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#茈赫
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「おめでとう」
画面に表示されたその文字を見た瞬間、いるまは目を閉じた。
送信者はなつだった。
短い一言。
それだけ。
けれど、誰からの言葉より胸に刺さった。
スマホを握る手に力が入る。
◇◇◇
数日前。
いるまは告白された。
相手に嫌なところはなかった。
むしろ良いやつだったと思う。
だから断る理由も見つからなくて、付き合うことになった。
普通なら喜ぶべきなのだろう。
恋人ができた。
周りからも祝われた。
なのに。
心のどこかがずっと空っぽだった。
理由なんてわかっている。
認めたくなかっただけだ。
画面にはまだ、なつからのメッセージが残っている。
『おめでとう』
たったそれだけ。
いつもみたいな絵文字もない。
軽口もない。
妙に他人行儀な文章だった。
いるまは唇を噛む。
本当は。
一番最初に伝えたかった。
恋人ができたことじゃない。
できる前に、
好きなやつがいるって。
ずっと隣にいてほしいやつがいるって。
伝えたかった。
でもできなかった。
今の関係が壊れるのが怖かったから。
だから何も言わなかった。
何もしなかった。
その結果がこれだ。
スマホを開く。
何度も文章を打つ。
消す。
打つ。
消す。
『ありがとな』
結局、それしか送れなかった。
送信ボタンを押したあと、自分で笑ってしまう。
馬鹿みたいだ。
本当に言いたいことは一つも書けていない。
しばらくしても返信は来なかった。
当然だ。
返しようもない。
いるまは天井を見上げる。
今さら気付いた。
いや、ずっと前から気付いていたのかもしれない。
自分はあいつの幸せを願っていた。
笑っていてほしいと思っていた。
楽しく過ごしていてほしいと思っていた。
でも。
その隣にいるのが自分じゃない未来なんて考えたこともなかった。
「……最悪」
ぽつりと呟く。
なつが誰かと付き合ったら。
誰かに名前を呼ばれて。
誰かに笑いかけて。
誰かの隣を選んだら。
たぶん自分は心から祝えない。
嫌だと思ってしまう。
引き止めたくなる。
そんな資格なんてないのに。
窓の外では夕焼けが滲んでいた。
スマホの画面には、既読のついたトークルーム。
その先にいる相手の顔を思い浮かべる。
会いたい。
声が聞きたい。
今さら言ったところで遅いのに。
いるまは目を伏せ、小さく息を吐いた。
君の幸せを願えるほど、
俺は大人じゃなかった。
コメント
1件
うわあ……胸がぎゅっとなる話だね。いるまが「おめでとう」の一言にここまで揺れるのは、ずっと彼女のことを想ってたからだよね。告白されて付き合ったはずなのに心が空っぽで、本当に伝えたかったのは「好きだ」ってこと。でも今の関係を壊すのが怖くて何も言えなかった。そのツケが「おめでとう」で返ってくる切なさ。『君の幸せを願えるほど、大人じゃなかった』ってタイトルが、最後のひとり言で完璧に回収された感じがして、じんわり来たよ。続きが気になる……。