病気が見つかった、 その言葉を理解するまで少しだけ時間がかかった。
どうしてそんなふうに、まるで不治の病にでもかかったかのような顔をするのだろう。
「…それって、治るの?」
「…」
父は、何も言わず 黙り込んでしまった。
「答えてよ……」
答えないということは、僕の最悪な推測が当たってしまったのだろうか。
ただ手足が酷く冷たくて、冷や汗が背中を伝った。
「…半年」
「え?」
「余命が、半年だと聞いた」
半年?余命、?訳が分からず 頭の中が真っ白になった。
「本当に……?」
こんな嘘をつく人じゃ無いことくらい分かっているのに、信じる事が出来なかった。
すると父が僕の肩を掴み、言葉を続けた。
「とても珍しい病気で、殆ど症例がなく打つ手がないそうだ。ゆき、辛いだろうが、父さんと母さんは…」
そう言う父さんの声は震えていて、冗談ではないことを知らしめていた。でも、僕はまだ信じられずにいた。
「ゆき、どうしてゆきが……」
静かな部屋に母の悲痛な泣き声が響いて、 これ以上否定することはできなかった。
どうしようもない事実を目の当たりにした僕は何も考えられなかった。
ただただ呆然としていた。
そっとノートを取る手を止める。
なんだか、真面目に勉強しているのが馬鹿らしく思えてきてしまった。
頬ずえをつき窓の外を見る。そこには梅雨時期に入るというのに綺麗な青空が広がっていた。
ふと、視線を感じ振り向くと京介と目があった。
僕を見た京介はふっと笑顔を見せ、僕も同じように笑って見せた。
窓の外へ視線を戻し、青空を眺めながらこれからの事を考える。
京介は保育園からの幼なじみだ。ずっと仲が良く喧嘩もあまりした事がない。 とても面倒見が良くて優しくて、なんというか僕の兄のような存在だ。
「及川、何ぼけっとしてるんだ」
「わっ」
担任の木村が僕の頭を軽く手刀で叩いた。
クラスで笑いが起こり、気恥しさを覚えムッとしながら叩かれた頭をさすった。
最後のホームルームが終わり荷物をまとめていると、
「及川、お前佐々木と仲良かったよな?」
木村がそう話しかけてきた。
「まあ」
仲が良いか悪いかの2択で言えば良い。
「佐々木の家がどこか分かるか?」
「はい」
「なら家まで届けに行ってくれ。どうせ暇だろ?」
そう言って木村は大量のプリントを僕に押し付けるとその場を去って行った。
どうせ暇だろって言葉が少し気に食わなかったが、確かに部活はしていないし予定も何もないから言い返す言葉はない。
それに、先生は僕の病気の事を知らないのだ。仕方ないだろう。
渡された大量のプリントを両手に抱えながらため息をつく。
「ゆき、俺が代わろうか?」
いつの間にか僕の傍にいた京介が渡せというように手を出した。
「いや、大丈夫。京介はこれから部活でしょ」
その手を避け、僕は笑顔みせる。
「そっか」
京介は少し残念そうな表情をした。
行くと言ったからには行くしかない。僕は紙の束をカバンに雑に押し込み席を立った。
「じゃあ、また明日な」
「ん、部活頑張って」
僕はさっそく佐々木、蓮の家に向かう事にした。
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主人公の名前は、 及川 悠己(おいかわ ゆき) です。( ˙꒳˙ )