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「以上で清掃は終わりだ。昼食の準備に入る。」
「うん。」
「……お前は何が食べたい?」
「え…?」
「……まかない…俺たちの昼食も作るから、お前が食べたいものを言えばいい。」
「如月さんも咲月さんもなんで私にそんなこと聞くの…?私は玩具なんでしょ?」
「聞かれるのは嫌か?」
「嫌っていうか…なんか怖い。だって私のことを嫌っている人たちが私に欲しいものを聞くってことは、何かを企んでいるか面白がってるだけでしょ。」
「…俺は…今はお前のこと嫌いじゃない。そりゃ、如月家のことを考えたらお前のことを見放すことはできるし、そうすることが正しいと思う。貴族にとって大切なのは世間体と風格、一族の威厳だからな。でも俺としてはそんなもの途端にちっぽけに見えるようになった。金があれば生きていける、金があれば何でもできる。幸せも人生も買える。俺も昔はそう考えていた。だからお前と出会って、自分は虚しかったことに気づいた。」
「昔……考えてたの…?でも咲月さんは貴族じゃ……ないんでしょ…?」
「……俺の家は堕ちた貴族なんだ。小さかった頃は大きな屋敷に住んでいて、自分専用の執事やメイドがいて…不自由ない生活をおくっていた。だけど当時の当主の跡継となる男児が生まれず、女しかいない卯月家は貴族の格を剥奪された。その話を母親から聞いたときは憎しみしかなかった。男でなきゃ家督を継げないことも、何故自分はもっと早く生まれることができなかったのかも……恨めば恨むほど憎む理由が増えていった。そんな時助けてくれたのが且功様だった。卯月家がまた貴族として生きていけるよう、それまでは如月家に身を置けと。もちろん卯月家は皆喜んだ。また貴族に返り咲けるよう如月家に尽くそうと。でも実際に如月家で働くようになった時、現実を思い知らされた。あくまでも卯月を助けようとしてくれていたのは且功様だけで、旦那様や奥様にとっては卯月家なんてたかがしれた身分だと思われていた。卯月というだけで罵られ蔑まれ日に日にこの屋敷で働く卯月はいなくなった。そのころから俺の中には黒く濁ったものしか生まれなくなった。どう成り上がってやれば如月家を上回れるか、取り入って綺麗な俺を作っていけば卯月の生まれであることを認めてもらえるか、自分よりも下の存在を作れば俺が存在する理由ができるどうか。だから初めてお前を見たときは心の底から安心もしたしこんなにも可哀そうな奴がいるんだから、俺なんてただ運が悪かっただけなんだって思った。馬鹿にして奴隷のように扱えば満足できる、そう思った。でもお前は且功様や俺になんと言われようと弱音を吐くことも泣くこともなく、いつも言い返し強く生きていた。その時気づいたんだ。俺がしていることは、俺たち卯月を認めてくれなかった旦那様たちがしたことと変わりないこと。そして俺にはできなかった生き方をしているんだということ。どうだ、お前は俺を笑うか?こんな惨めな人生をおくる俺を。結局自分じゃ何もできない…役立たずな俺を。」
「笑わないよ。だからもう、泣かないで……。」