしているのかもしれない。そう思い、ついにその場から動く事にしたようだ。


「うおおおお!!」

「あ、跳んだの」

「いや伸びたのよ、足が」


ヴェリーエッターの足を思いっきり伸ばし、上へと逃れ、上空に浮かんでいる青白いメレンゲに突っ込んだ。メレンゲはヴェリーエッターの体の表面を覆っていく。


「ん? 何してるのよ?」


取り込むのではなく、覆っているのだ。その行動の意味が分からず、警戒する一同。

そしてアリエッタはさらに盛り上がっていく。


「うおおおお!」(フルアーマーヴェリーエッター! しゃーびっと凄い! 大まかだけど考えた通りの形になってる!)

「……あ~、おちつけアリエッタ」(コイツなんでこんなにコウフンしてるんだ?)


腕だけでなく、胴体や頭の部分にも青白いメレンゲがつき、角ばってはいないが、尖った翼の様なフォルムもある。そしてそれは見かけだけではない。


「……浮いてるのよ」

「ホントだ。これも青色の葉の効能?」

「たぶん?」


いつのまにか伸びた足を元に戻していたヴェリーエッター。その巨体は空に浮かんでいた。


「お姉ちゃん。ミューゼさん。覚悟するん。2人を倒してアリエッタちゃんを貰うん!」


動機も理屈も滅茶苦茶だが、巨大な人型メレンゲに見下ろされると、さすがに迫力がある。


「どうするのよミューゼ!」

「どうするったって、あたしの魔法じゃ表面を焼き落とすくらいしか出来ないよ。テリア様どこいったの!」

「肝心な時に役に立たない王女なのよ」


植物以外の魔法の腕は、ネフテリアの方が断然上である。しかしパフィに撃ち落とされたネフテリアは、現在地下水路を爆走中である。

他の住人も魔法を使えるが、ミューゼの家の敷地内であるせいで「また何か変な事やってる……」と、定番のように呆れているのと、周囲のメレンゲの処理に忙しい為、むやみに手を出してこない。

悩んでいる間もシャービットが腕を伸ばし、ミューゼ達に攻撃を仕掛けている。その度に避けては攻撃してメレンゲを散らしているが、増加したメレンゲが多く、減った気がしない。


「何か手は無いのよ? ようはあのメレンゲをごっそり掬い取れればいいのよ」

「掬い? ん~そっか……それなら……」


ミューゼは青白いメレンゲが体にこびりつき、重くて苦労しているパルミラに目を付けた。


「なるほどなのよ」


パフィも、離れて見学しているラッチの方を見た。


「シスさん。時間稼ぎお願い出来ます?」

「何か思いついたのですね? もちろん構いませんよ。自分からはアレまで届かないので、出来るだけお早めに」

「ありがとうなのよ」


オスルェンシスに時間稼ぎを頼むと、2人はそれぞれ駆け出して行った。

頼まれた任務は、確実にこなさねばと考えているオスルェンシス。王女の護衛としてのプライドもあるが、常日頃迷惑をかけているミューゼ達の頼みは断れない。なんなら王女の命くらいなら余裕で差し出すかもしれない。

影の力は空中まで飛ばす事は出来ない。その為、空中にいる相手に対するオスルェンシスの行動は、必然的に受け身となる。


「【ランパート】」

「むっ、黒い壁なん。これじゃ届かないん」


影に対して、メレンゲによる重量攻撃は通用しないようだ。

ならばと、シャービットは腕を曲げて、影を回り込むように攻撃を仕掛けてみる。


「【ブレード】」


近寄ってきたメレンゲを、影を広げた刃で切り落とした。接近さえしてしまえば、影が届くのだ。


「うーん、あの影に何かするのは危ないん。困ったん」


戦闘経験の無いシャービットは攻めあぐねていた。いくら巨大な武器を手に入れても、使いこなせるわけではないのだ。

経験の多いオスルェンシスは、自分からの有効手段が無い事を理解しつつ、出来る事をするだけである。有効手段を持つ味方を信じて。


「いくわよパルミラ!」

「うぅ……もう、やってやりますよ! やればいいんでしょう!」


ミューゼとパルミラが近くの家の屋根に登り、攻撃準備に入った。

別の場所では、パフィとラッチも屋根に登っている。


「さぁ行くのよラージェントフェリム」

「ふははははは! あんな奴に負けてはいられぬリム。我らの力を見せてやるリムよ!」

「……何やってるんですかねあの2人は」


よく分からないノリに、オスルェンシスも呆れている。

そうこうしている間にも、ミューゼが杖を掲げ、パルミラが球状に変形。パフィは餅を伸ばし、ラッチも球状に変形していった。


「いくよパルミラ」

「はいっ!」


網目のある球体になったパルミラを括りつけた緑の太い蔓が、高く高く立ち昇り、


「我とストレヴェリー様の合体奥義、食らうがいいリム!」

「はいはい、せーのっ」


同じく網目のある球体になったラッチを、パフィは大量の餅で天高く持ち上げた。


「いっけえええ! 【球付の蔓ボーラヴァイン】!」

「【コリノ・ディ・リーゾ】!」


網の球体2つが、ヴェリーエッターの両側から襲い掛かる!

からふるシーカーズ

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