私は小さい頃から、人間が大好きだった。
私の住む世界では、人間と妖怪たちが仲良く共存し、争いがなく平和だった。
そう、あの日までは。
「彩ー?」
「なに?」
「ちょっと転んじゃってさ…治せる?」
「まかせて。さ、あがって」
「ありがと」
私は魔法で人間の怪我や病気を治す仕事をしていた。あまり、この魔法は得意でないのだけれど、頑張るしかない。という思いで、私はいつも手当てをしていた。
「あのさ…最近、お客さん少なくなってない?」
「え…確かにそうかもだけど、どうして?」
私はてっきり他のお医者さんがいるのかと思ってた。私なんかよりも腕のいい。
彼女は少し顔を暗くし、こう言った。
「あのね。彩のところで怪我や病気を治してもらった人たちが、次々と不幸な目にあっているの。ううん、彩がやった分だけじゃない。他の妖怪たちが治したもの、作った物…どんどん壊れていってるの。街の人は、妖怪なんて信じるから、って言っていて」
「え…?」
「今夜にもこの街にいる妖怪たちは追い出される…いや、もしかしたら殺されるかもしれない。だから彩、逃げて。お願い。できるだけ遠いところへ…」
「ちょっと待って。でも、私他に行く当てないし…まだ14歳だよ?」
「私、いい抜け道知ってるの。だから、夕方迎えにくるから、それまでに荷物まとめてて」
「ちょっと待って。全然意味がわからない…」
「いいから!」
と言い残し、彼女は出ていってしまった。
まだ治してる途中だったのに…いや、どういうこと?私の治した怪我が、不幸へと…?意味がわからない。
たしかに幸運をもたらす魔法は苦手…いや、全くできないけれど。そんな力、私にあるわけ…
いや、一旦落ち着こう。とりあえず、彼女を信じる。荷物まとめなきゃ…
夕方。
「彩。準備できた?ついてきて」
「うん…」
彼女は頭に布のようなものを被っていた。それを、私にも被せた。
そして、しばらく歩いていたところ。
「ここ。ここから逃げれる。…いや、逃がさない」
「え?」
「さぁ、みんな。こいつが主犯の魔女です。火炙りの刑にしてやりましょう!!」
「は?何言ってるの?」
「わしはおまえさんに病気を治してもらってから破産、家も壊れた。忌まわしき魔女め…!」
「そうよ!私の娘も、不慮の事故で亡くなってしまった!」
「なんのこと…?私そんなことしたつもりない…!ねぇ!」
「ずっと騙してたの。あなたのことを。さぁ…」
「嫌…やめて!」
全く理解が追いつかない。どういうことなの?え…?
「魔女の娘。わしらと一緒に、もう一つの世界へ、連れていってやろう」
「妖怪だけの世界。表のこの世界に隠れた、隠世へ参ろう」
「隠世…?いや!私はずっと人間たちとここにいたいのに!」
「まだわからないのか?そうか、無意識に…おまえさんは災いの魔女、災いをもたらす危険な妖怪なのだ。この世界に置いていくなんてもってのほか。それに、不老不死ときている…」
「災いの、魔女…?」
「さぁ、こっちに…」
バシン!
「さっさといっちまえ!妖怪共!この世界におまえらは必要ない!!」
「なんで…あなたは…」
私のところによくきてくれた、年下の男の子…
あんなに優しくしてくれた街の人も、目の色を変えて私を睨みつけている。
私が、災いの魔女だから…?
「さぁ、早くこちらへ!結界を張り、二つの世界の行き来を禁ずる!」
「嫌…!」
次の瞬間、目の前が真っ白になり、気がついた時には知らない世界ー隠世にいた。
それから私は成長が止まり、永遠に幼い姿のまま、今まで生きてきた。
あの日から、一度も現世に行くことはできなかった。けれど、私は何年もかけ、やっと結界を壊す方法がわかったのだ。
だから、もう直ぐ決行する。