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――深夜。


浜辺から少し離れた場所で、私たちは馬車の中で休息を取っていた。

ポエール商会の面々とルークが夜番を受け持ってくれたので、それ以外の私たちは気楽なものだ。


……本当ならルークもやらないで良かったんだけど、何だか夜番をやらないと気が済まないそうで。


「ルークは真面目じゃのう……。

お主はどんな手を使って、あやつをたぶらかしたんじゃ?」


私の横で眠るリリーを撫でていると、グリゼルダが不躾に言ってきた。


「ちょっと……、何て言い方をするんですか……」


「ふふっ、悪い悪い。昼間のロブとやらが、アイナのことを気に入っておったからのう。

お主は若いんじゃし、恋愛沙汰はどうなのかと思ってな」


「恋愛はしないって決めているから、その話は止めてくださいよー。

またエミリアさんにからかわれてしまいますから」


ちなみにエミリアさんはぐっすりと就寝中だ。

たまに可愛い寝息が聞こえてくる。


「エミリアの方も気にはなるがのぅ♪

それはさて置き、アイナが恋愛をしないのは不老不死だからじゃろ? アレは価値観が大きく変わるもの故にな」


「あれ? 話が早いですね」


これは予想外だ。

てっきり、不老不死だからこそ――みたいな話に繋げられると思ったんだけど。


「……時間の流れは酷なもの。

個で存在する我らと、集団で存在する人間どもではいろいろと違うからな」


「そういえば、神様や竜王様は集団で行動したりはしないんですか?」


「我らは世界に散って、世界を見守る者じゃ。

そもそもがそういう存在なのだから、寂しいなどと思う道理は無い――つまり、群れたりはせんのう」


「そうなんですか?

話していて、そんなに価値観が違うとも思えないんですけど……」


「それは何よりじゃな♪

まぁ人間どもの行動には思うところも無いわけではないが、基本的に我らは人間のことが好きなんじゃよ」


「ありがたいことですね。素晴らしい加護も頂けることだし……。

ところで、他の神様や竜王様はどこにいるんですか?」


「うん? アイナはそんなことに興味があるのか?」


「そりゃ、実際に光竜王様――もとい、グリゼルダに会ったわけですから。

こんな凄い存在が他にもいるだなんて、興味が湧かない方がおかしくないですか?」


「ふむ、なるほどのう。

他の竜王は他の大陸におるぞ。1つの大陸に1体の竜王、という感じじゃな」


「へぇ……。他の竜王様には、他の大陸に行かないと会えないわけですね」


「向こうからやって来る可能性も捨てられんがの。

妾はずっとこの大陸に加護をくれてやっていたが、全員が全員そうではないからな」


……これまた予想外の話だ。

てっきり神様や竜王様は、全員が真面目だと思っていたんだけど……。


「そうなんですか……。

それじゃグリゼルダに会うことができた私は幸せ者ですね。私は真面目な人が好きですから」


「ほう。だから真面目なルークのことも、たぶらかしたと言うわけじゃな!」


「えぇっ!? 話をそこに戻すんですか!?」


「ははっ、冗談じゃよ、冗談」


「むぅ……。それにしても私、竜王様が冗談を言うとは思ってもいませんでしたよ」


最近はグリゼルダと話しているから慣れてしまったけど、光竜王様と最初に会ったとき――

……あの強大で荘厳な存在が、まさか冗談を言ってくるとはなかなか思うまい。


「そうは言うが、アドラルーンも駄洒落を言ったりするぞ?」


「えぇー……。それこそイメージがぁ……」


私が会ったアドラルーン様は、優しそうなおじいちゃんの姿をしていた。

確かに駄洒落なんかも言うかもしれない。……いや、でも、しかし……ねぇ?


「まぁ、他の竜王はそんな感じで世界に散っておる。

それともうひとつ、神々の話は――……アイナにはまだ早いかのう」


「教えてくれないんですか?」


「アイナのことは、妾も大切に思っておるよ。

しかし、だからこそ言わない方が良いこともあるんじゃ」


「はぁ……。そう言うものですか……」


「お主の不利益になることはせんから、安心はするが良い。

ただ、要らん情報で悩む必要も無い……そういう老婆心だと思っておくんじゃな」


「分かりました、実際に老婆ですからね」


「な、何じゃと!? 妾はまだ生後1週間じゃぞ!」


「外身はそうでしょうけど、中身は桁が違いますよね……?」


偉大なる光竜王様に、我ながら何ということを言っているのだろう。

でも何だか、最近はこんな流れにも慣れてきてしまっている。

……光竜王様とは転生後、再会してからまだ1週間くらいしか経っていないんだけどね、本当に……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




グリゼルダも寝てしまい、何となく眠れなくて馬車の外に出てみると――

……ルークが焚き火にあたりながら、夜番をしているところだった。


「ルーク、お疲れ様」


「アイナ様? どうされましたか?」


ルークの言葉を聞きながら、彼の隣に座って焚き火にあたる。

少し冷えてしまった身体に、その熱はとても優しかった。


「……ちょっと外の空気を吸いたくなって。今、一人なの?」


「はい、もう少ししたら商会の方も来るはずです。今は周辺を見に行っているところなんですよ」


「あー、まわりの様子かぁ……。

蛇とか、出ないと良いね」


「蛇、ですか?」


「ほら。ガルーナ村に行くことになった前の晩、大蛇に遭ったでしょ?

何だか急に、そのことを思い出しちゃって」


その大蛇が疫病に感染していたからこそ、私たちはガルーナ村に行って、そしてエミリアさんと出会うことになった。

また、そこで『疫病のダンジョン・コア』を手に入れたからこそ、今はリリーとも一緒にいられている。


……そう考えると、私の冒険は偶然の連続だ。

何かのボタンをひとつ掛け違えていれば、今のこの現状はあり得ない。

『国を作る』だなんて話にも、なっていなかった可能性は多分にあるはずだ。


「――懐かしいですね。

あのときはアイナ様と私の二人だけで……。今の賑やかさからは、ちょっと想像が付きませんね」


「あはは、そうだねぇ……」


そう言いながら、私はルークと一緒に笑った。

二人で焚き火を囲むというのも、今となってはめっきり回数も減っている。


……いずれ時間の波が押し寄せてくれば、それすらも叶わなくなるときがやってくるのだろう。



「アイナ様……? 大丈夫ですか……?」


「え? 何が――」


……と言いつつ、いつの間にか私の目から涙が溢れていることに気が付いた。

特に感情が揺れたことは無いと思ったけど、もしかしてそんなことも無かったのかな。


「――……っと、ごめんね。

私は今、みんなで賑やかにいられるのが本当に嬉しいよ。

少し前まで、こんな生活はもう来ないかと思っていたし、もう笑ってなんていられないと思っていたもん。

……でもそれを考えると、未来がちょっとだけ不安かなぁ……って」


「気持ちはお察しいたします。

私がアイナ様と一緒にいられるのは、私が死ぬときまでです。

だからこそ、私はこれからの国作りに全力を注ぎたい。

アイナ様がずっとずっと、安心して暮らせる場所を、私が作って差し上げたいのです」


「……ありがと。

本当に、私はルークと出会えて幸せ者だね」


「そんなことは……。

……いえ、ありがとうございます」



――そこで話は止まってしまった。

静かにパチパチと火の粉を上げる焚き火に照らされ、非日常の光景にどこか心が疼いてしまう。


私は転生者だけど、もしも進む道が今と違っていたら、人並みに仕事をして、恋愛をして、家庭を持って、子供を産んで、育てて、そして死んでいったのかもしれない。

しかしそれが『普通』だと言うのであれば、私は今、なんと普通ではない人生を歩んでいるのだろう。



「……ごめんねぇ……」



何となく口から零れた言葉が、何の力も持たずに消えていく。

その言葉が正しいのか間違いなのか、何が言いたいのか、私にはよく分からない。

……本当にただ、零れてしまったような言葉だった。


「――アイナ様、そろそろ商会の方が戻ってくるかと思います。

私も時間が来たら戻りますので、そろそろお休みになりませんか?」


「あ、そうだね……。私がこんなところにいたら、恐縮されちゃいそうだもんね。

それじゃ申し訳ないけど、先に戻ってるね」


「はい、そうなさってください。

しばらくはまだ私が見張っておりますので、ご安心を」


「うん、お休みっ」


私は重い腰を上げてから、ルークに手を振りながら馬車に戻って行った。

馬車の中では全員が睡眠を取っている。

グリゼルダが1回、不自然な感じで動いたけど……まさか聞き耳は立てられていなかったよね?


いや、グリゼルダのことだから、眠っていても話は聞かれていたかもしれない。

……竜王の力とか、そういう感じのやつで……。

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

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