テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#溺愛
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「本日の課題は――魔獣狩猟大会だ」
教師の冷徹な一言が、初夏の森に緊張の波を広げた。
「制限時間内に魔獣を捕獲せよ。その希少性と能力により、成績上位者には特別加点が与えられる。……各自、負傷しない程度に励むように」
(はい来た、学園モノの定番イベント回!)
広大な学院の敷地に広がる、太古の森。木漏れ日が差し込む白いテントの中で、私は椅子に深く腰掛け、軽く伸びをした。
(でもまあ、魔力ゼロの私は当然の如く「見学」なのよね。無理に森に入って肉食魔獣の餌にでもなったら、それこそ目も当てられないもの。……さて、推しが活躍する姿をここからじっくり拝ませてもらおうかしら)
「お姉さま」
テントの中で、革製の狩猟用ブーツに履き替えていたフローラが、私の袖をきゅっと掴んだ。
「私……お姉さまの側にいたい気持ちを抑えて、行ってきます! お姉さまにふさわしい、最高に素敵で、愛らしい子(魔獣)をきっと見つけてきますねっ!」
(推しが健気すぎて尊いわ……!)
「行ってらっしゃい、フローラ。怪我だけはしないでね!」
私が声援を送っていると、前方から華やかな光が差し込んだ。
「それは僕の役目じゃないかな?」
レオンがブロンドをかき上げ、爽やかに微笑む。
「バイオレッタには、もっと実用的で、君の美しさを引き立てる気品ある魔獣が似合うよ。僕のセンスを信じて待ってて」
さらに背後からは、威圧感が迫る。
「……俺が用意する」
アレクが低い声でつぶやいた。
(出たわね、圧の塊)
「バイオレッタ、待ってろ。……最強の個体を、この手で仕留めてやる」
(いやいや、方向性が間違ってるわよ! 私は魔力がないんだから、最強の大型肉食魔獣なんてプレゼントされても一瞬でおやつにされちゃうわよ! 普通のでいいのよ、普通ので!)
スタートの合図とともに、三人は競い合うようにして森へと散っていった。
***
その頃の森。 フローラは精霊魔法で感覚を研ぎ澄ませ、植物を介して魔獣たちの息遣いを追っていた。
(お姉さまにふさわしい子……)
その時、かすかな鳴き声がして、草むらから小さな影が覗いた。
「……?」
それは白くてふわふわとした、手のひらに乗りそうなほど小さな、羽の生えた兎――希少種『ピボット』の子どもだった。
「……きゅ、……きゅ……」
小さな体は恐怖で小刻みに震えていた。
近くには、力尽きた親の姿。肉食魔獣に襲われたのだろう。ピボット自身も、小さな羽根から血を流していた。
「……っ……可哀想に」
フローラは、かつて暗い屋敷の離れで独り震えていた自分を重ねるように、その場にしゃがみ込んだ。
「もう、大丈夫ですよ」
小さな羽根にそっと手をかざすと、翡翠色の治癒の魔力が傷口を優しく包み込む。さらに、植物の蔓を編み上げて即席の包帯とし、羽根に丁寧に巻きつけた。
膝をつき手を差し出すと、ピボットは一瞬ためらったあと――すり、と頬を寄せてきた。
***
「お姉さま!」
一番にテントに戻ってきたのはフローラだった。その掌には、綿毛のような白い塊が乗っている。
「……え、可愛い!」
私が驚く間もなく、その魔獣はぴょんと私の肩に飛び乗り、頬にすりすりと甘えてきた。
「……お姉さまに完全に懐いていますねっ! この子には、お姉さまの温もりが必要なんです!」
フローラが聖女のような慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
(なんて可愛いの!最高に癒やされるわ……。何より推しが見つけてくれたなんて運命を感じるわ!)
「ふーん、それが君の『最高の一体』なの?」
振り向くと、レオンがいた。その隣には、白く輝くユニコーンの幼体『プリズム』がいる。
「この子は長距離を飛べるし、知能も高くて手紙の配達もできる。戦闘能力も高い。何より――美しい君の目の色によく映えるじゃん?」
(ユニコーン! 確かに見た目もいいし、便利そうではあるけど……!)
その時、ドォォォォン!! と地面を揺らす地響きとともにアレクが帰還した。
その背後には、漆黒の鱗に覆われ、鋭い角を持つ『黒竜の幼体』。
「……お前のために、森で一番の個体を捕らえた」
アレクがドン、と地面に鎖を叩きつけた。
「これをやる。お前を守る盾にしろ」
(いらないわよ!! 盾になる前に私が食べられちゃうでしょ! 『セキュリティ対策』の限度を超えてるわよ!!)
「あはは。そんな物騒な猛獣、バイオレッタが扱えるわけないじゃん?」
レオンがわざとらしく肩をすくめ、アレクと私の間に割り込んできた。そして、宝石が贅沢に散りばめられたブレスレット――最高級の魔導具である『魔獣収納具(ケージ)』を差し出した。
「これを使ってみて。どんなに大きな魔獣でも小さな宝石に収めて、アクセサリーみたいに連れて歩けるから便利だよ?」
「さあ、バイオレッタ。選ぶんだ。君にとっての最高の使い魔をね」