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放課後、私は一人でテニスコートへと向かった。
フェンス越しに中を覗くと、いた。
凌先輩が、夕日に照らされながら鋭いサーブを打ち込んでいる。
「……っ、かっこいい」
飛び散る汗さえもキラキラして見える。
コートの周りには、私と同じように先輩を目で追っている女子生徒たちが何人もいた。やっぱり3年生のスター選手は人気が違う。でも、私はこの十年間、誰よりも近くで先輩を見てきたんだ。負けるわけにはいかない。
しばらく見惚れていると、不意に背後から人影が伸びてきた。
「……まだ見てんのかよ。ストーカーか?」
振り返ると、先に帰ったはずの遥が、カバンを肩に引っかけたまま不機嫌そうに立っていた。
「ストーカーじゃないよ、偵察! マネージャーになるための下調べなの」
「下調べも何も、お前ルールもわかってねーだろ。あいつが今打ったのがインかアウトかもわかってねーくせに」
「……そんなの、今から覚えるもん!」
遥は鼻で笑うと、私の隣でフェンスに背を預けた。視線の先には、コートで華やかにプレーする兄・凌の姿。
「……兄貴、今年はマジだぞ。インターハイ、本気で狙ってる。お前みたいな遊び半分が近づける雰囲気じゃねーよ」
「遊び半分じゃないよ! 私だって本気だもん」
言い返そうとしたその時、コートの中から凌先輩がこちらに気づいて、ラケットを大きく振った。
「あ、紗南ちゃん! 遥もいたのか!」
先輩が笑顔でこちらへ駆け寄ってくる。その後ろから、同じ3年生のジャージを着た、ポニーテールの綺麗な女の人が一緒に歩いてくるのが見えた。
「紹介するよ。彼女、女子テニス部部長の成瀬。俺のダブルスのパートナーでもあるんだ」
先輩の隣で、その女の人が「よろしくね」と大人っぽく微笑んだ。
心臓が、冷たい氷を押し当てられたみたいに、ひゅっと冷たくなった。