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###番犬くんと優等生###
<第十章> 新たな支配者
“大きな壁”
巨体の男の後ろから現れたのは、紛れもなく流風(るか)だった。春夜を屋上に呼び出した張本人。彼がなぜこんな男と一緒にいるのか、その疑問は春夜の脳裏を駆け巡ったが、考える間もなかった。流風の顔には、昼間の可愛らしい笑顔はどこにもなく、代わりに浮かんでいたのは、冷酷で、底知れない愉悦に満ちた表情だった。その瞳の奥には、龍崎とはまた違う種類の、しかし確かな支配者の光が宿っていた。
春夜は、流風のその表情を見た瞬間、すべての疑問が氷解した。最初から、流風は「相談」などするつもりはなかったのだ。これは罠。龍崎の支配を逃れてようやく掴んだ自由が、あっけなく崩れ去ろうとしている。しかし、春夜に恐怖はなかった。胸に燃え盛るのは、裏切られたことへの激しい怒り、そして、この状況を排除しようとする純粋な闘争本能だけだった。
「……テメェ……!」
春夜は、雄叫びにも似た低い声を上げると、考えるよりも早く、目の前の巨体の男へと殴りかかった。流風が背後に隠れているということは、この男が厄介な存在であることは間違いない。まずは目の前の危険を排除し、流風を確保する。それが春夜の唯一の選択肢だった。
春夜の拳は、鍛え抜かれた鋼のような筋肉を持つ男の腹部に正確にめり込んだ。ドスッ、という鈍い音が響き渡る。春夜の渾身の一撃だ。普通の人間であれば、確実に倒れていただろう。
しかし、巨体の男は、わずかに顔を歪ませただけで、まるでダメージを負っているようには見えなかった。春夜の拳を受け止めた腹部の筋肉は、硬い岩のようにびくともしない。その頑丈さに、春夜は眉をひそめた。
(硬ぇ……!)
春夜は、相手が予想以上に手強いことを悟った。このまま無策に攻撃を続けても、体力を消耗するだけだ。春夜は咄嗟に、一度距離を取って体勢を立て直そうと、後ろに跳び下がった。
その時だった。
まるで、春夜の動きを予測していたかのように、巨体の男が急に動いた。その巨体に似合わない、信じられないほどの敏捷な動きだった。春夜が距離を取ろうと下がるのと同じタイミングで、男は恐ろしい速さで間合いを詰めてきた。
春夜は、急な動きに対応できず、体勢が整わないまま、男の拳をみぞおちにまともに喰らった。ゴッ、という重く鈍い音が、春夜の身体の奥底に響き渡る。肺の空気がすべて押し出され、呼吸が止まった。全身に激痛が走り、視界が歪む。
「……ぐ、ぅ……あ……!」
膝から力が抜け、春夜の体が前のめりに傾いだ。激しい痛みが脳髄まで達し、意識が遠のいていく。倒れそうになる春夜の肩を、巨体の男は容赦なく掴んだ。
朦朧とする意識の中で、春夜は、男の背後に立つ流風**の顔を見た。流風は、春夜の苦痛に満ちた表情を見て、満足げに微笑んでいた。その瞳は、まるで春夜のすべてを見透かし、弄ぶかのように冷たく光る。
その瞬間、春夜は理解した。
(あい、つ……龍崎と同じだ……いや、それ以上に……っ)
流風の瞳の奥に隠されていたもの。それは、龍崎が春夜に求めた「支配」とは異なる、より深く、より純粋な「破壊」と「愉悦」の光だった。春夜の意識は、その深淵を垣間見たまま、完全に闇へと沈んでいった。
最近ひゅるりらぱっぱていう曲が頭から離れないʕ•ᴥ•ʔ
ではまた次回!
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