食事を終えて彼の部屋に戻ると、泊まるという選択をしたことに、急にドキドキしてきた。
「どうした?」
居すくまって足の間に両手を差し入れたかっこうで、ソファーに縮こまって座っていると、彼が心配そうに声をかけてきた。
「えっと……なんでも……」
何を話せばいいのかわからなくて、ますます肩をすぼめて小さくなる。
「もしかして泊まることを、後悔していて……?」
うつむきがちな顔を、彼に覗き込まれて、
「あっ、いえ、決してそんな……。だけど、なんだかその、泊まるだなんて、ちょっと緊張してきちゃって……」
思っていることを、つっかえつっかえ話した。
「そうか、私も緊張している……」
低くボソリと呟かれた一言に、「えっ、貴仁さんも?」と、訊き返す。
「ああ、緊張しないわけがない。君が、今夜はずっといてくれるのに……」
片腕に腰がふっと抱き寄せられると、空いていた距離がにわかに狭まった。
身体が触れるほど間近に寄ると、緊張がピークに達して、
「あ、あの……クッキー、このクッキー食べませんか?」
目についたテーブルに置かれたままのクッキーに、つい逃げ場を探した。
「ああ、うんクッキーか。そうだな、まだ食べていなかったな」
「……ええ。こ、これなんて、おいしそうで、とっても」
ぎくしゃくとした空気に見舞われる中、一枚を摘まんで口に入れたけれど、
「……しけちゃってますね」
ずっと置きっぱなしだったことで、せっかくのクッキーの歯ごたえが失くなってしまっていた。
「……そうなのか? どれ?」
彼が言うなり、私が口にくわえたクッキーの端っこをかじって、不意討ちな急迫にびっくりするあまり、クッキーを取り落とした。
「わっ、ごめんなさい……!」
「いや、私が悪かった。クッキーをかじる君の可愛さに、つい引かれて……」
そんなことを素で告げられたら、胸のドキドキは収まるどころか、よけいに高ぶるのは言うまでもなく、まるで初めての夜を迎えるみたいにもじもじとして、赤らんだ顔を下に向けた。
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