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コンソメパン
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宮殿の門を思わせるような優雅なデザインの門はステンドグラスのようにガラスが埋め込まれ、太陽の光で輝き、ルミナシアパークの名を現しているようだ。
門の中央部に描かれているのが、招待状にも描かれていたルミナシアパークの紋章だろう。中央には、一粒の雫を思わせる透明な宝石。その周囲から、九本の光の軌跡が放射状に広がっている。緩やかに湾曲したそれらは、花びらにも、星の光にも、流星の尾にも見えた。それらを透明な球状ガラスと金属の環が包み込む。光を受ける角度によって、白銀、淡い金、水色へと姿を変えるその紋章は、ひとつの光から無数の幻想が生まれることを表していた。
門を潜り抜ければ、エントランス・プラザが広がっている。中央に大きな円形の噴水があり、色とりどりの花壇が歓迎し、スノードロップのように垂れ下がる宝石のような街灯が印象的だ。
💚「凄い……綺麗だね」
🖤「うん」
💙「夢の国っていうか、天国?」
💚「ちょっ、言い方」
渡辺の言葉に、阿部も目黒も思わず笑ってしまった。言いたいことは分かるけれど、表現としてはどうなのだろうか。
すると、汽笛が聞こえてきてそちらを見ると、プリズムのように様々な色が仄かに輝く汽車が右の方から来たのがわかった。
💙「うわっ、すげ」
💚「見た目は蒸気機関車だけど、煙は出てないから、多分、自動運転のトラムだね」
🖤「トラムって?」
💚「路面電車の事だよ。あの大きさだから、パーク内を回れるようになってるんだろうね。このパーク、かなり広そうだし」
💙「あ、じゃあ、疲れたら楽できるな」
💚「そうじゃなくても乗ってみようよ。時間はあるし、俺らはゆっくり回ろう」
エントランス・プラザから奥には大きな湖が見え、その湖の更に向こうに天耀宮エルセリオンが見えている。距離があるのに圧倒的な存在感を誇っているそこは、まさにパークのシンボルだった。
周りを見回せば、コースターのレールや大観覧車などのアトラクションの一部が見て取れて、優美さの中に遊園地らしさも見受けられる。
台座から映し出されるホログラムでできたデジタルマップに目を通した。
💙「どこから行く?」
💚「左に行くと、ノクターン・ガーデンとかフェアリー・プロムナードとか、風景を楽しむところが多そう。右側が、ルミナシア・ステーションっていう大きなトラムの駅とか、オーロラ・シアターっていう野外の劇場があるね。こっちの方が、乗り物系のアトラクションがありそうだ」
🖤「最初乗り物で、あとでゆっくり散策する? トラムに乗ったら逆側に行けるみたいだし」
💙「阿部ちゃんは? それでいい?」
💚「うん、いいと思う」
それで決定にして、三人はパークの右側へと足を運んだ。
パーク右側は乗り物系のアトラクションが多いということもあって賑わっており、オープンしたばかりだというのに活気が溢れている。
💚「やっぱり、アトラクションが多いからか子どもが多いね」
💙「そりゃ、乗り物に飛びつくだろ」
そう話していると。
🩷「今のめっちゃ回転したな!」
🧡「いや、さっくんが回しすぎなんよ」
🩷「にゃはは。ラウールなんてずっと爆笑してたしな」
🤍「めっちゃ楽しかったー!」
🩷「うおっ! なんか飛んでるぞ!」
🧡「ほんまや! 次あれ行こう!」
🤍「もー。いきなり飛ばしすぎてバテないでよー?」
そんな会話を繰り広げてすぐに走って行ってしまったハイテンションエンジョイ組を眺めながら、阿部も渡辺も目黒も目をぱちくりさせる。
💚「うん、子どもいたね」
🖤「小中学生と同じノリでしたね」
💙「ホント、ガキだよなー」
💚「ラウが一番まともっていうのが、もうね」
若干呆れながらも、三人はゆっくりと歩いて行く。
空中で回転するブランコ、地上でダンスするようにうねりながら回転する乗り物、モノレールのようにレールが上についているコースターなどが周囲に見えている。
🖤「何か乗る?」
💚「乗りたい気持ちはあるんだけど、結構怖そうなの多いな」
💙「あのレールコースター、意外と落ちてるな」
💚「え、無理」
🖤「もっと安全なのないかな。あ、あれは? パラソル型の」
目黒が指差した先では、色とりどりの大きなパラソルが、円を描くようにゆっくりと宙を漂っていた。傘の下には数人乗りの座席が吊られ、上がったり下がったりしながら、穏やかに空中散歩を楽しんでいる。
💚「あれならいけそう」
💙「速くもなさそうだな」
🖤「じゃあ、あれ乗ろうよ」
結局、三人はそのパラソル型のアトラクションを、このエリアで最初の一つに選んだ。
その後も辺りを散策し、道沿いにあった土産物店を覗き、ルミナシアの紋章が入った菓子や、パークのキャラクターを模した雑貨を眺める。
沿道のフードワゴンを眺めて、あとで食べようかなどと会話をしていると、それは見えてきた。
賑やかなアトラクションの合間から姿を現したのは、横に大きく広がるクラシカルな駅舎だった。
淡いアイボリーを基調とした建物には白銀の装飾が施され、中央には大きなアーチ状の入口が口を開けている。その奥には、緩やかな曲線を描く巨大なガラス屋根が続いていた。
陽光を受けたガラスは一色には輝かない。見る角度によって淡い青や紫、橙へと色を変え、そこから零れた光が駅舎の壁や石畳へ虹の欠片を散らしている。
華やかでありながら、どこか古い時代のターミナル駅を思わせる佇まい。
正面のアーチには、銀色の文字でその名が掲げられていた―――LUMINACIA STATION。
💚「わぁ!」
💙「すごっ」
🖤「めっちゃキラキラしてる……でもなんか、眩しくない」
💚「プリズムって、光を反射してる輝きなんだよ。そのものが光ってるわけじゃないから、虹とかに近いかもね」
🖤「へぇー」
💚「ここ、入っていい?」
💙「阿部ちゃんは入ると思った。めっちゃワクワクしてるじゃん」
💚「わかる?」
🖤「わかるわかる」
阿部の表情が、プリズムに負けないくらいキラキラとしているものだから、渡辺も目黒も可愛いなと思いながらニヤけてしまった。
周辺を運河に囲まれたルミナシア・ステーションへと足を踏み入れた。
入ってすぐに音声案内が響き渡る。
「過去と未来を繋ぐ汽車の拠点、ルミナシア・ステーションへようこそ」
中の様相も、昔のヨーロッパの駅舎を髣髴とさせるもので、広いエントランスがあった。正面上の窓や天井付近のステンドグラスから差し込む光がエントランスを照らし出していて、明かりがついているわけではないのにとても明るい。右を見ればチケット売り場があり、左を見るとホームへの入口である開放的な改札が見える。
改札を抜けると、そこは駅のホームになっていた。
天井がアーチ状になっており、ガラスには特殊な加工がされているのか、プリズムが太陽の光を受けていて床に同じような極彩色を描き出している。通常のホームの三倍ほどの広さのホームにはトラムが停車しており、その反対側には小さくしたミニSLが展示されている。
そのSLの傍には親子がいて。
「わぁ! 音が鳴ったよ!」
「ホント、凄いのね」
その手には何かカードのようなものが見えた。
💚「あれ、なんだろ」
💙「ん? どれ?」
💚「あの子が持ってるカードみたいなの」
「それはステーションパスですよ」
駅員の恰好をしたキャストのお姉さんが話しかけてきてくれた。
💚「ステーションパス?」
「ええ。ステーションパスを持っていると、ここ、ルミナシア・ステーションのホームで不思議な体験をすることができるんです」
💚「不思議な体験……」
🖤「それ、三枚もらうことできますか?」
「ええ。こちらです、どうぞ」
ありがとうございますとお礼を言って受け取った目黒は、すかさず阿部に手渡した。
🖤「はい」
💚「え……いいの?」
🖤「だって阿部ちゃん、興味あるんでしょ? だったら体験して行こうよ」
💙「俺ら急いでないんだから、行きたいとこは遠慮すんな」
💚「ありがと」
手に持ったステーションパスを大事に抱えるように持つ。自分の希望が通ったのもそうだけれど、何より、二人の心遣いが嬉しかった。
「ステーションパス中央の紋章と同じものがホーム内にございますので、見つけてみてください。それでは、いってらっしゃいませ」
キャストのお姉さんが手を振ってくれたので振り返し、ホームの中を歩いて行く。
辺りをキョロキョロと見回しながら歩いていると。
💚「あ、あった」
駅灯の一つに、同じ紋章が描かれているのでそこにステーションパスを翳してみた。
すると。淡い光の中にプリズムの光が混ざり、足元に虹が広がった。
💙「おおっ」
💚「なるほどね。だからこの辺、電波が頻繁に飛び交ってるんだ」
🖤「阿部ちゃん、そういうのも分かるの?」
💚「普段から受信はしてないけど、近いのは分かるよ。半径数メートルくらいではあるけどね。街は電波だらけだから、全部受信すると回線がパンクするからしてないってだけ」
💙「まあ、電波は出まくってるだろうな。スマホとかパソコンとかドライブレコーダーとか」
💚「そ。気にし出したらキリないからね」
別の場所に向かうと、壁に描かれた古い路線図があり、その脇にも同じ紋章があるので、今度は目黒がステーションパスをかざしてみた。
すると路線図の現在地が光り、そこから路線図通りに一本の光が走ってトラムの進行ルートが浮かび上がる。
💚「何が起こるかわかんないから、ちょっと楽しいね」
🖤「だね。他のもどんどん見てみよう」
次に向かったのは、ホームの奥、線路がパークへと続いていく方向にあるプリズムガラスのオブジェが置かれている場所。オブジェの下の台座にある紋章に阿部がステーションパスを近づける。
すると、内部の光りが反応して、ガラスから細い虹色の光が何本も伸びた。その光が床に描かれた線路の意匠を伝っていくと、本物の線路と重なっていく。
💚「……今、途切れた?」
🖤「なんのこと?」
💚「電波。途切れた気がしたんだけど」
💙「阿部ちゃん以外、そんなのわかんねえよ」
💚「だよね」
🖤「阿部ちゃん、電波受信しすぎてるんじゃない?」
💚「確かに」
それからミニSLに行くと汽笛の音が鳴ったり、ミニSLに乗って車窓の紋章に翳すと情報が表示されたり、昔のパタパタと回転するタイプの掲示板の文字が変わったり、と様々な仕掛けを楽しむことができた。
外に出て歩き始める。
💚「なんか、ただの駅だと思ったら凄かったね」
🖤「ね。阿部ちゃんやっぱり好きそうだった」
💚「めめも翔太も、付き合ってくれてありがと」
💙「一緒に回ってるんだから、当然だろ。もっかい言うけど、遠慮すんなよ」
💚「ん、そうする」
どうしても行きたかったわけではない。ちょっと興味あるな、楽しそうだな、くらいでしかなかった。けれど、それを目黒も渡辺も察してくれた。そしてやっぱり、体験したら楽しかった。誘ってくれて良かったな、と、心の中が温かくなる。
ルミナシア・ステーションから伸びる道を歩いて行く。特に決めた場所もないから、気の向くままに向かうと、今度は かなり巨大なガラスのドームが見えてきた。淡く霞んだガラスの向こうには、オレンジ色の光が無数に浮かんでいるのが見受けられる。
入口に書かれている文字は――――Terrarium Elsia。
💚「テラリウムって、植物とかを飾るドームだよね」
💙「じゃあ、乗り物系じゃなさそうか?」
🖤「ちょっと入ってみよう。外観だけだと分かんないし」
💙「だな」
入口から中に入ると、そこはすでに森の中だった。広大な一つの空間が広がっており、天井はとても高い。淡く優しいオレンジ色の光がふわふわと舞っている。それは木漏れ日のような光の粒。幻想的な景色だった。白い土でできた一本の道は、二段になっている木や小川の間を通っており、小人の住む森にでも迷い込んだかのよう。
景色を見ながら森の木々を潜り抜けた先に、その姿を見せたのは巨大な樹。
この飛んでいる光を生み出しているのであろうその樹は、オレンジ色の光で溢れていて、荘厳ながらも美しい。その樹の根本から流れ落ちる水は七色に仄かに色づき、阿部たちのいる木でできた床の下を流れていく。樹を囲むように、森と一体化した小さな施設が点在しており、樹には枝のように見える階段や橋が架かっていた。
💚「わぁ……キレイ……」
🖤「ここも凄いね」
💚「あの光、何でできてるのかわかんなかったけど……なんか、自然のものって感じる」
💙「阿部ちゃん、こんな時にも機構とか考えてたのか?」
💚「うーん、これは癖だよね。何でできてるのかな、どう動くのかなって考えちゃう。でも、綺麗って思ってるのもホントだよ?」
🖤「わかってるって」
そう言って微笑みながら周囲を見渡した目黒が、少し離れた場所を指差す。
🖤「あそこ、なんか受付みたいなのあるね。行ってみよう」
向かったのは、樹の根本。生命樹の根元に設けられた受付は、切り株をそのまま整えたような温かな木のカウンターだった。その向こうに立つ女性キャストは、深い緑のケープを纏い、背には小さな生命樹の刺繍が施されている。まるでこの森そのものが、訪れる者を迎えているようだった。女性のキャストがこちらを見て、笑顔で頭を下げてくれる。
「ようこそ。こちらでは、生命樹と共に暮らす小人たちの道を体験していただけますよ」
💚「小人の道?」
「はい。生命樹に架かる階段や橋をご覧になったと思いますが、あれは、この樹に住む小人たちが使っている通路なのです」
彼女は生命樹を見上げる。
「ただし、普通の道ではありません。小人たちは遊ぶことが大好きですから、あちらこちらに遊び心を隠しています」
💚「遊び心……」
「はい。無事に通り抜けた先で、何が皆様を待っているのか……ぜひ、ご自身の目で確かめてきてください」
説明されても分からずに、思わず顔を見合わせてしまう。
💚「どうする?」
🖤「なんか、アスレチックっぽくて行きたいかも」
💚「わかる。めめ好きだよね」
💙「怖くない?」
「ハーネスなしで歩けるようになっておりますよ」
💙「……じゃあ、大丈夫か」
うふふっと女性キャストが笑っているのは、渡辺が怖がっているのが可愛いと思っているのか、それともただ微笑んでいるだけなのだろうか。
いってらっしゃいませ、と送り出されて樹に沿って歩き始めた。道は一本しかないので、迷うことはないだろう。すぐに木の板でできた階段が見えてくる。けれどそれは普通の階段ではなく、樹の幹から生えているかのよう。つまり、空間があいていて下が見えるようになっている。
💙「うわっ、もうこえーんだけど」
💚「はははっ。翔太、早すぎ。まだ五段目くらいだよ?」
💙「だって、手すりと板しかねえじゃん」
💚「そうだけど。けっこうしっかり留められてるよ。多分、下がちゃんと支えてるんだろうね。それにほら、この手すりも一本で繋がってるから、安全だよ」
💙「そういう問題じゃねえの!」
💚「めめ、どんどん先行っちゃうよ」
キラキラとした目をしながら嬉々として階段を上っていく目黒。本当に興味のあるものの時には彼は速い。
💚「翔太、怖いなら服、掴んでていいから」
💙「いや、そこまでじゃない」
💚「はいはい。怖くなったら言ってね」
二十段ほど登った辺りで、その階段は感覚を広げた。次の十段は板と板の距離が広くなり、次の十段は板と板の高さが先ほどよりも10センチほど高い。次の十段は幅の感覚が違い、場所によっては、板二枚分がぽっかり空いていた。
💚「おお。急にアスレチック感、強くなってきたね」
💙「阿部ちゃん、手、手出して!」
💚「手すりに掴まってたら来れるでしょ。翔太だって足長いんだから」
💙「それとこれとは別なんだよ」
💚「めめは……あ、いた」
更に距離の開いた目黒は、今いる阿部たちの数メートル上、樹から少し飛び出している太い枝の上に立っている。
💚「めめー! ちょっと待ってー! 翔太が怖がって手間取ってる!」
💙「ちょ、その言い方ひどくねえ?」
💚「あ……手、貸してあげるから行こう。めめのこと待たせちゃう」
誤魔化すように手を差し出すと、阿部の手を掴んでやっと階段を上る。いつもお兄ちゃんをしているとは思えないが、こういう時には阿部の方が年上のようになるのはいつものこと。お化け屋敷の時も、腰を抜かす渡辺を何度起こしてあげた事か。
その先にある揺れる階段を昇って行って、木の枝に乗る。下から見ると普通の太い枝だが、乗ってみると上部が平らになっていて、幅は1メートルほどあるので不安定ということはない。ここにもきちんと安全用の手すりはつけられているが、外観に合わせてあまり目立たないように光の加減によって見えにくくなっている。
💚「めめ、お待たせ」
手すりに体重を預けて景色を眺めていた目黒に声をかける。
🖤「こっからの景色見てたらすぐだったよ。しょっぴー、大丈夫?」
💙「い、今んとこはな」
🖤「じゃあ、先行こう。この先もしょっぴー行けるかな」
💙「は? どういう意味……」
目黒の視線の先にあるのは、橋。枝と枝を結ぶ5メートルほどの橋がそこに架かっていた。当然、橋の下は地上の景色。
💙「……マジ?」
💚「いや、気持ちはわかるよ。ちょっと怖い」
🖤「じゃあ、行こうか」
再びスイスイと何でもないように間隔の開いている板の上を歩いて行く目黒。怖がる渡辺を気にしながら歩いて行く阿部と、ヒーヒー言いながらもなんとか足を踏み出す渡辺。次の枝につくと、そこから更に先端に近いところから、また次の枝に向かって橋がかかっており、鎖で繋がっているから少し揺れるタイプのものだ。
そこをなんとか進んで次の枝に行くと、上から網が垂れ下がっているのが分かった。高さは二メートルほど。手を伸ばせば上の枝に届くというくらいで、さっと登れてしまうレベル。そこも難なくクリアし、次の枝に向かってまた橋が伸びているのだが、それは木の板でできた橋ではなかった。
手すりは他の橋と同じで両側にあり、真っすぐ先に伸びている。しかし、床面は飛び石のように置かれた大きな葉っぱがあるだけだ。
💙「うおっ」
💚「おおー。これは結構、怖いかも」
🖤「結構、高さ出てきたしね」
今、三人がいるのは恐らく中腹辺り。ビルで例えるなら三階ほどの高さだろうか。
阿部がしゃがんで橋を覗き込み、手を伸ばす。指先に触れる感触に、阿部は笑みを零した。
💚「これ、わかりにくいけどガラスか透明な板が渡してあって、そこに葉っぱが置かれてるんだよ。だから、踏み外したからって落ちるわけじゃない」
💙「だーかーらー、そういう理屈じゃねえんだって!」
💚「大丈夫大丈夫。頑張れ、翔太。めめに連れてってもらう?」
🖤「えっ。俺、多分、速足で行くけどいい?」
💙「無理に決まってんだろ!」
💚「ホントに無理なら引き返してもいいんだけど、さっきの逆を行く方が怖いと思う。網を降りるのとか」
💙「うっ……もうやだー!」
結局、文句を言いながらも進むしかないので進んでいく。次は幹の中にトンネルができており、中も光の粒が舞っているから明るい。トンネルは小人用に作られているか意外と狭く、阿部も渡辺も中腰くらいでいけたが、更に高身長の目黒はほぼハイハイ状態で進んでいく。
トンネルの途中には左右にところどころ空間があり、その空間には、葉っぱの屋根がついた小さなベンチや、木の実でできたおもちゃ、小さなテーブルに乗った小さな木の器、葉っぱのベッドなどが置かれている。きっとここは、小人たちが住んでいるところなのだろうと思えるものだった。
そのトンネルを抜けると、一気に視界が変わる。
樹上にいるのがわかるというくらい、葉っぱが生い茂っている。そして下と違うのは、木の上から吊るされている花。それは舞っている光と同じ光をまとっている。もしかしたら、この花から生まれた光がテラリウム・エルシアを照らしているのかもしれない。
🖤「なんか、すごいね」
💚「うん。言葉を失うってこういうこと、だよね」
💙「だよな……」
💚「翔太、頑張って良かったね」
💙「いや、まだ先あんだろ?」
ゴールのような雰囲気を醸し出しているけれど、そうではないのだと、先に続く道が教えてくる。その道は、木の幹に沿うようにせり出した板で、幅は約50センチ。一本の蔦が肩ほどの高さにあるだけの道。真っすぐ歩くには幅が狭いので、樹の方を見ながら横歩きするしかない。
更にその先の木の枝は行き止まりになっていたのだが、よく見ると少し下に大きな網がある。高さは恐らく1メートルほどだが、飛び降りた先は網なので当然、地面が見える。すでに相当な高さになっているので、ここから飛び降りるのは相当、渡辺が渋っていた。
その網から別の枝に移って縄梯子を上り、再び樹に沿って板だけの階段が設置されている。これなら大丈夫だと、渡辺がホッと胸を撫でおろし、先頭の目黒が木の板を踏んだ。
ポーンと音が鳴る。
🖤「ん?」
💚「今の、ド?」
🖤「じゃあ、次は?」
次の板を目黒が踏むと、ポーンとまた音が鳴る。
💚「ソだ」
どうやら踏むと音のなる階段らしい。トントントンと小気味よく登っていく目黒に合わせて音が鳴り、阿部も渡辺も階段を上っていく。三つの音が同時に鳴ったり、続けて鳴ったりと、速度もバラバラだからか音楽を奏でているようだ。
もう、渡辺はすっかり恐怖を忘れて音の鳴る階段を楽しんでいる。それが三十段ほど続き、そして着いた先は小さな踊り場のようになっていた。広さは五畳ほどだろうか。人が10人くらいは乗れそうなそこには、男性のキャストが立っている。
何故、こんなところにキャストがいるのだろうか。それに、キャストが立っているすぐ横には人ひとりが通れるくらいのアーチがあり、そこに太い蔓が垂れ下がって先端に大きな葉っぱがついている。
「ここからは、この葉っぱで降りるんですよ。小人たちが大好きなんです」
💚「降りるって……ジップラインってこと?」
🖤「あのお姉さんが言ってたの、こういうことか」
「ああ、無事に通り抜けた先で、何が待っているのかってやつ。待ってたのはジップラインだったね」
🖤「めっちゃ楽しみ」
💚「だよね」
「では、腰に蔓状のハーネスを付けていただいたら葉っぱに乗ってください」
💚「翔太、先行く?」
💙「いや、二番目で」
🖤「じゃあ、阿部ちゃんから」
💚「おっけー。じゃあ、いってきます!」
軽い説明を受けて腰のハーネスを付けて葉っぱに乗る。思ったよりも大きくて安定感があり、少しクッションがきいてて包み込まれるようだ。なんだか、面白い。
目黒と渡辺に手を振り、ジップラインが動き出す。すぐに風を切る感覚があり、生命樹の葉っぱから抜け出ると視界が一気に開けた。眼下に広がる生命樹の木の麓。そこを抜けるとまた森の中に入る。木々の間を颯爽と抜けていくのは、小人か妖精になった気分だ。それでもスピードは速すぎなくて心地いい。
そこから更に森を抜けると見えるのが、太陽の光を浴びてキラキラと輝く七色に光っている泉。その横には木の根でできた広めの台があり、グンとスピードが落ちて、軽やかに台に立った。
「お疲れさまでした。良い旅になりましたか?」
下で出迎えてくれた男性キャストに、ニコッと笑う。
💚「はい。とても素敵な体験でした」
「それは良かった。この先も、素敵な出会いと想い出がありますように」
その後、「うおぉぉぉお」と笑顔で叫びながら降りてきた渡辺と、珍しく太い声で短く叫んでいる目黒と合流し、七色の水の流れる川を通ってテラリウム・エルシアを後にした。
監視用のモニターが並ぶ部屋で、中央に置かれた椅子に座ってモニターを眺めている男がいる。オープニングセレモニーで挨拶をしていた、このルミナシアパークのオーナーだ。真剣な表情で、あちこちのモニターに映る映像を確かめるように見ている。
「どうですか、調子は」
後方の自動扉が開いて、男が入って来た。男は三十代前半ほどに見えた。仕立てのいいスーツを隙なく着こなし、胸元には花の意匠が刻まれた細身のネクタイピンが光っている。
オーナーは椅子から立ち上がり、男を見る。
「ええ、順調です。それもこれもあなた様のおかげです」
「いえ。私は出資しただけですから」
「……少し、見ていかれますか?」
「いえ。今日は挨拶だけですので。では、また時間の合う時に」
男はそう告げて、踵を返す。
けれど、扉へ向かう途中で一度だけ足を止めた。
壁一面に並ぶモニター。その一つに、泉が映し出されている。その泉の横を嬉々として歩いている三人の青年。
三人とも、楽しそうに笑っていた。
ほんの数秒、その光景を眺め―――切り替わった映像を背に、そのまま監視室を後にした。
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