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パニックとごめんね。【出張シリーズ】
昨日、泣きながらもソファまでたどりついた莉犬。
少しだけ自信がついたのか、今日は玄関からリビングまで、自分の足で歩いていけた。
「えらいな。がんばったじゃん」
そう声をかけると、莉犬は俺の服の裾をぎゅっと握って、黙ってうなずいた。
相変わらず表情はかたいけど、それでも昨日とは確実に違う。
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ただ、ソファに座るのはやっぱりむずかしいみたいだった。
近くまで行って、手を伸ばして……でも足がすくんで泣き出す。
「やっぱり、こわい……」
俺は隣にしゃがんで、莉犬の肩をさすった。
そう言って安心させると、莉犬はしばらく泣いて、それからやっとソファにちょこんと座ることができた。
⸻
今日は“遊び”がひとつのチャレンジ。
用意しておいたブロックやぬいぐるみを出すと、莉犬は少しずつ手を伸ばして遊び始めた。
最初はもじもじしてたけど、だんだん慣れてきて、声も少しだけ出るようになってきた。
「…これ、バス……」
「ほんとだ、バスのかたちしてるな~」
なーくんも優しく相づちを打つ。
ちいさなやりとり。だけど、それは大きな一歩だった。
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しばらくして、俺は仕事の確認で隣の部屋へ移動することにした。
「莉犬、ちょっとだけ行ってくるけど、すぐ戻るから」
「……ん」
少し不安そうだけど、うなずいてくれたから、大丈夫だと思っていた。
……だけど。
⸻
5分後、部屋の外から突然――
「さとちゃぁあああん!!」
泣き叫ぶ莉犬の声。
慌てて駆けつけると、ソファの前で、なーくんの服をつかんで大泣きしている莉犬がいた。
「いやっ!いやぁ!どこいったの!?やだぁ!!」
目は真っ赤。
顔ぐしゃぐしゃにして泣きじゃくって、手も足もバタバタ暴れてる。
「莉犬!俺ここにいるよ、ほら!」
俺が駆け寄って抱きしめると、莉犬の手がなーくんの腕にばちんと当たってしまった。
「っ……!」
なーくんが少しびっくりした顔で腕をおさえた。
莉犬はその瞬間、びくっとして顔を上げた。
⸻
「莉犬……いま、なーくんに痛いことしちゃったね、ごめんなさいしよっか」
落ち着かせたあと俺がやさしく言うと、莉犬は目をうるうるさせながら、なーくんの顔を見て――
「……ご、ごめんなさい……」
小さな声だったけど、しっかり届いた。
なーくんはすぐに笑ってくれた。
「ううん、大丈夫だよ。びっくりしただけ。莉犬くん、えらいね、ちゃんとごめんねできて」
莉犬はまだ鼻をすすりながら、俺にしがみついたまま、こくんと頷いた。
⸻
遊べたこと、ソファに座れたこと、
泣いても落ち着けたこと、そして――
助言ありでも、「ごめんね」が言えたこと。
今日も、ちゃんと前に進めた。
あと少し。
あと少しで、きっと“ここが大丈夫な場所”になる。
コメント
4件
少しずつ莉犬くんが前に進んでいる表現の仕方?がなんかリアルすぎてどんどん物語に引きずり込まれていく感覚が… めっちゃ感情移入しちゃいます… バスの会話が控えめに言って尊すぎます神です ありがとうございました!
泣けますっ……!! まじで泣きそうですっ…!! なーくんの優しさ、さとみくんの温かさ、莉犬くんの努力…! めちゃくちゃ感動です!神作をありがとうございますー!!