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#aph
友ゴリラ
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#アーサー・カークランド
そらしろ
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彼と過ごした日々は宝物だった。
幼少期の思い出には収まらないくらい沢山のものをもらった。僕はまだそれを返すことができていない。いつか彼にまた会うことが叶ったならば、そう考えると不思議な高揚感が胸をくすぐる。彼は僕の心の宝物だった。
今日という特別な日の準備をするのは、彼が生きていた頃から変わっていない。
食品売り場を眺めながら歩く。例年通りケーキを作ることは決まっているけれど、まだこれを手に取ろうと思うほどイメージが固まっていない。幼少期から彼のケーキを作るのは俺だった。
「う〜んと、ケーキの材料でしょ?」
「苺と薄力粉と卵と砂糖とか〜?ハンガリさん他に何がいると思う?」
「苺以外のフルーツも使いましょ!あとは生クリームも忘れないようにしないと」
「去年はイタちゃんすごい頑張ってシュヴァルツベルダー・キルシュトルテ作ったものね」
「ね!ナッペと組み立てがすごく大変だったなぁ。洋酒の加減も少し間違えると食感がだいぶ変わっちゃって」
「今年は何作ろっかな〜」
「買い出し当日にも思いついてないなんて珍しいわね。いつも前日にはノリノリで設計図を見せてくれるのに」
「設計図見るの楽しみにしてたからちょっとびっくりしちゃった」
「最初はね、ちょうどこの前兄ちゃんにカッターサの美味しい作り方を教わったから、それにしようかと思ってたんだけど」
「なんか違うなぁ〜と思って」
「成程ね。私が作り方教えられるのなんてドボシュトルテくらいしか無いしなぁ〜」
「それにイタちゃん私よりお料理上手だものね」
「あ!そういえばさっきハンガリーさんフルーツいっぱい乗せようって言ってたよね?」
「え?うん言ったけど」
「今年はいろんなフルーツを贅沢に使ったフルーツタルトにしちゃおう!確か家にこの前ドイツと日本にケーキを振舞った時に使ったナパージュの材料は残ってたはず!」
「そうなるとタルト生地も必要よね?」
「タルト生地もクレームダマンドもアーモンドプードルを買えば材料は揃うから大丈夫!」
「じゃあフルーツいっぱい買っちゃいましょ!」
「今日は奮発するわよ!」
「余ってもプロイセンがぺろっと全部食べちゃいそうだしね〜」
「たくさん買ってすっごい豪華なフルーツタルトにしよう!」
毎年のように、ハンガリーさんとする会話。買い物は毎年料理関係を俺とハンガリーさん、飾りなどをオーストリアさんとプロイセンが買っている。だから今彼ら2人はここいいない。2人は今どんな話をしているんだろか。
今年は何を作ろうか、そう考えるたびに胸が躍る。幼心に返ったような、高揚感。彼のことをまだ忘れずにいられることがすごく嬉しかった。
薄れない記憶というものはないと知っているけれど、彼とのあの陽だまりの日々を忘れたくないと思う。
大きなメロン、スイカ、他にも真っ赤なイチゴに、艶やかなブルーベリー。瑞々しいみかん。フルーツの種類は多くに及んだ。
「どうする?洋梨と桃も買う?」
「買っちゃえ!」
お店に売っている果物を片っ端からひとつずつ買い物かごに入れていく。
フルーツのほかに誕生日のご馳走用のお肉や野菜なんかも買うとなんとカゴは二つにもなった。
これを1人で持つのは流石に厳しいのでハンガリーさんと分担して持つことにした。
「やばい。調子乗りすぎたかも〜ハンガリーさん重くない?」
「ん?平気よ。イタちゃんのも持とうか?」
「それはカッコ悪いよ〜。大丈夫!自分で持つから!」
俺より絶対的に華奢なのに俺よりも重いカゴを持っているハンガリーさんの姿に自信をなくす。
流石若い頃はそこら辺の男性国とも引けを取らずに戦ってた人だなと、改めて感心した。白旗ばかり振っていた過去の自分まで情けない。
大丈夫と言い張ったものの重いものはやっぱり重い。俺の方にはメロンもスイカも入ってないんだけど。おかしいな。ハンガリーさんはすごく軽々と持ってるのに。
そんな俺を見かねてハンガリーさんが言った。
「イタちゃん大丈夫?」
「だいじょばないかも」
「さっさとオーストリアさんたちに合流しましょ」
「合流したらイタちゃんの荷物はあのバカに持って貰えばいいわ」
「筋肉だけは有り余ってるもの」
その言葉に少しの希望を見出す。会計を終えて、エコバックに荷物を詰め、エスカレーターを一つ上がればもう誰かに変わってもらえる。あと少しの辛抱ともう一度気合を入れてカゴを持ち直した。
「じゃあ、早く合流しないとね」
別のお店で、部屋の飾りを用意しているオーストリアさんとプロイセン。毎年、二人は喜んで彼の誕生日会に協力してくれる
彼の姿を思い返す。その笑顔が俺は大好きだった。俺の前で花の咲くような笑顔を浮かべる神聖ローマ。やっぱりもう一度会いたい。
「そうね!あのバカが変な飾り付け道具を買ってたら大変だもの!」
「あ!確かに〜。プロイセンならどこに置くかもわからない巨大クラッカーとか買っちゃいそう」
そう言って2人で談笑をしながら会計を済ませた。荷物の量は変わらないから相変わらず重いけれど、オーストリアさんとプロイセンと会うまでの辛抱だ。
それくらい頑張ろう。
2人の姿が見えてくる。
「おー、イタリアちゃんにハンガリー!遅かったな!こっちはもう選び終わったぜ!」
「え、まさか買っちゃったの?その前に少しはこっちに確認とってくれない?」
「あんたが変なもの買って困るのはオーストリアさんなのよ!」
「大丈夫ですよ。ハンガリー」
「オーストリアさんがそういうならいいですけど」
「あ、プロイセンあんたイタちゃんのこの荷物持ってあげて」
その言葉を聞いたプロイセンは一二も言わずに了解すると俺のカバンを持ってくれた。
肩が外れる前にプロイセンに渡すことができてよかった。
彼と幼少期を過ごしたあの家は、今も変わらずそこにある。
オーストリアさんの家にある冷蔵庫に買った食材を詰めていく。
正直ギリギリだ。やっぱり買いすぎたなと思う。
その日は家に帰ったあと不思議な夢を見た。
オーストリアさんとスペイン兄ちゃん、ハンガリーさんたちが戦っている夢。
相手にはフランス兄ちゃんもいたし、プロイセンも居た。オランダだっていた。
多分、三十年戦争だ。起きてからそう気づくまで時間はかからなかった。
何度も調べたその戦争。知識だけなら完璧に頭に入っている。彼が帰って来なかった戦い。
この時期になると、毎年こんな夢ばかり見る。
もしも、あの時彼が勝っていたのならまだ彼と笑い合えていたのだろうか。
どこで調べても書かれているのは「三十年戦争の敗北が実質的な神聖ローマ帝国の解体だった」ということだけ。
1648年10月。三十年戦争の講和条約が行われた。ミュンスター講和条約とオスナブリュック講和条約。今では二つを合わせてヴェストファーレン条約と呼ばれている。
そこで明確にわかることだ、三十年戦争で神聖ローマを含むローマ・カトリック勢力は負けた。
きっと、どれだけ希望を持ったとしても、彼はもう生きていない。わかってる。何度も確認した事実だ。
きっと、もう存在しない彼と俺が再び会うことができるのは、イタリアが亡国となった頃だろう。
きっと、俺が天国に行くまで彼には会えない。
だけど、もう一つ思うのは、あの戦争で彼らが勝ったなら今俺は兄ちゃんと二人で暮らせているのか、という疑問だった。
確かに三十年戦争以降にハプスブルク家が衰退していったことはイタリア王国の統一に重要なピースだった。
まだハプスブルク家の力が強かったのなら、きっと兄ちゃんはスペイン・ハプスブルク家の下で両シチリア王国として、俺はオーストリア・ハプスブルク家の下でサルデーニャ王国として。きっと別々の国として暮らしいたと思う。
俺の今の幸せは彼の犠牲の元に存在する。だからこそ、その事実はいつまでたっても悪夢として俺の心に問いかけてくる。
俺に彼の誕生日を祝う資格があるのかと。
誕生日当日の早朝。俺はドイツに叱られてもできなかったような早起きに成功した。
どれもこれも屈辱的なことにあの悪夢のおかげだ。
キッチンに立つとケーキ作りを始めた。
頭の中で反芻する悩みを追い払おうと無我夢中でゴムベラを動かす。
さぁ大変だ。悩み事なんてしている暇はない。
カスタードクリームは煮詰めて作らなきゃならないし、とろみが出たら冷やして。
粉ゼラチンの残りを取り出したら加熱してグラニュー糖を混ぜる、これでナパージュの完成。
タルト生地を作ってクリームを敷いて、最後にたくさんのフルーツを乗せていく。
書けば簡単だけど、これで合計三時間もかかるんだからこんなの詐欺に等しい。
やっぱりフルーツは買いすぎで大量に余った。
最終的には全部プロイセンの胃袋の中に収まったから、まぁ、問題はないと思う。
ご飯を食べたら、今度は誕生日のご馳走も作る。
部屋の飾り付けをするみんなを見て本当は「なんか俺だけ重労働すぎない!?」と言いたい気持ちを抑えた。
そんなことを迂闊に言おうものなら、プロイセンが手伝いに来る。
ケーキの飾りが想像の二百倍くらい派手になりかねない危機的状況を迎えてしまう。
日が傾く頃には準備はもう整っていた。
テーブルに並べられた豪華な料理、壁に付けられた飾りは豪華な部屋をさらに引き立てる。
果たして俺は飾り付けに見合う料理を作れただろうか。
そう疑問に思いながら席についた。
中央に一つぽっかりと空いた席。いない彼のために開けた席を一瞥すると4人で一斉にグラスを掲げた。
「Prost!」
「おめでとう。神聖ローマ」
みんなの声が揃う。
今日彼が1806年に亡くなってから220回目の彼の誕生日だった。
どれだけ敵対していても、戦の最中でも。この日だけはみんな心は一つだった。
彼の冥福を祈るのは、今ここにいる俺たち4人だけじゃなくて、きっとフランス兄ちゃんとか、スペイン兄ちゃんとか、イギリスも、チェコやスロバキアも彼のことを思っているだろう。
誰だって、彼を忘れることができず、今もその影が脳裏をよぎる。
彼は一国とは言い難い存在だった。だが国家連合の象徴である彼が俺たちに残したものは多い。
今日は今は亡き俺の愛した人の誕生日だった日。
俺と愛を分ち二度と会えなかった彼は、今どうしているんだろうか。
もう生きているはずのないことはわかってる。
もしも、彼が今の時代に生きていたなら、時代に流されずきっともっと長生きしたんだろう。
「ねぇ、もうあんな戦いばっかりの時代はもう終わったんだよ」
聞こえるはずのない彼にそう問いかける。問いかけてしまう。返答はもちろんない。あるはずはないことはわかっている。
それでも彼と、この平和な時代に、一緒に生きてみたかった。
他でもないこの俺が、そう思ってしまうのは我儘なんだろうか。
Felix dies natalis・・・ラテン語で誕生日おめでとう。
神聖ローマ帝国の公共語はドイツ語・ラテン語だったそうです。
また、神聖ローマの誕生日は公式ではわかってないので、悩んでいたけれど今出します!
コメント
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このエピソード読了しました。誕生日のために毎年ケーキを作り続けるイタリアちゃんの、変わらない想いと罪悪感の狭間が切なくて胸に響きました。特に「俺の今の幸せは彼の犠牲の元に存在する」という認識を抱えながら、それでも彼を祝いたいと願う姿に、歴史の重みと個人の感情が交錯する複雑さを見た気がします。フルーツタルトの会話の明るさと、悪夢の後の静かな諦念の対比が美しかった。220回目の誕生日、という数字にも歴史の長さと想いの持続を感じました。