日本へとやってきた私達は、いよいよ本土へと足を踏み入れることになる。ここ新日本国際空港は東京湾にあるメガフロート、つまり人工島に建設された飛行場だ。海上に作るから土地の制約を受けない。その代わり東京湾の海上交通がとても複雑になるらしいけど、その辺りはこの数十年でなんとか解決したらしい。
まあ、日本は使える土地が少ない国。飛行場はそれなりの広さの土地を必要としてしまうから、建設はもちろん維持管理も色々と大変だったりする。
人工島に建設してしまえば、土地絡みの厄介事を避けることが出来る。費用その他の問題もあるけど、何とか乗り越えて完成まで漕ぎ着けたようだ。
当然海上にあるわけだから、陸地とは連絡船や直通のハイウェイで繋がっている。
私達は政府が用意してくれた車に乗ってそのハイウェイを走ってる。本当なら首相自らが出迎えるべきだったなんて官僚の人達が謝ってきたけど、私としてはそんなに仰々しくしたくはない。前世の故郷って贔屓もあるけど、普通の客を相手にする感じでお願いしたいって伝えたら、皆さん困った顔をした。何故?
「はははっ、だから言ったでしょう?これがティナさんの本音であり感性なんですよ。特別扱いに慣れていないと言うか、されたくないと言うべきか」
そんな官僚さん達に朝霧さんが笑いながら話し掛けてる。変なこと言ったかな?
「お姉ちゃんはそのままで良いと思うよ?☆見ていて楽しいし(ボソッ)」
ばっちゃんには気にするなって言われたよ。後半の呟きは聞こえなかったけど、聞いちゃいけないような気がするからスルーしとくけどさ。
「ティナはそのままで大丈夫ですよ。足りない分は私達がサポートしますから」
フェルも笑顔だし、気にしないことにする。何だろう、フェルに言われたら安心感が半端じゃない。
「皆さん、この後の予定ですが塩崎首相と会談に望んでいただきますが、その後はフリーです。宿泊地はご用意していますが、どうしますか?」
朝霧さんがスケジュールを教えてくれたけど……。
「フリーですか?」
「ええ、フリーです。皆さんには有りの侭の日本を満喫していただきたく思います。政府としても、皆さんのご要望を最優先としますのでお気軽にお申し付けください」
私の質問に同乗している政府の人が応えてくれた。フリーかぁ。確かに日本は治安も良いし、観光地も山ほどある。数十年経ってるけど、少しは土地勘も使える筈。最悪アリアが居るしね。
でも、気を付けないと行く先々で騒動が起きてしまう。その辺りは慎重に考えないといけない。
……まあ、何かあったら飛び出してしまうんだろうけど。
「朝霧さん、私はたくさんの護衛の人を連れ回りながら移動するのは苦手です」
「ええ、承知しています。ですから、護衛は最小限に留めます。必要ならガイドを手配しますよ」
「それでお願いします。そして、何があっても日本政府の責任にはしないでください」
私の要望に政府の人達が困惑してる。まあ、国賓に何かあったらその国の責任なのは分かる。でも私は合衆国で学んだ。
何かあって、そして何か出来ることがある以上私はじっとしていられない。そのせいでハリソンさん達には随分と迷惑をかけた。
「分かりました。この後首相とお会いしていただきますし、その時にティナさんの気持ちを伝えてください」
朝霧さんの返答に頷いた。かなり無茶なお願いをしたけど、私が原因の問題に国を巻き込みたくはない。
まあ、何があっても平気だって自信もあるし。
「お姉ちゃんって色んな人に胃痛をプレゼントするのが好きだよね☆」
「それがティナですから」
「あはは、もう慣れましたよ」
ばっちゃん、フェル、朝霧さんが笑ってる。いや、ちょっとは自覚もあるけどさぁ。
暫くすると陸地が見えてきた。残念ながら前世は地方の片田舎、東京には出張で一度来ただけだ。
出張なのに移動費含めて全て自己負担&正気を疑うレベルの過密スケジュールで、観光を含めた遊ぶ時間なんて全く無かったけど。シンボルである東京タワーやスカイツリーを遠目にチラッと見たくらい。お仕事だから仕方ない?なら交通費くらいは出して欲しかったね。
しかも接待費と称してなけなしのボーナスまでカットされる始末。いや、ほんと何であんな会社で頑張ってたのか不思議で仕方がない。
「ティナ、大丈夫ですか?」
「何でもないよ、フェル」
前世のブラックサラリーマン時代を思い出して邪なオーラが出ていフェルを心配させてしまった。
そのまま首都高速道路へ乗り入れたんだけど……。
「わぁっ!」
「ほほぅ?」
「ようこそ、我が日本国の首都東京へ」
車窓から見えるのは大都会東京の大都市だ。とんでもなく高いビルが立ち並び、無数の車や人、電車が慌ただしく行き交う光景にフェルが目をキラキラさせてるし、ばっちゃんも興味深そうだ。
前世でチラッと見た時より更に発展しているように見えるのは私だけかな?まあ、三十年もあれば見違えるくらいに変わるよね。地方の田舎はほとんど変化はないだろうけど。
……生まれ故郷、行ってみたいな。
そのまま暫く大都市を通り、日本における政治の中枢国会議事堂へやってきた。
「ばっちゃん、ここが国会議事堂。この国の政務局みたいな場所かな。あと集会所かな?」
「政策を議論する場だね?☆議院内閣制度、アードでも千年以上前にやってたって記録があったよ☆」
「へー」
アードでもやってたんだ?いや、時代に合わせて政治形態を変化させるのは当たり前のことなのかもしれない。
「でもそれだと意見を纏めるのが大変なんじゃありませんか?」
「基本的に多数決の論理だからねぇ」
アードにも政務局を中心に政策議論が交わされるらしいけど、最後に決めるのは女王陛下だ……まあ、詳しくは分からないけど。
「この国には合衆国と違ってやんごとない身分の人が居るんだってね?☆」
「セレスティナ女王陛下のような方でしょうか?」
「あー、うん。そうみたい」
流石に畏れ多すぎる。いや、今はアード人なんだけど前世は日本人だからなぁ。でも会うことになるのかな……?
あっ、ちょっと胃が痛くなってきた。これがジョンさん達の気持ち……?
ちなみに今私達は翻訳を切ってアード語で話してる。フェルは共通言語を使うかと思ったらアード語をマスターしてた。いつの間に……?
もちろん朝霧さんには事前にプライベートな会話は恥ずかしいから翻訳しないと伝えてる。これまではそんなことしなかったけど、今回はばっちゃんが居るからね。
「お久しぶり、ティナちゃん。そして初めまして、フェラルーシアさんとティリスさん。ようこそ日本へ」
車から降りた私達を美月さんが如何にも偉そうな人達を連れて出迎えてくれた。
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