コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
退院して、もう3日が経っていた。
余命半年と宣告を受けても、実感がなかったが、 どこかでそれを受け入れている自分がいた。
あの日から、人ととの距離に壁を感じるようになった。今まで楽しいと思っていたことが、つまらない物に変わってしまった。
それでも、誰にも悟られないように、いつも通りに平静を装って、笑顔を作っていた。
きゃははっ!
公園の前を通ると無邪気に遊んでいる子供達が見えた。
別に、他人を羨んでいるわけじゃない。 しかし何で自分なんだろうと、そう思うことはある。
どうせ死ぬんだし、何もかもどうでもいい。 そう思ってしまう自分に、心底嫌気がさした。
考えているうちに、蓮の家に到着してしまった。
…プリントをポストに入れて帰ろうか、いや、一応生存確認くらいはしとおかないとか。
インターホンを押したが、いくら待っても反応が無い。
仕方なく、僕はインターホンを連打した。
ガチャッ
ドアが開き、来た人物は不快、という表情をしていたが犯人が僕だと分かるとパッと表情が明るくなった。
「ゆき!!」
久しぶり、と言おうとした途端飛びつかれ危うく倒れる所だった。
「ちょっ、、苦しいんだけど」
僕がそう言うと蓮は笑って離してくれた。
「せっかく来てくれたんだから、中で話をしよう!」
返事をする間もなく手を引かれ家に上がってしまった。
蓮と会うのは1ヶ月ぶりだ。理由は知らないが、1ヶ月間1度も学校に来ていなかったから。
僕は蓮の部屋に通され、そこで大量のプリントを献上した。
「うわっ……」
蓮は渋い顔でそれを受け取ると、無造作に勉強机に置く。
「麦茶とオレンジジュースどっちがいい?」
「オレンジ」
「おけ、取りに行くからまってて」
そう言って蓮は部屋を出て行く。
渡してすぐ帰ろうと思っていたのに、引き止められてしまったみたいだ。
静まり返った部屋でする事もなく、部屋を見回す。ずっと前、1度だけ来たときと何一つ変わらない。変わったと言えるのは僕が前に、お土産であげたまねきねこの置物が飾ってあるくらいだ。とても、 殺風景な部屋。
前の僕だったら部屋の散策でもしていたのだろうか。今は、何もする気になれない。
蓮は戻ってくるなりテーブルにジュースを置くと僕の顔をまじまじと見つめてきた。
「それにしても、ゆきが1人で来るなんて驚いた。どっかににあいついないよね?」
そう言って蓮は窓の外を覗き、カーテンを閉めた。
「あいつって、京介のこと?」
「そうそう。あいつずっとゆきにまとわりついてるじゃん」
まとわりつく、という言い方が少し嫌味に聞こえる。
「別にそんなんじゃないと思うけど」
「まあ、ゆきは純粋だからね」
どうして急にそう言われるんだろうか。
「ふふ、でも俺は嬉しいよ。ようやくゆきと2人きりになれたからさ。ほぼ初めてだよ、ゆきと完全に2人きりになるの」
考えてみれば、確かにそうだ。蓮がいるときはいつだって京介が一緒だったから。
「こんなチャンス、見逃すわけないだろ」
ボソッと蓮が何かを言い、聞き逃した僕が 首を傾げると蓮は笑った。