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付き合い始めてからの日々は、
想像していたよりもあっけなくて。
でも信じられないくらい満たされていた。
教室で隣に座るだけで、
胸がどきどきして、名前を呼ばれるたびに頬が熱くなる。
ya「 … な に 照 れ て ん の 。
小さく笑って、
ya君が私の髪を指先でくるくると弄ぶ。
周りには友達がたくさんいるのに、
彼は平気でそういうことをする。
et「 照 れ て な い し 。
ya「 嘘 。耳 、赤 い 。
そう言われると余計に意識してしまって、
私の反応を見たyaが楽しそうに笑う。
放課後、二人きりになるともっと甘い。
昇降口を出て、人気のない道を歩く。
ya「 な あ 、手 。
そう言って差し出される手に、
ためらいながら指を絡める。
ya「 … お 前 の 手 、小 さ い な 。
et「 そ う か な … ?
ya「 俺 に ぴ っ た り 。
言葉に照れて、
思わずうつむく私を、yaは横目で見てにやりと笑う。
彼と一緒にいると、時間の感覚が曖昧になる。
笑って、
ふざけて、
ただ肩を並べて歩くだけで、
もう十分すぎるほど幸せだった。
ある日、彼の部屋に遊びに行ったとき。
ya「 親 出 か け て る か ら 。
その言葉に胸がどきんと跳ねる。
ソファに並んで座り、
テレビをつけたけれど、内容は頭に入ってこなかった。
ya「 … 緊 張 し て ん の ?
et「 し て な い よ 。
強がって答えた私の手を、
ya君がそっと取る。
ya「 ほ ん と に ?
囁くような声が耳の奥に残る。
指先が絡み、彼の体温が手のひらからじわじわと広がっていく。
唇が触れたのは、ほんの一瞬。
でも、その一瞬で世界が変わった気がした。
何度も、角度を変えて重ねられるたびに、
頭の中が真っ白になって、呼吸の仕方さえ忘れてしまう。
ya君の手が、
私の頬をなぞり、髪を耳にかける。
ya「 … か わ い い 。
不意に零された声が、心臓を射抜くみたいに響く。
もっと近づきたくて、
気づけば自分からも彼に身を寄せていた。
ソファの背に押しやられ、
肩口に熱い吐息がかかる。
制服の布地越しに触れる指先は、
どうしようもなく胸をざわつかせる。
それ以上はしないってわかってる。
けれど、
その“しない”ぎりぎりの境界線をなぞられるようで、
全身が熱を帯びていった。
ya「 e t さ ん 。
名前を呼ばれるだけで、体の奥が疼く。
初めて知る感覚に、
どうしていいかわからなくて、ya君のシャツをぎゅっと握る。
ya「 … や め る ?
いたずらっぽく目を細めるya君。
et「 … や め な く て い い 。
自分でも驚くほど小さな声がこぼれた。
そのあとは、ただ抱きしめ合っていた。
彼の胸に顔を埋めると、
心臓の音がすぐ近くで響いて、
同じ速さで自分の鼓動が高鳴っていることに気づく。
ya「 大 好 き だ よ 。
耳元で囁かれ、思わず目を閉じた。
それからの日々は、
そんなふうに甘く、危うい。
手を繋いで帰ること。
勉強を教え合うふりをして、
机の下で指先を触れ合わせること。
映画館で、
暗闇に紛れてそっと唇を重ねること。
全部が、かけがえのない宝物だった。
ある晩、ふと電話を切るのが惜しくなった。
『おやすみ』のあとも、
互いに黙ったまま繋いだままでいる。
et「 … 切 ら な い の ?
ya「 お 前 が 切 れ よ 。
et「 や だ 。
ya「 俺 も だ っ て 。
くだらないやり取りが、
どうしようもなく幸せで、布団の中でにやけが止まらなかった。
___ 今思えば、
あのときが一番幸せだったのかもしれない。
誰かを好きになることがこんなにも苦しいなんて、
まだ知らなかったから。
失うことの痛みを、
まだ知らなかったから。
私はただ、
彼の隣にいることが当然だと思っていた。
彼の笑顔を、ずっと見られると思っていた。
それが幻だと知るのは、
もう少し先のことだった。