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蒼依
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今日は待ちに待った高校の文化祭。
6人が通う学校は、朝から出店や出し物、たくさんの来客で熱気に包まれていた。普段のシェアハウスとは違う、どこか浮足立った空気の中で、それぞれの恋が動き出す。
〜なつこさ〜(お化け屋敷の特等席)
こさめのクラスの出し物は、本格的な「お化け屋敷」。
なつは、受付で「怖いから一緒に来て!」と半泣きで縋りついてきたこさめに連れられ、暗い教室へと足を踏み入れた。……はずだった。
「ひゃああっ!? なつ、なんか足元に触ったぁあ!」
「おい、こさめ引っ張りすぎ……って、待て、ここどこだ?」
怖がるこさめに振り回されているうちに、2人は順路を外れ、スタッフ用の暗い待機スペースに迷い込んでしまった。
遮光カーテンで仕切られた空間は、驚くほど静かで真っ暗だ。
「うぅ……なつ、どこ? 怖いよぉ……」
涙目で震えるこさめを、なつは思わず強い力で壁に押し付けた。背中に当たったベニヤ板が、小さく音を立てる。
「……なつ?」
「怖がってんの、本当に可愛いな。……ここなら、誰も来ねぇよ」
なつの低い声が耳元に響いた瞬間、こさめの心臓は恐怖とは違う理由で激しく跳ねた。
暗闇に目が慣れてくると、なつの真剣な眼差しが真っ直ぐ自分を捉えているのがわかる。
「ん……む、ぅ……」
重なる唇。なつの少し強引なキスに、こさめはなつのシャツの胸元をぎゅっと握りしめて応えるしかなかった。外から聞こえる悲鳴やざわめきが、2人の甘い吐息をかき消していく。
唇が離れたとき、なつはこさめの涙を指で優しく拭った。
「もうお化けなんて怖くないだろ? ほら、行くぞ」
赤くなった顔を隠すように、こさめはなつの後ろを、今度は嬉しそうについていった。
〜すちみこ〜(執事カフェのバックヤード)
みことのクラスは、クラシカルな「執事カフェ」。
いつもとは違う、黒いタキシードを着こなしたみことは、女子生徒たちから「王子様みたい!」と大人気で、写真を求められっぱなしだった。
それを通路から苦々しい顔で見つめていたのが、他クラスのすちだ。
休憩に入り、廊下に出てきたみことの手を、すちは無言で掴んで誰もいない準備室へと連れ込んだ。
「わ、すち!? 急に引っ張ったら危ないよ?」
「……みこと、自覚なさすぎ」
すちは、いつもより少し冷たい、でも独占欲の滲む瞳でみことを見下ろした。
「そんな格好して、いろんな人に笑顔振りまいて。……俺、すっごくヤキモチ妬いたんだけど」
「えっ、あ……ご、ごめんね……?」
困ったように眉を下げるみことのネクタイを、すちは指先でくいっと引っ張った。
「お詫び、して。……俺だけの執事になってよ、みこと」
すちは、みことの首筋にそっと顔を埋め、柔らかい皮膚を吸い上げた。
「んっ……あ、すち……そこ、跡になっちゃう……っ」
「いいよ。俺のだって、みんなに分からせたいし」
いつもの優しいすちからは想像できない、意地悪で熱いキスがみことの唇を塞ぐ。
しばらくして部屋から出てきたみことの首元には、きっちりと上まで締め直されたネクタイと、ほんのり赤い顔が残されていた。
〜いるらん〜(放課後、夕暮れのステージ裏)
文化祭のトリを飾る、軽音部のバンドステージ。
ボーカルとして会場全体を熱狂させたらんは、ステージが終わった後、熱気が冷めやらない舞台裏の機材置き場にいた。
肩を上下に揺らすらんのもとに、タオルとスポーツドリンクを持ったいるまが歩み寄る。
「お疲れ。カッコよかったじゃん、リーダー」
「いるま! 来てくれたんだ。……ねえ、俺、ちゃんと出来てた?」
興奮で目を輝かせながら、らんはいるまの胸に飛び込んだ。
ステージの上ではあんなに堂々と歌っていたのに、自分の前では途端に「可愛い恋人」に戻る。そのギャップが、いるまにはたまらなかった。
「あぁ、最高だったよ。……だからさ、もう我慢できねぇんだけど」
いるまはらんを機材の影に引き込み、タオルで周りからの視線を遮るようにして、らんの唇を奪った。
「んんっ……、ふぁ……、いるま……っ」
ライブ後のらんの体温は熱く、吐き出す息も荒い。いるまはそれをすべて飲み干すように、深く、深く舌を絡ませた。ステージの片付けをする部員たちの声がすぐ近くで聞こえるスリルが、2人の情熱をさらに加速させる。
「はぁ……、あんた、ステージ裏で何してくれてんの……」
キスが離れると、らんは顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうにいるまの首に腕を絡ませた。
「お前のファン第1号への、特別なファンサービスだろ?」
いるまはニヤリと笑うと、らんの濡れた唇をもう一度、今度は優しく甘む噛みした。
賑やかなお祭りが終わった後。
シェアハウスに帰る道すがら、6人はいつも通り笑い合っていたけれど、それぞれのポケットの中では、こっそりと手を繋ぎ合っているのだった。
「「「かんぱーい!!!」」」
文化祭の片付けを終えて帰宅した6人は、リビングの大きなローテーブルを囲み、炭酸ジュースやスナック菓子を広げて打ち上げを始めていた。
学校での緊張感から解放され、みんなパジャマやスウェット姿のリラックスモードだ。
「いやー! こさめのクラスのお化け屋敷、マジでクオリティ高くてビビったわ!」
いるまがポテトチップスを口に放り込みながら言うと、こさめはなつの隣でふふんと胸を張った。
「でしょ? 驚かすのすっごい楽しかった! ……まぁ、途中で迷子になっちゃったんだけどね」
「お前がビビって変なとこ走るからだろ」
なつが呆れたように突っ込むが、その口元は緩んでいる。2人が「迷子」の間に何をしていたか、他の4人は知る由もない。
「みことの執事姿も凄かったよね。廊下まで女子の悲鳴が聞こえてたもん」
らんに振られ、みことは顔を赤くしてジュースのグラスをいじった。
「もう、からかわないでよぉ。慣れない格好で、僕すっごく緊張したんだから……」
「へぇ、緊張してたんだ? 俺のところに来たとき、結構余裕そうに見えたけど?」
すちが意地悪そうに微笑みながら、みことの耳元で小さく囁く。みことは「すち、それ以上言っちゃダメ!」と慌ててすちの口を手で塞いだ。首元には、まだうっすらと赤みが残っている。
「それにしても、今日の主役はやっぱりらんだろ。軽音部のライブ、マジでカッケーじゃん」
いるまが不器用そうにらんの頭をクシャッと撫でると、らんは嬉しそうに目を細めた。
「ありがと、いるま。そう言ってくれるのが一番嬉しい」
賑やかな会話は夜が更けるまで続き、やがて一人、また一人と睡魔に襲われ、打ち上げは自然とお開きになった。
〜なつこさ〜(部屋に戻ってから)
「……なつ、起きてる?」
ベッドに入ったあと、こさめがなつの布団に潜り込んできた。
「起きてる。どした?」
なつが腕を広げると、こさめは嬉しそうにその胸に顔を埋める。
「今日、お化け屋敷でキスされたとき……実は、すっごいドキドキした。お化けより、なつの方が心臓に悪い」
「はは、今更何言ってんだよ」
なつは愛おしそうにこさめの腰を抱き寄せ、おでこにちゅっと音を立ててキスをした。
「明日からは学校でも、もっと俺のことだけ見て。分かった?」
「うん……なつ、大好き」
〜すちみこ〜(部屋に戻ってから)
「すち、ネクタイ……跡、やっぱり少し残っちゃってたよ」
みことが鏡を見ながら、少し困ったように首元を指差した。すちは後ろからみことに抱きつき、その肩に顎を乗せる。
「ごめんね。でも、他の子たちに囲まれてるみことを見てたら、どうしても我慢できなかったんだ」
すちの少し寂しそうな声に、みことは振り返ってすちの頬に両手を添えた。
「僕はすちだけの執事、でしょ? 誰に何を言われても、僕が一番好きなのはすちだよ」
「……ずるいな、みことは」
すちは降参するように笑うと、今度は跡が残らないように、優しくみことの唇を塞いだ。
〜いるらん〜(部屋に戻ってから)
ベランダで夜風に当たりながら、らんはいるまの肩に頭を預けていた。
「今日のライブ、いるまがずっと見ててくれたから、いつもより上手く歌えた気がする」
「おーおー、現金なリーダーだな」
いるまはそう言いながら、らんの手をギュッと握りしめた。
「ステージの上のらんも最高だけどさ、こうやって俺の隣で甘えてるお前が、一番誰にも渡したくねぇわ」
「……いるま」
らんは顔を真っ赤にしながらも、自分からいるまの首に腕を回した。
「じゃあ、朝までずっと、離さないでね」
「言われなくても、そのつもりだわ」
2人は静かな夜の中に溶けるように、何度も深く唇を重ね合わせた。
ひとつの家で暮らす6人。文化祭という特別な1日が終わっても、彼らの甘くて騒がしい日常は、これからもずっと続いていく。
2日後の日曜日。学校の課題も、グループとしての次の活動の準備もひと段落した日の午後。
6人が暮らすシェアハウスのリビングは、相変わらずどこを見渡しても賑やかで、誰かしらの笑い声や話し声が絶え間なく響いていた。
大きなローテーブルを中心に、テレビ、ソファ、そしてキッチンまでが地続きになったこの大空間が、彼らの定位置だ。
「あーっ! もう、なつ! また僕のこと背後から撃ったでしょ! ひどい、味方なのに!」
「いや、画面をよく見ろって。こさめが勝手に俺の射線に入って突っ込んできたんだろ。自爆だよ、自爆」
テレビの画面前、床にクッションを敷いて並んで座っているのはなつとこさめだ。
手元でカチカチと激しくコントローラーを操作しながら、こさめは不満げに頬を膨らませている。口ではギャーギャーと文句を言い合っているものの、2人の距離は不自然なほどに近かった。こさめの華奢な肩は完全になつの逞しい肩にぴったりとくっついており、なつもそれを避けるどころか、重心を少しこさめ側に預けている。
「もう! 次の試合はなつが僕のこと守ってよね! 盾になって!」
「はいはい、わーったよ。ほら、次始まるから前向け」
なつは呆れたような声を出しつつも、コントローラーを握るこさめの小さな手を、自分の空いた左手で一瞬だけぎゅっと包み込んだ。テレビ画面に反射するこさめの顔が、ゲームの光とは違う理由でほんのり赤くなるのを、なつは満足そうに横目で盗み見ている。
「ふふ、なつくんとこさめくん、今日も仲良しだねぇ」
そんな2人のやり取りを、キッチンカウンター越しに優しく見守っていたのはみことだ。
みことは大きめのピッチャーに冷たい麦茶を注ぎ、トレイにグラスを並べている。
「はい、みんなの分のお茶できたよ。誰か運ぶの手伝ってー」
「みこと、俺が持つよ。危ないからそこに置いといて」
リビングの隅からすぐに立ち上がったのは、エプロン姿のすちだった。
すちはみことの隣に並ぶと、トレイを受け取るフリをして、カウンターの陰でみことの細い指先に自分の指を滑り込ませた。そのまま恋人繋ぎで行く手を阻む。
「わ、わっ……すち? 急に繋いだら、みんなに見えちゃうよ……?」
みことは驚いて周囲をチラッと気にしたが、リビングのメンバーはゲームやスマホに夢中だ。
「大丈夫、みんなこっち見てないから。……それよりみこと、今日の髪型、いつもと分け目違う? すっごい可愛い」
「えっ、あ、気付いてくれたの……? 美容室で少し変えてもらったんだ。……すちに一番に気付いてほしかったから、嬉しい」
すちはふにゃりと柔らかく微笑むと、みことの髪に優しく触れ、耳元の薄い皮膚を親指でそっと撫でた。みことはくすぐったそうに身を縮めながらも、すちの胸元に小さく体を預ける。2人だけの甘い空間が、賑やかなリビングの一角に確かに存在していた。
「おーい、お前ら、お茶淹れてくれたなら早く持ってきてくれ。喉乾いたわ」
ソファに深く腰掛け、ノートPCの画面を見つめていたいるまが声を上げた。
そのらんの膝の間に、まるで自分の特等席であるかのように背中を預けて床に座っているのがいるまだ。いるまはらんが差し出した麦茶のグラスを受け取り、一気に喉を潤す。
「らん、次の配信の企画、これで確定でいいんだな?」
「うん。いるまがまとめてくれたやつ、すごく分かりやすいからこれでいこう。ありがとね、いるま」
らんはPCをテーブルに置くと、床にいるいるまの首元に、ソファの上から後ろから抱きつくようにして両腕を回した。昼間はみんなを引っ張る頼れるリーダーだが、いるまの前では驚くほどに甘えたがりになる。
「……おい、らん。重い。それにみんな見てるだろ」
いるまは低い声で注意するが、らんの腕を振り払おうとはしない。それどころか、らんの細い手首を自分の大きな手でしっかりとホールドしていた。
「いいじゃん、みんなゲームとキッチンに夢中だし。……ねえ、いるま、今日学校で全然すれ違わなかったから、寂しかったんだよ?」
らんが耳元で少し拗ねたように囁くと、いるまの耳が小さく動いた。
「……、帰ってからずっと隣にいてやってんだろ。贅沢言うな」
いるまは少し不器用に向こうを向きながらも、繋いだらんの手の甲に、誰にも見えない速さでちゅっと小さくリップ音を響かせた。
「っ……! あんた、ほんとそういうとこずるい……」
顔を真っ赤にして腕に力を込めるらんに、いるまはフッと口元を緩めて、愛おしそうにその頭を自分の肩に引き寄せるのだった。
数時間後
「あ! すちくんの特製クッキー、もう最後の1個じゃん! 誰、こんなに食べたの!」
こさめが空っぽになりかけたお皿を見て声を上げる。
「俺じゃねぇよ、なつがゲームしながらボリボリ食ってた」といるまが言えば、
「は? 俺は3個しか食ってねぇ。いるまがらんに食べさせてるの見たぞ」となつが反論する。
「もう、みんなよく食べるなぁ。まだキッチンに焼き立てがあるから、持ってこようか?」
すちが笑うと、みことが「俺も行く!」と嬉しそうにその後に続いた。
夕方になり、リビングの大きな窓から差し込む光が、鮮やかなオレンジ色から静かな群青色へと移り変わっていく。
テレビから流れるBGM、キッチンから聞こえる楽しそうな包丁の音、そしてソファから聞こえる他愛のない話し声。
それぞれが別のことをしているようで、全員の心がこのひとつのリビングに集まっている。
「……やっぱり、みんなでいるのって楽しいね」
こさめがなつの肩に頭をコテンと乗せて呟くと、なつは「そうだな」と優しくその髪を撫でた。
シェアハウスという特別な場所で、大好きな仲間たちと、誰よりも大切な恋人と過ごす時間。
6人の賑やかで、少し甘くて、何気ない日常は、明日も明後日も、このリビングから始まっていく。
コメント
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勿論全部のペア良いけど 1番はなつこさやった
いやもう、文化祭編エモすぎた…!!😭💕 なつこさの暗闇キス、すちみこのヤキモチからの独占欲全開、いるらんのステージ裏密着…どのカップルも尊さが無限大すぎん??特に最後のリビングでの何気ない日常に戻る緩急が天才的に好き〜!“見てるこっちまで幸せになる”ってまさにこれだよね⋆♡ 柚さん、神回をありがとうございます…!!続きが待ちきれないです🌸