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紅優
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第31話
この部屋はあれから一つも変わらずに時が止まってたようだった。
僕と似てるな……
そう思いながら日記を開いた。
日記は、僕が始めて騎士になった頃――大体、二十年くらい前。僕が八つになった頃。
両親に勧められて剣士の道を選んだ。他に何もできなかった僕には、残りの道は残っていなかった。
家族は皆、魔力は人並みくらいあって、ソフィーは光の力が使えて、お母さんもお父さんも狩りが得意で、僕は、剣術以外苦手。勉強も、作法も、体術も、全部頑張った。努力したつもりだった。
だけど、実らなかった。僕には出来ないような事だったようだった。その所為で人間付き合いも苦手で、朴念仁で、周りから忌避されるようになった。
何もかも失ったから日記を始めた。もう、僕には希望の一筋だけ。それをつかみ外したら、もう何もできない、ただの兵器。
そしたら、僕は誰を護る? やっぱり、分からない。家族だって、大切な人だって、皆、いなくなってしまうのだから……
どうするのが正解? これは、どんな問題?
今までで一番難しい問題。答えが分からない。
一筋の希望をつかみ外さなければいいの? 一回外したのに……
あの時、僕は何を考えたんだ?
護る? でも、倒れたら本末転倒。それくらい分かったはず。それじゃあ、逃げられなかった? いや、その前に気づくはず。
誰? アニカを……
僕は、風に巻き込まれる前何を考えたんだ?
答えを教えて……
次の日。
「お願いします。もう、時間が無いんです」
「馬鹿か。それ以上動いたら傷口か開いて、万全で挑めないぞ」
「今じゃないといけないんです……お願いします」
「……一本だけだ。それで、気が済むならやってこい。それ以上は受け付けない」
そう騎士団長は冷たく吐き捨てるように言って倉庫の方へ向かった。
僕は今日は第一部隊の人――僕が前にいた部隊の人と二本やったけど、掠り傷がいくつか。負けるなんて許されないから負けられなかったけど。
掠り傷に過ぎないのに、騎士団長は昔より過保護になったのかな?
「お手合わせ願おう」
そう言ったのは騎士団長より、十歳くらい年下のように見える第二部隊の甲冑を着た人だった。
……経験が無いんだから。今の僕には経験が必要。
この人は僕が深く頷いたのを見て微笑んだ。
「すまない。早速しようではないか」
僕は言われるがままに訓練場の中心に連れてこられた。
「一本でいいよな。武器は好きなのを使う。倒れたらおしまいだ」
確認するように言われるので僕は頷いた。
この人は……何だか見たことあるな……
まぁ、僕も騎士だったから見かけた事があるのはおかしくないな。
僕は練習用の先の尖ってない片手剣を持った。重さは本物と近くて、形も長さも同じようだから練習にうってつけ。
僕が現役の頃にも使っていた。
やっぱり、懐かしい……
だから、こそ助けないと。護れなかったんだから……
僕は片手剣を持つ力を強くした。
「おや、そんだけ強く持って体力は大丈夫なのかい?」
「助けないといけない物がある限り、大丈夫じゃないとは言わないと決めてるので」
「助けるって事は、できなかったのかい?」
……そうだ。できなかったんだよ。
「僕は、出来損ないの騎士なんです。だから、今ここでやらないといけない。それは僕にも分かる」
「ふっ。そうか。じゃあ、始めるぞ。やらないといけないんだったら踏ん張れよ」
そう言ってその人は片手剣を振るった。この人も片手剣使いだ。
僕は避けて弾き返した。
本気で来たのだろう。かなり速い。
その次も攻撃が他の人より速かった。僕はそれを弾いて隙を突くたびに攻撃をするだけ。
それは、基本のき。そう先輩が言ってた。
でも、その先輩の事もその年に抜かしたから何とも言えないけど。
でも、この人は息がきれない。本気を出してないのだろう。
こっちから話しかけるのも言葉が分からないから話しかけない。
「お前はそこまでか? 苦手な事から逃げるのか? お前の事を間近から見たことがあるけど、そんなもんじゃなかったよな。それを抜かさないといけないって言ったのは自分って事を考えろ」
僕は一瞬、頭が真っ白になった。
でも、直ぐに我に帰って気を引き締めた。
「分からないからそのままにしてるだけ。それだけです」
「分からないを放って置くな。そのままだと自分の事も分からないのままになって、昔の自分を超えられないぞ」
踏み間違えたら、つかむの元も事も無くなってしまう。
「お前は、その程度か?」
僕はその一言で火がついた。
「やってやりますから、もっと来て大丈夫ですよ。負けませんから」
「そのいきだ。本気でかかってやる」
そんな声と共に、剣が弾き合う脳天に響く金属音が鳴った。
コメント
1件
えっと、ちょっと泣きそうになりました……「分からないを放って置くな」って言葉、すごく刺さりました。主人公が自分を「出来損ないの騎士」って言いながらも、それでも助けたいって必死に剣を握る姿が、痛いくらい伝わってきて。過去の自分と向き合おうとするその覚悟、好きです。続き、気になります……🥀