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 ───ピッ。ピッ。袋はご利用ですか、お箸はお付けしますか、お会計450円になります。レシートはどういたしますか。ご利用ありがとうございました。

 今俺が無心に行っているレジ打ちのように、同じ動作を繰り返しすぎていると時折自分は機械なんじゃないかと思えてくる。もちろん、内臓がモーターになっているとか脳が実はAIだとか、そういうことではない。比喩的な話だ。

 俺は、小さい時から特筆して得意なものもなく、勉強もスポーツも人並みにしか出来なかった。友達関係もある程度広く、浅く。逆に言えば不自由なこともこれといって無かった。運だけは悪かったのか、何かと不幸に見舞われることは多かったが。

スポーツが出来るやつ、勉強が出来るやつ、友達が多いやつ、顔が整っているやつ、全部羨ましかった。かっこいいからとかそういうのではなくて、楽しそうだったから。

何か得意分野があれば、人はそこを更に伸ばそうと夢中になれる。それが、生きがいとか人としてのオリジナリティに繋がる。とにかくそれが楽しそうだったのだ。自分にはその熱意を向ける対象がない、だから自分の人生が他と比べても差程充実していないし、俺という存在はオリジナリティに欠けていた。どこにでも居る、男の子 A。モブという言葉が自分にはぴったりだった。

量産型で他と比べて良い点も悪い点もない、いくらでも取り換えのきく社会の歯車。機械と同じだ。誰でも出来ることを誰でもできるようにやる。昔も今も、それが俺の役目だった。

 仮に俺が今ここで消えたとしても、この先、誰一人不自由なく暮らしてゆけるのだろう。正直、最近俺は自分の存在意義が分からなくなってきてしまった。

俺の代わりはいくらでもいるし、俺が居なくなって、俺より秀でた才能の持ち主が俺と代わることで、より良く事が進むこともあるかもしれない。

じゃあ、隙間埋めにしかならないようなこんな俺の存在意義とは何なのだろう。考えても沈むだけのつまらない疑問がこの頃ずっと、頭の隅にこびりついている。

「おい、蓮。そろそろ代わるぞ。」

いつの間に隣に立っていた店長の声に、ふと腕時計を見る。21時5分。レジの前でぼーっとしてしまっていたようだ。

「最近お前、浮かない顔してるぞ。何があったか知らないが、体はちゃんと休めるよ。ここのところシフト出ずっぱりだろう」

浮かない顔、か。

「ありがとうございます、自分は全然大丈夫です」

「そうか、それならいいんだが。」

こういうマイナスな思考は周りにも変な気を使わせてしまう。やめだ、やめ。

いやにまとわりつく考えを払うように、軽く頭を振って気持ちを切替える。考えたって何か変わるわけじゃない。さっさと家に帰って、今日は早く寝よう。

 バイトを終えた俺は、自動ドアを足早にくぐる。ドアが開いた途端に冷気が首筋を撫でていった。

「───── っくしゅん!」

コンビニ内の暖房との差に体が縮んでしまいそうだ。ぼ一っとしている間に、いつの間にか冬になってしまっていた。つくづく自分が時間の動きも認識できないように、死んだように生きていることを思い知って嫌な気分になる。

週末なのだ、今日くらい少し贅沢してもバチは当たらないだろう。適当なツマミとビールでも買って帰ろう。

なんとなく、俺は寂れた住宅街を足早に抜けていった。


「はあ、在庫切れ….!?」

俺は行きつけの、バイト先のコンビニと家の丁度中間の地点にあるスーパーに立ち寄っていた。

しかし買おうと思っていたビール類の商品棚には、なにひとつ残っていない。

(ビールをお求めのお客様へお詫び

商品搬入の際トラブルが発生してしまい、現在、店にビール類の在庫がございません。)

暖房の微風にちらちらと、張り紙だけがなびいていた。

密かな楽しみだった、週末の晩酌。まるで示し合わせたかのように、ビール類だけが根こそぎ消え失せている。

「なんだってんだよ。俺には微かな楽しみも許されないってか」

悪態をつきながら、スーパーを出る。もう、家に帰って大人しく寝ることにする。

その時だった。

ざあ、と空が唸った。嫌な予感がした。その途端に、大粒の雨が立て続けに地面を撃ち始めた。

「ちくしょう、からかって楽しいかよ!」仕方なく腕で頭をかばいながら帰路を急ぐ。

一張羅のパーカーに、水が染み込んでいく気持ち悪い感覚。運が悪いにも程がある。なんで自分だけ、なんて言いたくもなる。生まれつきのこの運の悪さだけは好きになれない。行き場のない怒りが、むかむかと込み上げてくる。

グレーの空と冷たい街並み。俺の人生はどうしてこんなにも色がないのだろう。怒りと寂しさが俺の中で混じって飽和して、言葉にならないセンチメンタルな心だけが残った。

振り払うように、俺は土砂降りの中を走り続けた。

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