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目の前の天使は苦しみに悶えていた。
邪気を追い払うようにして、何かと戦ってるようにして。
私は、あなたがいてくれればいいのに。何もなくても、すべて失っても、あなたさえいてくれればいいんだ…それだけ、あなたのことを愛しているのに
なのに、どうして気づいてくですか…?
「乱歩さん…!!」
「大丈夫…大丈夫ですよ…」
「あ…あっ…僕なんていない方が…生まれて…っっ…こないほうがぁ」
抱き寄せると、天使はそう言って大粒の真珠を溢した。たまに声の出し方を忘れ、掠れた嗚咽をする。弱っている…だんだんと…
会ってからこの違和感には気づいていた。命の前借りをした人の言動だと言うことに。もう、どうにもできないところまできている。あぁ、かわいそう。可哀想に
「気づきたくなかった…」
私の肩で疲れて寝ているそれには届かないだろう。どんなに耳元で、近くで言っても…
彼の位置をずらし、横に仰向けにし、布団をかぶせた。近くの丸椅子に座り彼をじっと見た。
最初に会ったとき、彼はうさぎの埋葬をしていた。シャツの袖を捲くり、ほっそりとした白い腕が印象的だった。いや、そんなことより、振り向いたあなたが…あまりにも美しかった。宝石を見たときのような…本当に…息を呑むほど、危険なほど綺麗だった。
それから「天使」と愛称をつけた。
「プルルルルル」
電話が鳴った。時計をみると、もう夜の20時だった。きっと福沢さんだろう。私は黒電話を持ち
「はい、太宰です。」
「夜分遅くに申し訳ないが乱歩を知らないか?」
「あぁ、乱歩さん、雪が降ってはしゃいじゃって、今…家にいますよ」
「誠に申し訳ない、今か…」
「疲れて寝てしまってますので今日だけ私に任せてください。」
そう言うと、少し間があり
「わかった。明日の朝そちらに伺う」
「恩にきります。福沢さん」
黒電話を置き、階段を上がり、ドアを開け目線を床から前に向けると天使がいた。
私の身長と15cmは差があるのだろう。自然と上目使いになっている。
天使は私の瞳だけ見てしばらく何も言わなかった。
どうしたのだろう?何か気がかりなことがあったのだろうか?人の感情に鈍感な私には分からなかった。思い切って
「らんぽ…さ」
彼の名を言葉にしようとした瞬間、私は天使に抱きつかれた。動揺と心臓の音でどうにかなってしまいそうな私のことなど知らずに、眠そうな、甘えたそうな声で
「汗かいちゃって、変に疲れてるし、もう外も真っ暗で怖いし…今日はいっしょにいてよぉ」
「あ…う…かしこまり…した」
僕が太宰の方を見ると手で顔を隠しているが隙間から見える色は赤色だった。
「とっ…とりあえず…その…手を…」
「えっ、なんで…怖い夢見ちゃったからやだ」
「わっ…かりました、じゃあとりあえず座りません?上に乗っても構わないので」
「わかったよ」
パッと僕が手を離すと太宰は下を見ながらしゃがんだ。
「どうぞ」
僕は彼の上に跨るようにして座った。そして、肩に顎を乗せた。
「だざい、」
「どうしました?」
お互い顔は見えないが、何故だがわからないが、すごく安心する…
「僕…むかし、知らない男の人にレイプされたことあるの」
「それでね、でもね、何も覚えてなくて…相手が僕の上に乗って、逃げられなくて…怖くて…」
「確か、そうだった気がするんだ…記憶がないんだ。レイプされたのは覚えてるんだけど、されたときどんな気持ちだったとか…夢みたいに忘却しちゃった」
「後遺症とかは何もないんだけど、それ以来男の人がスキンシップで肩とか手とかを握って来られると、その瞬間だけされたこと…当時の恐怖感が少しだけ思い出すんだ」
「それだけ」
どうして乱歩さんがそんな話をしたのか私にはよくわからなかった。その容姿と身体つきなら狙われるとは思っていたがまさかレイプとは…どう声をかければいいのだろう…
「あっ、それでね」
天使は急に私の目をじっと見つめ満面の笑みでそう言った。
「僕、その人のこと興味持って色々してたら動かなくなっちゃった」
「えっ…」
あれ?この違和感…あれ?
ニコニコとどう処理したのか、男のどこに惹かれたのか嬉しそうに話す彼を見た。
話が終わると、また暗い彼に戻った。顔つきが明らかに変わった。
「あれ?さっきの感情消えちゃった?嬉しそうに話してた僕どこか行っちゃった。ああ、またこの気持ち悪い感情だ。」
「疲れちゃった…寝ていい?」
覇気がない。この胸の靄は彼が殺人鬼だと気づいたからだろうか…いや、そんなこと遠い昔に気付いていた。彼が殺人鬼でもどうでもいい。はず…なのに…なんだ、このざわつき…
「あっ、その前にお風呂…」
プチプチと華奢な手でまだ指が上手く動かせない赤子のようにボタンを1つずつ外した。
半分くらいだろうか、鎖骨が浮き出て助骨も見えそうになるくらいのボタンを外し終わると彼はため息をついて終わると同時に私と目を合わせた。
ボタンを外して欲しいのだろうか。彼のそれに手をかけると
首の後ろに手を回され口吻をされた。私は、彼が好きなのだろうか、それとも天使が好きなのだろうか。