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〜前回のあらすじ〜
・息子が家出しました。
・目覚めは王子のキスではなく、キノコのビンタでした。
「俺の…男の証があぁ……」
転生したら女でした。
剣やスライムになる漫画は見た事ある、でも女になるなんてガイドブックに書いてなかったぞ。
存在しないガイドブックに八つ当たりをしても、この絶望感と怒りを相殺できない。
どうせなら卒業まで背中を押してあげたかったものだ。
でも勘違いしないで欲しい。俺は別に童貞だったことがコンプレックスな訳ではないんだからね。
ないんだからね!
「そういえば、お前の名前は聞いてなかったっきね」
この喋るキノコはミルノ。
ビンタで俺のことを叩き起しやがった非常食候補だ。
キノコを見ていると、息子を思い出してしまう。歩く汚物とはまさにこいつのことだな。
顔には出さないが、嫌悪してしまう。
「小浦糸渚です」
「?オーライトって名前っき?」
「いや、渚が名前です。小浦糸は苗字です」
「ナギサ・オーライトっきね。ナギサって呼ぶっき」
ん〜……うん。いいよそれで。
さすが俺!懐がデカい!という訳ではなく、単に 色々な事がありすぎて、キノコに意思があろうと改名されようと、どんなことでも些細なことに思ってしまうだけだ。
今の俺は、歩くミイラそっくりな見た目をしているんだろう。可愛い女の子よりマシかもしれないが。
「ナギサはどこから来たっき?女の子が1人で森にいるなんておかしいっき」
なんで森に…
転生、この世界では当たり前のものなのだろうか。
キノコが言葉話し、辺りに生えた花も、その花粉に誘われ蜜を吸いに来る蝶も、全てが元の世界では見たことの無い、現実だとは思えない光景だ。
なら、転生も……
だが、今は言わないでおこう。もし、転生が前の世界と同じで現実的なことでは無い場合、人体実験でもされかねない。
ここは、あれで乗り切ろう。
「親に捨てられちゃって、気づいたら1人でした…」
どうだ! 疑えば自分の人間性に自信が持てなくなり、相手からもいいようには思われない禁断の術だ!
渚が生前、なにか自分に都合の悪い出来事が怒った際のために編み出した至高にして最強の手札。 だが、これにはひとつ欠点がある。
「そうっきか、嫌なこと聞いちゃったっきね…申し訳ないっき」
「ははは、いいんですよ…」
同情されると申し訳なくなる。
俊一にも使ったことがあるが、その後ジュース奢られてほんとに申し訳なかった。
申し訳なさを押し殺し、自分のした事が人道に反することを改めて実感する。
この技は、しばらく封印しよう……
「ミルノさんは、なんで森に?」
「ミルノでいいっき。私は薬剤師で、森には薬草を取りにきたっき」
「キノコが1人で?」
「ああ、まだキノコのままだったっきね」
「え?」
ミルノがそう言うと、ボカン!という音と共に煙幕のように煙がひろがった。
次第に、焦げ臭い匂いとキノコの匂いがあたりの空気に消えていき、視界を覆った煙もなくなっていった。
「コレが普段の姿です」
「だ、だれ?」
そこには、緑の髪をした、ツインテールの可愛らしい女の子が立っていた。 容姿端麗で、14歳くらいの清楚な感じの女の子だ。
普段の姿、ということはこいつはミルノなのか? 正直可愛い…こいつが友達にいたら一軍生活間違いなしだろう。
「なんか、口調変わった?」
「この姿になると、自然と口調が変わるんです。まあ、王都にいる時はこっちの方が好都合ですし」
「なるほど…で、王都って?」
王都ローグライト、国王アストヘルド・ローグライトが統べる、500年の歴史を誇る戦争都市らしい。
戦争都市と言えば聞こえは悪いが、人と争う訳ではなく、魔物との戦を生業とするらしい。
最近は王都に勇者が来るという噂も広がっているらしく、かなり盛り上がっているんだとか。
「やっぱ魔物とかっているんですね」
「ナギサも魔物じゃないですか」
「そうだった…ってことは、俺も殺されるんじゃないの!?」
「魔物だからって全員殺す訳じゃないです。魔物の中でも、人型の魔物や獣人系の魔物は手続さえすれば入国できますよ。」
「へぇー、結構優しいんだね」
「……そうですね」
最後のミルノの反応は気になったが、どうやら殺される心配は無くなったようで良かった。
ロングボード、このまま森で路頭に迷うよりも、どこか街へ行ってこの世界を知った方がいいだろう。
知恵は力。情報がないと何も始まらない。
「なら、暗くならないうちにロングボードとやらに行こうか!歩くのはしんどいけど……」
「歩く必要はないですよ」
「え?じゃあどうやって…」
「こうやって!」
そう言った瞬間、ミルノが手をパチンッ!と叩いた。
なんだか見覚えのある暖かい白い光に身を包まれ、優しい浮遊感と共に、視界を奪われた。
「んぅ…眩しい……」
眼球が光に刺激され、力強く目を守る。その痛みを消すように目を擦り、重い瞼を押し上げる。
「着きましたよ」
「ここは……」
目の前の光景が色付き、先程までの森とは違った景色が広がってゆく。
ジャリジャリとした土ではなく、コツコツした石造りの床。
辺りにあるのはたくさんの木ではなく、ヨーロッパを彷彿とさせる暖かい見た目の建物。
聞こえる音は、風が葉と葉を擦り合わせる音ではなく、人と人の和気あいあいとした話し声に、肉が鉄板で踊るジューシーな音。
その全てが、童話の世界に入り込んだかのように美しく、色鮮やかだった。
「ここが、」
「王都ロングボードへようこそ」
「凄い、凄いよ!!こんなの初めて見た!」
うはー!!引きこもり生活ではこんなの見たこと無かったよ!都会とは違ってみんな楽しそうに話してるのが新鮮だなぁ!
都会の死んだような空気とは違い、人々の生き生きとした、陽気な雰囲気の新鮮さに胸を躍らせる。
さっきの変身といい瞬間移動といい、ミルノには驚かされてばっかりだ。
「ほら、魔物はこっちで手続ですよ」
まだこの街を堪能したかったが、ミルノに手を引っ張られ、城門の隅にある受付に連れて来られた。
こんなに元気で平和そうな国なんだし、みんな優しいんだろうなぁ…!
「すみません。この子、入国させたいんですけど」
「ん?ああミルノさんじゃないですか!この前は薬、ありがとうございました!」
ミルノは結構顔が知られた薬剤師みたいだ。受付のおじさんは、ミルノに助けられた患者かなにかなんだろう。
「元気になられたようで良かったです」
「はい!薬がかなり効いたみたいで、もうピンピンしてますよ!それで、入国したい魔物ってゆうのは、そちらのお嬢さんですかな?」
「は、はい!」
「はっは!元気な嬢ちゃんだな!じゃあこっちに来てもらおうか。ミルノさんはそこで待っていてください!」
「じゃあ。また後で」
高らかと笑う、どこか頼りない感じのいけつかないおっさんと共にミルノと別れ、俺は受付の裏へと連れ去られてしまった。
薄暗い部屋の中心に座らされ、おじさんと向かい合わせになる。
結構おじさんの身長は高く、長話をすると首が疲れそうだ。
「じゃあ、年齢と名前を教えてくれるかな?」
「……ナ、ナギサ・オーライトです…歳は16歳で、種族はリリム…だと思います……」
「なんか曖昧だね…まあ、あんまり緊張しないでいいよ!自分のペースで話してね」
やばい、コミュ障が発現して思うように言葉が…ミルノはキノコだから余裕だったけど、人と話すのはやっぱりキツイ……
でも、いけつかないと思ってたけど、結構優しそうな人でよかっ__
「じゃあ、服脱ごうか」
「…………え」
……え?
「ぬ、脱ぐって?」
「服を脱がないと、刻印が入れれないからね」
刻印。魔物が入国する際に、魔物の血を炭と混ぜて背中に刻む安全な魔物の証と、ミルノが言っていた。
刻印が必要なのは知ってるけど!
「おじさんは犯罪者予備軍ですか……」
「違うよ!!これは魔物を入国させるための必要な手続なんだよ!!犯罪者なわけないでしょ!!」
予備軍ってことか?
まあ、体が女とはいえ心は男。たった一人のおっさんに裸を晒すことに抵抗なんか……
抵抗なんか…
「ないんだからね……」
結局脱いだ。
街とは違い、かなり体が冷える。裸なのも相まって、呼吸が白くなり、震える。
羞恥心と嫌悪感が俺を襲い、衣服のようにまとわりついてくる。なんとも不気味な…やな気分だ。
絶対ミルノにチクってやるんだからな!
「じゃあ、ちょっとチクッとするよ」
「いてっ」
指から滴る血を、水と墨の混ざった液体に垂らす。 筆に液を染み込ませ、俺の背中にゆっくり当てる。
「ひゃんっ!」
やば!女になった影響か、体がかなり敏感になってるみたいだ…思わず声が、
筆に背中を優しくなぞられ、そのたび、今までにないこしょばさと冷たさで思わず恥ずかしい声が口から漏れる。
少し顔が赤くなり、羞恥心と無力感で、ちょっと泣きそうだ。どうやら体が反応しやすくなるだけでなく、おまけに涙腺まで緩むようだ。
「キミ…結構イイ身体してるね……」
「はは、ありがとうございます……」
ん?変態じゃん。セクハラだろこれ。
さっきまで優しいおっちゃんだったのに、急に電車にいる痴漢魔みたいになったぞ。
「ほら、もっと力抜いて……」
「で、でも…」
「大丈夫、痛いのは最初だけさ……」
おじさんの持つ筆が、背中で踊るように円を描き、かなり顔を近づけているのか、おじさんの吐く息が背中に伝わる。
「あっ…ちょっ、ちょっと?」
「大丈夫だって、おじさん、結構上手いからさ…」
やばい。こいつやべぇわ。なんか手つきがいやらしい気がしてきたし。
俺の言葉を無視し、また筆を走らせる。
その筆さばきはどこか手馴れていて、これまで多くの魔物に刻印を刻んだということを知らしめてくる。
「ア゛ッ!…」
その瞬間、体全体を針で刺されたかのような激痛が俺を襲った。体温が徐々に上がり、熱のような状態になり息が荒くなる。
やばい、身体が熱い…呼吸が安定しない…
「何、コレ……力が、抜けて……」
これ、あかん…やつ____
「……んあ?」
知らない天井だ。
というのが定番だろうが、実際のところそんな言葉はパッと出ない。
目を開くと、先程の拷問部屋のような場所ではなく、花の香りが漂う古っぽい部屋のベッドに寝かされていた。
フカフカなベッド。隣で本を読んでいたミルノが、俺の目覚めに気が付き、おでこを触って俺の体調を確認する。
「もう大丈夫みたいですね」
「ああ、ミルノ…」
「心配しましたよ。ナギサ、刻印を入れた途端に気を失ったそうですね」
そうだ、たしかロングボードに来て刻印を……
「あの変態のおじさんは!?」
バッ!っと勢いよく布団から飛び起きた俺に驚いたのか、ミルノは大きく目を開いていた。
うん。可愛い。キノコだったとは思えない。
「変態おじさんって、ルスカーさんの事ですか?」
あのおっさんはルスカーというらしい。
ミルノ曰く、かなり優しい門番の人らしいが…本当なのだろうか……
「俺、なんもされてないよな?」
「何もされてないです。さっき確認しましたし。気絶したのは刻印による副作用です」
「確認…確認っ!?」
確認ってことは、まさか…!
「はい。見ましたよ、ナギサの身体を隅々まで 」
思わず身を引いてしまった。
先程まで優しい女の子だと思っていたが、今はケダモノに見えてしまう。
俺、この国にいたら貞操が危ないんじゃないだろうか…まあでも、ミルノのことだし、あんまり変なことはしてないんだろう。
「やっぱり処女だったんですね。初々しくて可愛いです。ナギサ、毛も生えてないし、内側も少し濡れてるところとかとても__」
「もういい!!てか、俺の陰部を重心的に見すぎだろ!」
異世界……しんどい。
俺のミルノに対する清楚なイメージは、名残惜しく、儚く砕け散ってしまった。
俺は、この国で童貞を、処女を守れるのだろうか。
テスト期間が重なり、更新が遅くなりました。
これからは、必ず週1以上で更新します。