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……は?

いやいやいや、余計なお世話すぎる。

「いや、さすがにそれは……」

「でも川口さん、なんだかんだ彼氏に甘そうだし」

「いや、大丈夫です、本当に」

話を切ろうとしても、逃してくれなさそうな雰囲気だ。


彼氏との待ち時間まで把握されて、ご飯食べて私のアパートに行く事も知られてしまっている。上手く言えないけれど、善意でとかではない気がする。

席を立ち上がると、『待って』と呼び止められた。

「オレ、長谷川奏人(はせがわかなと)。大学2年。ヨロシクね」

「……………はい」

「じゃあ、明日もこの時間に待ってるから」


……………なるほど。

どうやら、この人は私がこの時間に食事をしていたことも事前に把握していたらしい。


午後の授業を終え、帰る頃にスマホに目を通すと、彼氏のヒロシから連絡がきていた。

【学校終わった? 今日もいつものコンビニでいい?】

これもいつものやり取りの一文だ。


本来なら、ここで【いいよ】と返すけれど、長谷川さんという男性に浮気してると教えられた直後に、のんきにご飯を食べている場合ではない。


ヒロシは頻繁に私と会っている。

どこに私以外の女と会う時間があるのだろう。


「凪、今日も彼氏?」

羨ましそうに私のスマホを後ろから覗き込んで来たのは、友人の萌菜(もえな)。

萌菜はかわいいけれど、理想が高いらしく彼氏が出来たことが無いらしい。

けれど私とヒロシの関係が羨ましいと、いつも目を輝かせている。

そんな萌菜に『彼氏、浮気してるかもしれない』とは、言えない。ますます恋人の理想が高くなってしまうかもしれない。

それより、萌菜はあの男のことを何か知っているだろうか。


「ねぇ、萌菜。2年の長谷川奏人って男の人知ってる?」

「もちろん! かっこいいよね。で、思い出したんだけどさ。この間長谷川さんと長谷川さんの友達と電車被りしちゃってさ。意味深なこと言ってたの聞いちゃったんだよね……」


意味深? そんな言い方されたら、ますます気になる。


「な、なんて?」

さり気なく質問を返すと、萌菜は首を傾げながら口を開いた。

「高校のときから片想いしてる子がいるって。長谷川さん、かっこいいからすぐ付き合えそうなのに、何でそんなに長い間片想いしてるんだろう。変だよね?」


高校の時から。

確かにムカつくけど、長谷川奏人はかっこいい。一見、派手に見えたから女の子といっぱい遊んでそうなのに。意外と一途らしい。


「他には? 何か言ってた?」

「んー、その女の子が初恋って言ってたから、恋人はできたことないって言ってた。羨ましいよねー! 長谷川さんと付き合える権利持ってるんだからさ」


『オレは好きを高めて行動に移すから、好きな子できたら絶対離さないけどね。ねちっこいんじゃなくて、執着が凄いんだと思う』と言っていたことを思い出した。


……………なるほど。なんとなく、長谷川奏人のことは理解できた。


「でも、長谷川奏人、フられたらどうするんだろう?」

「長谷川さんフるとかただのバカじゃない!? アイドルをフってるようなモンだよ?」


クスクス笑う萌菜に、おこがましいけど、私のことを置き換えて問いかけてみる。


「いや、もしさ。その子に彼氏がいたりとかしたらさ……?」

「別れて普通に長谷川さんに乗り換えるに決まってるじゃん?」

「じゃ、じゃあ長谷川奏人がもし、ヤバイヤツだったりしたら? 執着凄くて、束縛激しかったら?」

「最高! めちゃくちゃ愛されてるじゃん! まー、私らが付き合える可能性はゼロなんだから、虚しい妄想はこれくらいにしようー」

「うん、そうだね……」


うん、そうだ。萌菜の言う通りだ。


“可能性はゼロ”だ。今回長谷川奏人は私とヒロシが付き合っていることをたまたま知っていて、たまたまヒロシが他の女といるところを見ただけだ。


――ただ、それだけだ。

結局話題は長谷川奏人のことだけで終了し、ヒロシに【コンビニに待ってるね】と連絡を送る。


外へ出ると、ふと、違和感を感じる。

……まただ。誰かの視線を感じるような。

ヒロシと付き合うようになってから、誰かに見られている気がする。ヒロシに相談したこともあったけど、『気にしすぎだよ』と流されてしまった。


「あんまり言ってると、かまってちゃんって思っちゃうから、そういう女はちょっとウザイなー」

そう言われてから、ヒロシには『誰かにみられてる』等は言えなくなってしまった。


誰かに見られている気配はあっても、何かをされたわけではない。これ以上ヒロシにかまってちゃんと思われたくなくて、気にしないフリをして今もやり過ごす。


コンビニに着くと、既に待っててくれていたヒロシに『おまたせ。行こうか』と声を掛ける。

「凪の分のご飯も買ったよ」

と、報告してくれるヒロシ。

「ありがとう、後でお金渡すね」

いつも通りの会話すぎてヒロシが浮気しているかもしれないということは頭の中からすっぽり抜け落ちてしまっていた。


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