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 道化師との死闘の末に壊された噴水の石像の中から、一つの小さな【光】が現れる。

 暗闇の中、緑色に淡く輝くその【光】は、壊れた噴水の辺りを少しの間、フヨフヨと漂う。

 ふと、【光】は石像の後ろへと、隠れるように移動する。

「……まったく、とんだ目にあった」

「まさか魔獣が入り込んでくるなんて、思ってもみなかったな」

 二人の中年男性が、会話しながら歩いてくる。

「しかし、立派なこの石像も壊れちまった……」

 男性の一人が、悲しそうに石像を見上げている。そんな男性の肩に、もう一人が『ポン』と手を乗せる。

「そう気を落とすな。とにかく、明日からは街の復興に全力を尽くそう。そして、いずれこの石像も、立派なモノに戻そう」

「あぁ、そうだな。早く平穏な日々に戻ったら、またこの石像を立派なものにしよう!」

 男性たちが去っていく。

 それを見計らって現れた【光】は、石像を見回すようにクルクルと再び漂うと、そのまま何処かへと消えていった――――。

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 夜もすっかり更け、雲ひとつない空の中。お星様もお月様も、これでもかってくらいキラキラと輝いてる。

 こんな日は「みんなでお月見とかどうかな!」って、提案したくなるくらい、それはもう綺麗なもんだ。

 しかし、そんな提案なんて今は出来ない。してはいけない。

 どうしてかって? それは俺たちがとある宿の一室で、仲良く三人並んで床に正座しているからだ。

 何でそうなってるんだって? 目の前に激おこプンプン丸な二人が、俺たちを静かに見下ろしてるからだ。

 腕を組んで俺たちを見下ろしてるのは、学生服を着た黒髪の少年と、紅と白の半々髪に黄金色と深紅の目を持ったオッドアイの子供だ。

 一人は俺たちの幼なじみである、和泉伊織。そしてもう一人はロキだ。

「お二人とも……何故、私が怒っているのか。お分かりですか?」

「それはもう、ご心配をおかけしました、伊織様」

「大変申し訳ないと思っております、伊織様」

 俺は右隣に座る妹ともに、深々と土下座しながら伊織様に許しを乞う。

「おい、バカセージ……僕は言ったよな? って」

「ご、ゴメンよロキ……その、今日はと思って……」

「結果、出来てねーじゃねーか」

「うぅっ、ごもっともです……」

 ロキに怒られて、俺の左隣に座るセージは赤くなった鼻に詰め物を詰めて、シュンと肩を落とす。

 ココから『初めまして!』な人のために、簡単な自己紹介とあらすじを説明するぜ!

 まず俺、神崎かんざき八尋やひろ、21歳。趣味・特技、ゲーム。ギャルゲーは専門外なので、それ以外なら割と楽しくプレイするただのオタクだ。

 そして右隣にいるのが俺の7つ下の実の妹こと、神崎陽菜子ひなこ、14歳。引きこもりで極度な人見知りを除けば、コイツもただの一般的なオタクだ。

 さらに目の前でプンプンしてる少年は、和泉いずみ伊織いおり16歳。成績優秀、容姿端麗と、我らが自慢の幼なじみだ。ちなみにこちらは、非オタクである。

 そんな俺たち三人は、いつも通り平穏に過ごしていた。ところが、謎の少女Aが持ってきた箱の中身によって、突然異世界へと転移させられる。

 しかもこの世界、魔法とか存在するファンタジーな異世界! オタクにとってはもう、正直に本音を言えば最高だよね!

 だがしかし、そんな俺らに待ってたのは何も無いただの森。本当にただの森。ここには居ないが、色々あってキミーというトレントみたいな木の化け物と無事に和解し、晴れて友人関係になった。

 途方に暮れてた俺らが森で出会ったのが、はい! 俺の左隣に座るセージくん!

 セージこと、セージ・イクスフォル。話によれば、王都で神官をしている心優しい好青年。ただ彼にはちょーっと問題があって。『目的地に辿り着けても、帰省本能がない』という困ったくん。

 俺たちは力を合わせて、無事に森を脱出。ココ、『シルフジブリン』という街へと辿り着いた。

 そして最後にもう一人。そんなセージの目の前に腕を組んで立つ人物は、ロキという名の、口も手癖も足癖も悪い子供だ。

 パッと見、小柄なうちの妹とあまり身長や体格差は無いが、コイツはかなりの怪力の持ち主だ。なんせ俺とあまり変わらないセージを蹴飛ばしたり、軽々と持ち上げたり。さらには、この場にいる全員を抱えて飛び回れるほどの、身体能力の持ち主でもある。

 詳しい事情は知らないが、どうも人間が嫌いなようで……。俺たちも、最初こそは警戒されていたが……共に死闘をくぐりぬけた事もあり、今では超仲良しだ! ……多分な!

 どんな死闘を繰り広げたかを詳しく知りたいヤツは、これまでの話を見返そうぜ。俺からは以上だ!

 ……で、どうして俺たちが三人仲良く正座をして、二人に怒られているのか。それはとても、シンプルで簡単な話である。

「これまでに何があったのか、私は詳しく知りません……それはこれから問いただす事として、に関しては、ちゃんと反省していますか?」

「いや、まぁ……。不精しようとした、俺が悪かったです、はい」

 俺は、自身の右腕を抑えながら、伊織から目を逸らす。

 ちなみに、お気づきだろうか? 俺は今、上着を肩から羽織るように掛けている。そして首から垂らした、三角巾状にした布に固定棒と、右腕を通して引っ掛けている。

「申し訳ありません、イオリ様……。僕の力不足で、このような……」

「すみませんが、セージさん。私は今、と話しているのです。少し黙ってていただけますか?

 普段の伊織からは、想像できないような棘のある言葉に、セージは「はい……」と俯く。

「他人の心配とは、随分と余裕があるじゃねーか。なぁ、バカセージ?」

 ロキが縮こまったセージに、追い打ちをかけるように低い声で責め立てる。それに対し、俺たち兄妹はセージへ助け舟を出そうと、会話に割って入る。

「あ、あまりセージさんを責めないであげてよ、ロキロキ。元はと言えば、私とヒロくんのせいだし……」

「そうだ、ロキ。元は、俺とヒナが言い出したのが悪いんだ。だからセージは悪く……」

「うるせぇ、バカ兄妹。そんなのハナから分かってんだよ。僕はセージと話してんだ。外野は引っ込んでろ」

 ロキに睨まれ、俺たちは「「はい……サーセン……」」と、口を閉じる。

「どうやら、お二人とも。ご自分の非はちゃんと理解し、認めているようですね?」

 伊織の言葉に、俺たち兄妹は無言で頷く。

 何故二人が、ここまで怒るのか。それは、俺のこのに関係するのだった。

お兄ちゃんは『妹が!』心配です

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