テラーノベル
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三人の視線が、私に集中した。
巨大で最強、けれど命の危険を感じさせる漆黒の竜。
宝石のように美しくて多機能なユニコーン。
そして――私の腕の中で、ちいさく、必死に震えている、この小さくて頼りない命。
「……決まっているわ」
私は迷わず、肩の上の綿毛をそっと両手で包み込んだ。その小さな心音が、私の掌にトクトクと響く。
「私は、この子にするわ」
「……は?」
アレクとレオンの声が重なった。
「本気なの!? バイオレッタ、ピボットなんてただのペットだよ?」
レオンが信じられないといった風に眉をひそめる。
アレクもまた、視線を鋭くした。
「……本当に、それでいいのか」
「ええ。私はこの子がいいの。この子が、私を選んでくれた気がするから」
私の言葉に、肩の上の綿毛が「きゅいんっ」と誇らしげに鳴いた。
隣にいたフローラが、パアッと花が咲くような笑顔を輝かせた。
***
初夏の陽光が降り注ぐ、学院の中庭。
私は柔らかな芝生に腰を下ろし、膝の上のピボットを優しく撫でていた。
「名前、どうしようかしら?」
「きゅきゅっ」
ピボットが膝の上でくるくると――まるで自分の尻尾を追いかけるように回り始めた。
その様子を愛おしそうに見つめていたフローラが、ふと思いついたように口を開いた。
「……『ルピ』なんてどうですか?」
(ルピ……!くるくる回ってる=ループしてるから“ルピ”ってことかしら?)
「とっても可愛い名前ね!」
「きゅいっん!」
ルピは気に入ったのか、嬉しそうに私の膝に顔をすり寄せてきた。
***
狩猟大会の結果は、案の定というべきか、戦闘能力の高い黒竜の幼体を捕まえたアレクと、希少なユニコーンの幼体『プリズム』を捕まえたレオンが、同率1位で優勝。フローラはピボットの希少種を保護した功績を認められ、2位に食い込んだ。
表彰式には、学院のスポンサーである大貴族や王室関係者が詰めかけ、会場は熱気に包まれていた。私は壇上でメダルと賞状を受け取るフローラを、保護者のような気持ちで見守った。
(さすが私の推しね!! メダルをかけてる姿も神々しいわ!)
一方、並んで表彰されているアレクとレオンはというと……。
「ふん」
お互いにそっぽを向き、不機嫌さを隠そうともしていない。二人とも自分が単独一位でないことが気に食わないのだろう。
***
表彰式が終わると、フローラが真っ先に私の元へ駆け寄ってきた。そして、ルピの羽に巻かれた蔓の包帯を解き、翡翠色のオーラを注ぎ込んだ。
「傷が、もうこんなに小さくなっているわ。あなたの魔法のおかげね、フローラ」
「えへへ。お役に立ててよかったですっ」
フローラは照れくさそうに微笑みながらも、真剣な面持ちで包帯を交換する。
「でも、お姉さま。私の治癒魔法は万能ではないんです」
彼女によると、人や動物が本来持っている治癒力を少しだけ早めることはできるが、生命力そのものが枯渇してしまった場合や、すでに魂が離れてしまった者を救うことはできないらしい。
フローラは少しだけ寂しげに俯いたが、すぐに顔を上げる。
「この子、あと一週間もしないうちに、また元気に飛べるようになりますよっ」
「きゅいっ!」
ルピが嬉しそうに鳴いた。
***
中庭の奥、大きな木の影は、黒く塗りつぶしたように暗い。 そこにもたれるアレクの視線の先には、バイオレッタとフローラ、そして彼女の肩で幸せそうに鳴く白い綿毛(ピボット)の姿がある。
「……なぜだ。なぜ彼女は俺の魔獣を拒んだのだ……」
(……いや、わかっている。彼女は俺を避けているものな)
「あんまり遠くに行っちゃだめよ~」
バイオレッタの声がした。蝶を追いかけていたピボットが、近くまでやってきた。ふと、目が合う。
「きゅ、きゅ、きゅーん?!」
ピボットが恐怖で硬直した。
(俺には……絶対に懐かないだろうな。この身に宿る魔力は、ただ壊し、焼き尽くすためだけのものだ。魔獣にとって、俺は『死』そのものに見えるだろう)
「……案ずるな。お前に危害を加えることはしない」
アレクは静かに腰の剣を抜き、迷いなく左の掌をざっくりと切り裂いた。ボタボタと滴る血を見て、魔獣は恐怖に震え出す。
「……おい、お前。俺と契約しろ」
アレクは自らの血を指に取り、空中に禍々しい術式を描く。後ずさるピボットを右手で押さえつけ、その小さな口をこじ開けた。
「飲め。……今この瞬間から、俺がお前の真の主だ」
身体に熱が走り、魔獣の魂の一部が身体へ流れ込む。
(熱い。心臓を直接握りつぶされるような……生命力が削り取られていく感覚。……これが禁忌魔法の対価か)
アレクは歯を食いしばり、魔獣の魂に自らの闇魔法を刻み込んだ。
「……お前の『表』の主人はバイオレッタだ。だが、その魂を縛る『裏』の主は俺だ。……忘れるなよ」
アレクは、まだ止まらない血を拭いもせずに呟いた。
「彼女の前では、ただの無害なペットのふりをしておけ。……だが、もし万が一にでも彼女に危険が迫れば。お前は命を賭して、彼女を守る盾になれ。代償ならいくらでも差し出してやる」
風が吹き抜け、アレクの前髪が乱れる。その背後に広がる影は、まるで奈落の底のように深い。
「……俺は彼女を守れればいい。もう二度と、あの時のように失いたくない」
その独白は、初夏の風にさらわれ、誰に届くこともなく消えていった。
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