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しろニキ
ニキ視点
「はぁ〜…」
どっとやってくる疲労感と倦怠感に布団に身体を沈めた。ひんやりとしていたはずのシーツは熱を帯びており、長時間経過していることを知る。目を瞑って、布団に身を委ねる。明日何かあったかな、とぼんやり考える。何があったような、なかったような…
ああ、だめだ。もう何も考えられない。
「ボビーは明日仕事?」
何か話そうと口から出た言葉は突拍子もないし、先程の考えとの繋がりも、話題性もなかった。
「ああ、そうやな」
雑にぶった斬るような返答だったけれど、何も考えられないこの頭じゃあまともに会話が成立する気がしなかったので有難かった。
ゆったりと二度、三度、瞬きをして、ぼんやりと目の前の恋人を映し出す。俺の大好きなボビーだと認識するのにそれほど時間はかからず、大して意味も籠っていないが「ボビー」と何度も呼んだ。
「なんや…」
「……すきだなあ、っておもって」
「お前なあっ…!」
俺がデレれば面白いくらいに声を荒らげる彼がどうしようもなく愛おしい。
ああ、なんかもうどうでもいいや
「ね、ぼびーもっかいシよ?」
「……お前が起きたときにゃ、俺は多分居らんけどそれでもええんなら」
彼はそう言いながら、独占的な弧を描くかの如く俺に口を落とす。大分その気だなこりゃ。
「いい…今日は、ボビーにたくさん愛されたい気分」
ただそういう気分ってだけ。彼は鳩に豆鉄砲という顔をしていたので「今日だけだよ?」なんて揶揄った。
「ふ、そうかい」
そう彼が笑ったのを最後に熱に溺れた。そこからはあんまり覚えていない。ただ微かに、滴るほど熟れた夢心地だったことは覚えている。
✺
陽の光に目が醒めた。あまりの眩しさに目元を覆う物を探してみたけれど、掛け布団も何も使っていなかったので眩しいままだった。
「い”…」
寝返りを打とうにも、あまりの腰痛にそれは叶わなかった。遮光するものがないと気づき始めてからというもの思考はだんだんと覚醒してきている。
「ぼ…」
ボビー、そう言いかけてやめた。そういえばと昨晩彼の言っていたことを思い出したからだ。無駄に思い出してしまったその出来事に酷く孤独が俺を襲った。昨日のはもしかしたら嘘なんじゃないかと思い込んで隣に手を伸ばし、辺りを見回した。勿論、そこに相方が居る訳もなく、ほんのりとあったはずの温もりもなくなりかけだった。その事実を認識するのに変に時間を使ってしまい、腹の虫がなった。お腹も空いたことだしリビングにでも行こうかと思ったが、冷房のついた部屋で過ごすには今の服装は心許なくて、上着を一枚着ようとクローゼットの方へ足を進めた。
クローゼットを開けようとして姿見を見たところ、思わず「うわぁ…」と感嘆の声を洩らした。
「独占欲の塊じゃん…」
まじまじと見てみれば、首元は然る事乍ら、腕、腹部、太腿…見ていないけれど多分背中も、彼からの愛で埋め尽くされていた。鬱血痕だけならまだしも、噛み跡まであるものだから痛々しいにもほどがある。しかしこれでは外出を躊躇う。あまり家から出ないからと気にされていないのかもしれないが、実写撮影があれば、腕まくりはできない。ましてや半袖でなんか絶対に無理だ。ジャージのジッパーを上まで閉めるなんて暑苦し過ぎるし、思ったよりもゆとりのあるそれでは隠し切れない。髪でも首元の痕を隠し切れないところが何よりも最悪だ。ああ、宅配便問題もあるじゃないか。本当どうしてくれんの、と届かない愚痴を零す。
それでも、心の根底では嬉しくて嬉しくて仕方がない。俺の前での彼は結構飄然としていて、撮影の時は思うがままに物申してくるのでそこのギャップを持ち合わせる彼に惹かれてしまう。そんな飄然な彼が独占欲の象徴と言わんばかりの鬱血痕を遺していくのが俺を舞い上がらせる。それとは別に、彼と会う度に幼稚になってしまう俺が馬鹿みたいだとは思ったりもする。
そんなことを考えながら、上着を探しているとふと目に入ったものがあった。
「また忘れてたなあ」
以前から返そう返そうと思って早数ヶ月が経過した。俺にしては珍しくハンガーにかけて丁重に保管している彼の服。最早、俺が貰ってもバレない気がするが、流石に留まった。
そんなことを思っていれば、スマホのバイブレーションが鳴って、なんなんだ、と画面へ目線を向ければ今、一番会いたい人からのメッセージ。
[体は大丈夫か?]
たったそれだけなのに嬉しくなってしまう。俺はこの言葉に込められた想いを知っているから。先までの不満なんてなかったかのように心が跳ね上がる。あまりにちょろすぎるような気もするが、こんな俺になってしまうのも彼と居るときだけなのだから少しくらい浮かれていたって、誰も文句も言わない…はず。
[大丈夫]
今は暇なのだろうか、すぐに既読がついた。
[この前忘れてった服また返しそびれたんだけど]
既読がつくのならと、服について指摘してみた。
[それお前にやるわ]
えっと思わず声が洩れた。一瞬、財力の見せつけか?と思ったが、送られてきた文面を何度読み返しても、俺に寄越すという事実は変わりなくて、勝手ながらに彼が羽振りのいい人間だということにした。
ぐう、と再び腹の虫がなる。Uberをしようと思ったが、あまりにも時間がかかる。今、俺の腹は食を待ち望んでいる。こうなってしまってはしょうがない、何か作るかとリビングに足を運んだ。
言わずもがな先程の彼の発言には意図があったようで、彼の服を着たままヤる羽目になったのはそれから数日後のこと
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