テラーノベル
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何故こうなったのたろう、と僕は思う。
崎野に流されるまま着いていき、気づけば船で広島港に降り立っていた。日が少し傾いてきたが、五月の日差しは、部活もなにもしてない僕にとっては苦痛だった。
「広島市に来るのは初めて。」
「僕もたまにしか来ないけど…なんで急に?」
「家に帰っても、誰も居ないから」
内容はなかなか重たいものだったのに、崎野の表情は凪いでいて、それがかえって酷く痛々しく感じた。
「どこに行きたい?」
海風で乱れた髪を直しながら、崎野は言った。
「…どこでもいいよ、特に拘りは無いし」
「じゃあ、私が行きたいところでいいかな」
バスに揺られ、僕らは目的の場所へ着いた。
市街地から少し外れたそこは、木が生い茂り、すぐ近くには砂浜が見えた。 桜の木は花を散らし、青々とした葉をつけている。立派な庭の真ん中には、古い日本家屋が建っている。ひとけが無く、ぽつんと建っている様子は、寂しさを感じるものだった。
「ここは___」
「おじいちゃんの家。もう死んじゃったけどね。」
「その割には綺麗だね」
「まだ数ヶ月しか経っていないからね」
他の家からは少し距離がある。木が生い茂っているからか、孤立しているように感じる。
金属の扉を押すと、簡単に庭の門が開いた。
崎野は、石畳を飛び跳ねるようにスキップしていく。
「意外だね」
「何が?」
崎野は、間髪を入れずに答えるが、こちらを振り向かない。
「異性をこんな強引に連れ回すなんて」
「私をどういった子だと思っていたの?」
「崎野は普段、真面目で大人しい子だっただろ」
失礼な言い方になってしまったが、崎野はそんな僕の言葉を咎めず、笑いながら言った。
「そんなのはただの先入観だよ。君が見ていたのは、噂の中の私でしょ」
正論を突きつけられただ黙っている僕を横目に、崎野は玄関マットを捲り鍵を取り出す。
「鍵の隠し場所が安直すぎない?」
「どうせこんな空き家なんて誰も入らないよ」
手際よく玄関扉の鍵を開け、ほら、こっちに来てと手招きされる。遠慮なく家にお邪魔させてもらうと、案外中はこじんまりとしていた。無駄な物が無いからか、年季の入った家具や部屋が寂しく思えた。
崎野に玄関から右手にある和室の部屋に案内された。生前、祖父がリビングとして使っていた部屋らしく、窓から西日が差し込み、海が見えた。
「そこのソファに座っていいよ」
言われるがままに座ると、はいこれ、と、ジュースを手渡された。
「サイダーは好き?」
「好きだけど、貰っちゃっていいの?」
「着いてきてもらったからね。このくらいはどうってことないよ」
じゃあ、遠慮せず、と、炭酸の蓋を開ける。
「うわっ」
「えっ」
プシュッという爽快な音とともに、勢い良く泡が吹き出した。
「最悪だっ、めっちゃ手についたっ」
「渡した時に振ったでしょ、君!」
あははははっ、と、僕の目の前に立っていた崎野の楽しげな笑い声が響き、天井の電気の紐が微かに揺れる。釣られて僕も思わず笑う。
それから、崎野と目が合って、それがなんとなく気まづくなり、顔を逸らす。視線を落とすと、そこでようやく、自分が起こした失態に気がついた。
「制服濡れてる!ごめんっ俺が炭酸掛けたばかりに…」
「うわ、気づかなかったっ でも良かった、セーラー服だからすぐ乾くし、透明だから色ついてないよ」
制服は砂糖の香りになっちゃったけど、と崎野は笑う。あ、崎野ってこんな笑う子だったんだ。本当に、ついさっきまで、図書室で本を読んでいる女の子だったのに。
「ごめん、直ぐに着替え買ってくる、近くにたしかモールあったよね?」
「いいよ、別にこのくらい」
「俺が申し訳ないから、買わせて。サイズは?」
「それなら、買ってきてもらおうかな。Mサイズで派手じゃなければなんでも良いよ」
「分かった、直ぐに戻るから」
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