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数分が過ぎても、セバスは動かなかった。
締切は7月4日。作品は新作30点。
現実的には到底間に合わない。
だけど——
それでも心のどこかで、
「やってみろ」
と何かが囁いている気がした。
彼はもう一度PCを開き、画面に向き直る。
返信欄にカーソルを合わせるが、指が止まる。
「本当に俺でいいのか?」
ミィコの歌を初めて聴いた夜が、ふいに脳裏に蘇る。
何も描けず、誰も信じられず、ただ時間だけが過ぎていったあの日。
けれど、彼女の歌声は確かに届いた。
希望でも、未来でもなく——たった一粒の“光”だった。
だからこそ、セバスはあの小さな紙切れに、精一杯の気持ちを込めてひまわりを描いた。
それが、ある父親の喪失と、ある娘の夢に繋がった。
ならば今度は——
「自分がもらった光を、誰かに渡す番だろ…」
その思いが胸に宿った瞬間、迷いは消えた。
彼は「承諾します」と一文を打ち込み、息を整える。
「えーい、ままよ!」
送信ボタンをクリックすると、音もなく確かな振動が指に伝わった。
それはまるで、心の中にあった錆びついた歯車が、静かに回り始めた合図のようだった。
だが彼はまだ気づいていなかった。
あのひまわりが導く未来が、思いもよらぬ“奇跡を”起こすことを。
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