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#この作品は完全にフィクションです。
わあ〜!
54
#オリジナルストーリー
海月🪼🩵‐Mizuki
228
九尾(ぬし)
156
ユナ @ショタ化関係者再募集中
141
第九十九話 もう一度、向き合うために
六月の終わり。
紬のもとに、
短期交流プログラムの選考結果が届いた。
大学の講義を終え、
スマートフォンを確認したときだった。
画面に表示されたメールの件名を見て、
紬は思わず足を止めた。
何度も募集要項を読み返し、
参加したい理由を考え、申込書を書いた。
自分の思いをうまく伝えられたか、
不安がなかったわけではない。
紬は一度深呼吸してから、メールを開いた。
そこには、選考の結果、
プログラムへの参加が決定したことが記されていた。
「……やった」
思わず声が漏れた。
うれしかった。
自分が挑戦したいと思ったことを、
一歩先へ進められた。
けれど、喜びが落ち着いてくると、
三週間という期間のことや、
現地での活動についても考え始めた。
準備しなければならないことは、まだたくさんある。
それでも、今は楽しみな気持ちのほうが大きかった。
紬は、真っ先に湊へ知らせようと
スマートフォンを開いた。
『プログラム、参加できることになった!』
送信してから、少しだけ画面を見つめる。
すぐに返事が届いた。
『本当!? おめでとう!』
続けて、もう一通。
『紬が挑戦したいって言ってたことだから、俺もうれしい』
その言葉を読んで、紬は笑った。
湊に伝えられてよかった。
自分の頑張りを知っていてくれる人がいることが、
こんなに心強いとは思わなかった。
けれど、今回はそれだけでは終わらせたくなかった。
紬は、少し迷ってからメッセージを打った。
『今度、直接会って話したいことがあるんだけど、時間ある?』
返事は、すぐに届いた。
『あるよ。俺も話したいことがある』
その一文を見て、紬は画面を見つめた。
湊も、何かを伝えようとしている。
そう思うと、少し緊張した。
でも、今度こそ、
自分の気持ちをきちんと話してみようと思った。
数日後。
二人は、初めて一緒に
写真を撮った場所で待ち合わせた。
卒業後、何度も訪れた場所だった。
季節が変わるたび、
周囲の景色も少しずつ変わっていく。
あの頃にはなかった店ができていたり、
道沿いの木々が大きく育っていたり。
同じ場所に立っていても、
目に入るものは以前と同じではなかった。
先に着いていた湊は、
カメラを手にしながら周囲を眺めていた。
「お待たせ」
紬の声に振り返る。
「おう。全然待ってないよ」
「それ、毎回言ってない?」
「実際、そんなに待ってないし」
二人は笑った。
しばらく近況を話したあと、紬が口を開いた。
「私、夏のプログラムに参加することになったんだ」
「うん。さっきもおめでとうって言ったけど、改めておめでとう」
「ありがとう。三週間、海外でいろんなことを学んでくるつもり」
「うん。帰ってきたら、話を聞かせてよ」
「もちろん」
紬はうなずいた。
そして、少しだけ視線を落とした。
「ねえ、湊」
「ん?」
「私たちって、これからどうなっていくんだろうね」
湊は、紬の顔を見た。
突然の質問だった。
けれど、どうしてそんなことを聞いたのかは、
何となく分かる気がした。
「……俺も、最近それを考えてた」
紬は驚いたように目を上げた。
湊は、手にしていたカメラをいったん鞄にしまった。
「卒業してから、俺たち、それぞれの夢について話してきただろ?」
「うん」
「紬がやりたいことも、俺がやりたいことも、少しずつ形になってきた。俺はそれがうれしいし、これからも応援したいと思ってる」
湊は、そこで一度言葉を切った。
「でも、俺たちがこれからどんな生活をしていくのかは、ちゃんと話したことがなかったなって」
紬は静かにうなずいた。
自分が聞きたかったことも、
きっとそこにつながっていた。
「私もね、湊の夢を応援したいよ。写真の仕事が増えて、忙しくなっても、いろんな場所で撮影するようになっても」
「うん」
「でも、正直に言うと、少し不安なんだ。これからお互いに違う経験をして、考え方も変わっていくかもしれないでしょ?」
紬は、言葉を探しながら続けた。
「今までみたいに話せなくなったり、会う時間がなくなったりすることもあると思う。そうなったときに、私たちは今と同じようにいられるのかなって」
言い終えてから、紬は小さく息を吐いた。
ずっと心の中にあったことだった。
相手の夢を応援したい。
でも、自分が相手の未来の中に、
どんな形で存在しているのかも知りたかった。
どちらかを選べば、
もう片方を諦めなければならないような気がして、
なかなか言葉にできなかった。
湊は、すぐには答えなかった。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「俺も、会えなくなるのは寂しいと思う」
紬は顔を上げた。
「紬が海外に行くことも、これからもっと忙しくなることも、頭では応援したいと思ってる。でも、何も感じないわけじゃない」
湊は、少し照れくさそうに笑った。
「俺だって、紬と今までみたいに話せなくなったら寂しいよ」
その言葉を聞いて、紬の胸が少し軽くなった。
湊も、自分と同じように考えていたのだ。
それが分かっただけで、少し安心できた。
「……よかった」
「え?」
「私だけが不安なのかと思ってた」
湊は首を横に振った。
「そんなわけないだろ」
二人は顔を見合わせ、少し笑った。
けれど、まだ話は終わっていなかった。
湊は、もう一度、紬の目を見た。
「でもさ。寂しいからって、紬に挑戦してほしくないとは思わないんだ」
「うん」
「俺も、写真を続けていきたい。いつか仕事としてやっていけるようになりたいし、今よりもっといろんな人のことを知りたい」
湊は、言葉を選びながら続けた。
「そのために、今までとは違う生活になるかもしれない。撮影で遠くに行くこともあるだろうし、仕事を優先しなきゃいけないときもあると思う」
「うん」
「だから、俺たちがずっと今と同じ生活を続けられるとは思ってない」
紬は、少しだけ表情を引き締めた。
「……うん」
「でも、生活が変わることと、紬との関係を大切にしなくなることは、別だと思うんだ」
湊の声は、穏やかだった。
「俺は、紬がこれからどんな場所で、どんな人と出会って、何を考えるようになるのか知りたい。俺が知らない景色を見てきたなら、その話を聞きたい」
紬は、じっと湊を見つめた。
「それは、俺も同じ。自分の知らないことを紬から教えてもらえるのは、うれしいから」
湊は少し笑った。
「だから、同じ未来を選ぶ必要はないんじゃないかな。違う未来を目指していても、お互いのことを知ろうとすることはできると思う」
その言葉は、
紬がずっと考えていたことに、
一つの答えをくれた気がした。
同じ未来を選ばなければ、離れてしまう。
そう思い込んでいたのかもしれない。
けれど、相手と同じ道を歩くことだけが、
相手を大切にする方法ではない。
自分が見た景色を伝えること。
相手が見てきた景色に耳を傾けること。
そして、違う考えを持つようになったときにも、
もう一度話し合うこと。
二人にできることは、まだたくさんあるのだ。
「……私も、そう思う」
紬は、ゆっくりとうなずいた。
「湊の夢を、私の理想に合わせてほしいわけじゃない。私も、自分がやりたいことを諦めたくない」
「うん」
「でも、これからもお互いのことを知っていたい。何を考えて、何に悩んで、何を目指しているのか。そういう話を、ちゃんとできる関係でいたいな」
「俺も、そうしたい」
湊は迷わず答えた。
「忙しくなったら、今までみたいに会えないこともあると思う。でも、何も言わずに距離ができていくのは嫌だから。ちゃんと話そう」
「……うん」
紬は笑った。
その笑顔を見て、湊も笑った。
二人の未来が、これで全部決まったわけではない。
海外での経験が紬にどんな変化をもたらすのか、
湊の写真の仕事がこれからどう広がっていくのか、
まだ分からないことばかりだった。
それでも、分からないからこそ、
二人で考えていけばいい。
相手の未来を勝手に決めるのではなく、
自分の不安を隠すのでもなく。
その都度、言葉にして伝え合えばいいのだ。
「そういえばさ」
少し落ち着いたところで、湊がカメラを取り出した。
「久しぶりに、ここで写真撮らない?」
紬は、周囲を見回した。
初めて一緒に写真を撮ったときとは、
季節も、二人の生活も変わっている。
あの頃は、卒業したあとに
どんな未来が待っているのか、
まだはっきりとは分からなかった。
今だって、すべてが見えているわけではない。
けれど、以前よりも
自分の考えを言葉にできるようになった。
「いいね。撮ろう」
二人は、いつものように並んだ。
湊はカメラを構え、画面の中に二人の姿を収めた。
「もう少し、こっち寄って」
「これくらい?」
「うん。いい感じ」
シャッターを切る。
カメラの画面には、並んで笑う二人が写っていた。
特別な景色ではない。
ただ、いつもの場所で、
いつものように写真を撮っただけだ。
それでも、今日の一枚には、
これまでとは少し違う意味があるように感じられた。
二人は、これから先の不安を
すべて消したわけではない。
ただ、不安があることを互いに伝えられた。
そして、違う未来を目指していても、
関係を大切にする方法を
一緒に考えていこうと決めた。
それは、二人にとって小さくても確かな一歩だった。
「見せて」
紬が画面をのぞき込む。
「……いい写真だね」
「うん」
湊は、写真を保存した。
「これからも、こうやって撮っていこう」
「毎年?」
「毎年でもいいし、撮りたいと思ったときでもいい」
「じゃあ、両方!」
紬が笑う。
湊も笑った。
同じ場所で撮った写真が、また一枚増えた。
これまでの写真を振り返れば、
そこにはそのときどきの二人が写っている。
迷っていた頃の二人。
それぞれの夢を見つけ始めた二人。
新しい生活に戸惑いながらも、
前へ進もうとしていた二人。
そして今日、これからの違いを認めながら、
もう一度向き合おうとした二人。
写真は、未来を約束してくれるものではない。
けれど、そのとき何を考え、
何を大切にしていたのかを、
後から思い出すきっかけにはなる。
湊は、保存した写真を見つめながら思った。
これからも、たくさんの景色を撮りたい。
そして、いつかこの写真を見返したとき、
今日の気持ちを思い出せたらいい。
紬もまた、画面の中の二人を見ながら考えていた。
自分がこれからどんな場所へ行き、
どんな人と出会ったとしても、
今日話したことを忘れずにいたい。
相手の夢を応援すること。
自分の夢を大切にすること。
そして、違いが生まれたときには、
もう一度向き合うこと。
それが、二人で選んだこれからの歩き方だった。
📷 Photo.099「もう一度、向き合うために」
撮影日:6月28日
同じ未来を見ていなくてもいい。
同じ道を歩いていなくてもいい。
大切なのは、
相手の見ている景色を知ろうとすること。
そして、
自分の見ている景色も、
きちんと伝えること。
湊と紬は、これから先も変わっていくだろう。
夢が大きくなれば、生活も変わる。
出会う人が増えれば、考え方も変わるかもしれない。
それでも、
変わっていくことを恐れて、
立ち止まる必要はない。
二人は、違う未来を目指しながらも、
互いの未来に関心を持ち続けることを選んだ。
そして、
次に進む前に、
もう一つだけ確かめておきたいことがあった。
これまで撮り続けてきた写真は、
二人にとって何だったのだろう。
そこに残っているものは、
ただ過ぎていった時間だけなのだろうか。
その答えを見つけるために、
二人はもう一度、
これまでの写真を振り返ることになる。
――次回、最終話「未来へ残す一枚」へ続く。
コメント
1件
第99話、読み終えました。紬と湊が、未来が違っていくかもしれない不安をちゃんと口に出せたこと、そして「それでもお互いを知ろうとする」と決めた場面がとても印象的でした。同じ景色を目指す必要はない——その答えに辿り着くまでのやりとりが丁寧で、胸に沁みました。毎年撮るか、撮りたいときか、の問答も二人らしくて好きです。次が最終話なんですね。しっかり読み届けます。