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冷たい空気の中、静寂が支配する廃スタジオ。誠也の父・雅人は、ゆっくりと口を開いた。
{……実験は、15年前に始まった}
『15年前……』
晶哉の声が震える。
{誠也が10代の頃だ。私は“夢ノ雫キャンディ”を完成させた。それを息子に試した。}
その言葉に、誠也の手が小刻みに震える。
「……俺に、試した?」
{そうだ。お前は“夢ノ雫”を食べ、5歳の子供になった。}
雅人は遠い目をして続ける。
{それでも……お前は、笑っていたよ。それを見て、私は“成功だ”と思った。}
〈成功って……そんなもん、実験やあらへん!〉
良規の怒りが爆発した。
『ほんまや!子供の姿になって笑ってたんは、誠也くんが嬉しかったんやなくて、無理やり笑ったんや!』
晶哉が声を荒げる。
{でも……、ある日お前が泣きながら“お父さん、もういやや”と言った。だが私は、その涙を見ないふりをした。}
誠也の頬を、ひとすじの涙が伝う。
{それから数年後、“夢ノ欠片キャンディ”が完成した。それをお前に食べさせた。元の姿に戻ったが……お前はすべての記憶を失った。}
「……。」
{でも、名前だけは覚えていた。記憶を無くしたお前は一人暮らしを始めた。そして、お前はメンバーに出会い、仲間と笑い、ステージに立ち、初めて“自分で生きる意味”を見つけたんだ。}
雅人の声が震えた。
{だが……また、お前の前に夢ノ雫が現れた。}
《ほな……この出来事、全部最初から仕組まれとったんか?》
健が低く呟く。
{……分からない。}
『ふざけんな!』
晶哉が雅人の胸ぐらを掴む。
『誠也くんの人生、あんたが奪ったんや!』
{……そうだ。だから、私は取り戻そうとしている。}
雅人の瞳に、ほんの一瞬だけ“迷い”が見えた。
{“夢ノ宝石キャンディ”が成功すれば、誠也の全ての記憶が戻る。子供の頃も、今も、そしてAぇ! groupとしての全部だ。}
沈黙。
誰も言葉を発せなかった。
誠也は小さく息を吸い、父を見つめた。
「……そのキャンディで、俺は全部の記憶が戻るん?」
雅人は何も言わず、ただ視線を逸らした。
その表情には……
“言えない真実”が、まだ隠されていた。