テラーノベル
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スマホが震えたのは、夜十一時過ぎだった。
編集もそこそこに切り上げて、ベッドへ潜り込もうとしていた時。
何気なく通知を開いて、いるまは固まった。
送信者はなつ。
表示されたメッセージは、たった一言だった。
『迎えに来て』
それだけ。
理由も場所もない。
普段なら「どこにいるんだよ」と返して終わる。
なのに。
胸の奥が妙にざわついた。
いるまはすぐに電話をかける。
数コール後、繋がった。
『……もしもし』
聞こえてきた声はいつもよりずっと小さい。
元気がない。
「どこ」
『え』
「迎えに来いって言ったの、お前だろ」
数秒の沈黙。
やがて小さな声が聞こえた。
『駅前の公園』
「待ってろ」
通話を切る。
上着を掴み、家を飛び出した。
夜風が冷たい。
信号を待つ時間さえもどかしかった。
公園に着くと、ブランコに座るなつの姿が見えた。
街灯に照らされた横顔は、どこか寂しそうだった。
「いた」
声をかける。
なつが顔を上げた。
「ほんとに来た」
「お前が呼んだからな」
当然みたいに答える。
なつは少しだけ目を丸くしたあと、ふっと笑った。
その笑顔を見て、少し安心する。
「何かあった?」
隣に立ちながら聞く。
なつは足元を見つめたまま答えない。
しばらくしてから、小さく口を開いた。
「なんか今日、全部上手くいかなくて」
ぽつり。
ぽつり。
少しずつ言葉が零れる。
活動のこと。
友達のこと。
自分のこと。
大したことじゃないと笑おうとしているのに、声だけが震えていた。
いるまは黙って聞く。
137
1,149
いちご@低浮上中。。。
18,419
24,665
無理に励ますこともしない。
正しい言葉なんてわからないから。
話し終えたなつは、自嘲するように笑った。
「ごめんね」
「何が」
「急に呼び出して」
いるまは少し考えてから言った。
「別に」
そして続ける。
「お前が呼ぶなら行くし」
言った瞬間、自分でも恥ずかしくなった。
なつも驚いたようにこちらを見る。
夜の公園。
二人だけ。
逃げ場がない。
「……それ、ずるい」
なつが呟く。
「何が」
「そういうこと普通に言うところ」
顔を背けたなつの耳が少し赤い。
いるまは思わず笑った。
「事実だろ」
困った時。
苦しい時。
泣きそうな時。
呼ばれたら行く。
たぶん何度でも。
理由なんていらない。
なつはしばらく黙ったあと、小さく笑った。
さっきまでの無理をした笑顔じゃない。
少しだけ力の抜けた笑顔だった。
「ありがと」
「ん」
「来てくれて」
いるまは肩をすくめる。
そして何でもないように言った。
「帰るぞ」
「うん」
立ち上がったなつが隣に並ぶ。
夜道を歩く。
触れそうで触れない距離。
でも今は、それでよかった。
『迎えに来て』
たった一言。
その言葉を送ってくれたことが、少しだけ嬉しかった。
コメント
3件
すきやわ、こういう話…
「迎えに来て」のたった一言で動き出せる関係性、すごくいいなと思いました。なつが全部うまくいかない日に、理由も場所も言わずに送ったLINE。それだけで駆けつけられるいるまの距離感が、すごくしっくりくるし、現実感があるんですよね。公園で黙って話を聞いてくれて、「お前が呼ぶなら行くし」ってさらっと言えるの、理想的すぎる。無理に励まさず、正論を押し付けず、ただ隣にいることを選ぶ強さ。それがちゃんと伝わってきました。触れそうで触れない距離って言葉も、この二人にぴったりだなあ。今後の展開が気になります。