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真壁さんが部屋を出ると、雪斗が付かれたようにため息を吐いた。

それから私を見て、僅かに微笑む。


「今週はまともに帰れそうにない」


「うん。分かってる」


私でもかなり遅くなりそうなのだから、雪斗は更に忙しいはずだ。


「ゆっくり話が出来るのは週末になるけど、大丈夫か?」


雪斗は鋭いから直ぐに私の変化に気付く。


「大丈夫だよ。本当に何も無いし」


今のところは、忙しい雪斗に頼るほどの問題ではない。


湊と水原さんには会わない様にすればいい。真壁さんには、もう開き直るしかない。


嫌われてるのは確実だから、どんな態度を取られても気にせずに流すようにしよう。


さすがに、理由もなくあからさまな攻撃はして来ないだろうし。


営業部のフロアに戻りしばらくすると、雪斗と真壁さんが打ち合わせを始めていた。


二人は難しい顔で何か話しており、近づきがたい空気を醸し出している。


気になるけど、気にしない。私は自分の仕事に戻った。



一週間はあっと言う間に過ぎた。


ハードな残業の日々を乗り越えてようやく迎えた週末、私は灯りを消した雪斗の部屋のベッドに組み敷かれていた。


「……もう……無理……っ!」


「無理じゃないだろ?」


雪斗は私の中に深く身を沈め、更に奥に進もうとする。


雪斗が動く度に、息も出来ないような刺激が襲って来る。


「……ああっ!」


どうにかなってしまいそうで、無意識に雪斗を押し返してしまうけど、その手も押さえつけられて、唇も塞がれて声も出せなくなる。


雪斗にはもう何度も抱かれてるのに、少しも慣れることが無い。


今までに感じた事が無い、どんどん強くなる感覚。


本気で恋していた湊にも感じた事が無かった、頭が真っ白になる瞬間。


私はもう完全に雪斗に溺れている。


それが心ではなく身体だということは分かっているけれど、こうして抱き合ってる時は雪斗を心から愛しいと思う。


他には何も考えられないくらいに……。



「大丈夫か?」


雪斗は小さく笑いながら、ミネラルウォーターのボトルを差し出してくれた。


「ありがと」


受け取り口に含むと冷たい水が喉を通って行くのが分かった。


「喉渇いてただろ? いつも以上に声上げてたもんな」


ニヤリと含み笑いで言われ、顔が熱くなる。


でも事実だから言い返せない。


ベッドサイドのチェストにミネラルウォータを置いて、毛布の中に逃げ込んだ。


「怒るなよ」


雪斗がそう言いながら、自分も毛布の中に入って来る。


そのまま強い腕で抱き締められた。


動けないほど強く、でも嫌じゃない。


それどころか安心していて、このままで居たいと思う。


今まで男の人に甘えるなんて出来なかったのに、広い胸にすがり付いてしまう。


何もかも知られてしまっているからなのか。抱かれた後の余韻なのか。


温かい腕の中は気持ちがいい。ウトウトして来たとき、雪斗が静かな声で言った。


「ずっとこうしていたいな」


「え……」


雪斗も私と同じ事を考えていたの?


ドキリとしていると、雪斗は小さな溜息を吐いた。


「来週からは新規チームだろ? 立ち上げの時期は苦労するからな……」


なんだ、仕事の事か。ただ現実逃避したくなったのね。


変に受け取った自分がなんだか恥ずかしくなり、雪斗から目を反らす。


「雪斗は顧客開拓を任されてるんでしょ? 重要な役なんだからもっと喜んだらいいのに」


「まあ、やりがいは有りそうだけどな」


「そう言えば、雪斗のアシスタントは誰がやるの?」


「真壁だけど」


「えっ? でも真壁さんはアシスタントじゃないでしょ?」


私は目を丸くした。自分自身で顧客を持つ真壁さんがアシスタントなんて驚きだ。


「正確に言えば補佐的役割かな。アシスタントはチームに数人付くけど俺には直接はつかないから」


「……そうなんだ」


真壁さんが雪斗の補佐。それなら二人はずっと一緒に行動するって事になる。


不意に以前見た、二人が寄り添ってタクシーに乗り込む光景を思い出した。


あの時の二人の同僚とは思えない親密な雰囲気。そして真壁さんの言動。


考えるほど気になって雪斗に聞いてしまった。


「雪斗と真壁さんって親しいの?」


雪斗は怪訝な顔をしながらも、答えてくれる。


「まあ同期だし」


「プライベートでは?」


「プライベートはお互い把握してない。会社だけの付き合いだし、真壁は……」


雪斗は私に尋ねられるまま答えていたけれど、急に言葉を止めていつもの不敵な笑みを浮かべた。


な、何? 身構える私に、雪斗は楽しそうに言う。


「美月、もしかしてヤキモチやいてんのか?」


「えっ? やきもち?」


「俺と真壁との関係を心配してんだろ?」


「そ、そんな訳じゃ……」


平静に反論したいけど、気になってるのは事実だから動揺してしまう。


言葉を捜している私に、雪斗はからかいを消した真剣な声で言った。


「心配しなくてもあいつとは何も無い」


「……」


そんなに真面目に答えて貰うと逆に戸惑ってしまう。


「美月と付き合ってる限り俺は絶対に浮気はしない。だから心配すんな」


雪斗は私の背中に回した腕に力を込めた。


もしかして……湊に浮気された私を気遣ってくれてるのかな。


雪斗の心遣いが嬉しい。でも、心からは喜べなかった。


『美月と付き合ってる限り』


この付き合いの終わりを思うと切なくなったから。

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