[―次は終点、六麻郊外、六麻郊外。ご乗車頂き、ありがとうございました。]
そんなアナウンスで目が覚める。
「もう終点…ぐっすり寝てたのかな。」
体感的には数駅分なんだけどな、なんて思いながら電車が止まるのを待つ。
いつの間にか電車に乗っていた人は残り数人となり、外は夜へと移り変わっていく。
電車に乗る僅かな人達は、急いで電車から降りる準備をしている。
電車の扉はアナウンスを挟む事無く開く。
泊まりの為の僅かな荷物を持って、扉から駅のホームへと足を進めた。
お金は電車に乗った時の駅で既に払ったので、後はもう駅を出て歩くだけ。
そう思うと、大分遠く離れた場所に来たんだな…と言葉では言い表せない何かを感じた。
確か明日から行くって姉さんに伝えた筈だから…今日行っても迷惑になるだけか、急いで一泊出来る施設探さなきゃな。
そう私は決める。寝床は整ってなければならないのだ。
急ぐ為に駅までは早足、そこからは駆け足で急ぐのだった。
「良かった、何とか確保できた〜…」
荷物を床に置き、自分の体を布団に埋める様に寝転がり安堵の声を出す。
郊外だからか、宿泊できる施設が少なかった影響で結構ギリギリだった。
部屋に設置してあった机に鍵を放り投げ、床に置いた荷物から寝間着を取り出して布団に寝転がり毛布をかける。
先程寝た筈なのに…いや、寝たからかは分からないが、目を閉じると思いの外すぐに寝れてしまった。
寝る前に1つ、心の中で静かに願った。
(どうか、夢なんて見ませんように、覚えてません様に…。)
届いたのか否かは分かりもしないが、朝起きた時に夢らしきものを見た記憶は無かった。
窓の外の夜空の景色を眺めていると、部屋の外から足音が聞こえる。
「もうこんな夜なのね〜。それで、こんな夜中に何の用事かしら?ねぇ…」
窓を見てそこまで言うと、私は静かに振り返る。
「…お父様?」
そこに居た人物は、私のお父様。
一応お父様と血は繋がってないから、義理の父というのが世間では正しいらしい。
私や秋奈といった、血の繋がっていない相手とはどこか距離を置いている。
それを秋奈は自覚しているし、他の皆も知っている。けれど、誰もその本当の理由は知らない。私だって、それを知らない。知ってるのは峯夏だけ。
その事でか、血が繋がってる筈の峯夏すらも避けている。会いたくないのか、それとも会わないだけか。
「明日から、峯夏が帰ってくると聞いて。」
「…そう。会いたくないならいつもの部屋にこもれば良いんじゃないかしら?誰も教えないわよ、きっと。」
「違うんだ、その…」
そこまで言うと、下を向き、なんだか言いにくそうにするお父様。
普段は距離を置く私にわざわざ言いに来たのだから、よほど大切な事だと思うのに。
そこまで言いにくそうにする事って何なんだろうか…と考えていると、お父様は思いの外早く次の言葉を発した。
「…明日、他の皆を普段より早めに寝かせてほしくてな…一応、母さんにも許可は取っている。だから…」
「ふふっ、あははっ…!」
耐えきれずに笑ってしまう私を見て、思わずぽかん、としてしまうお父様。
その間抜けな姿に更に笑ってしまいそうになるのを必死に堪え、鈍感なお父様の為に説明をする。
「それくらいだったら構わないわよ、全然。いきなり来たと思ったら、その内容がまさかのお願いで…ちょっとびっくりしただけよ、それだけ。」
「…!ありがとう、助かった!」
そう言い、部屋から立ち去るお父様。あんなでもきっと、ちゃんと覚悟を決めたのだろう。
もしそうなら、明日が正念場なはず。
私もちゃんと言われた通り、ちゃんと妹ちゃん達を寝かしつけなきゃね。お姉様達は…勝手に寝てくれる筈よね。
なんて思いながら、再び窓を見る。
空は先程よりも暗く、星は輝いていて、月は夜を照らす灯りになっている。
その灯りはどこか儚く、けれどもどこか頼りがいのありそうな…そんな光を発していた。
…頑張ってね、お父様。
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