兄ちゃんと一緒に世一を探す。路地裏など、おれが嫌いそうな暗くて狭い道は、見せないように兄ちゃんが助けてくれたから、全然怖くなんてなかった。
お店を見ても、海に来ても、広い野原に来ても世一は見つからない。
かれこれもう2時間は経っている。兄ちゃんが、腕時計を見て顔を顰めた。
「悪い、凛。まだ付いてやりたいは山々だが⋯絶対に外せない仕事が入ってるんだ」
そう兄ちゃんが言う。
あ、そっか。兄ちゃんはプロサッカー選手⋯とかだったもんね。お仕事もきっと沢山あるんだろう。
「全然大丈夫。おれのことは気にしないで、仕事頑張ってきて!」
「⋯嗚呼」
そう言うと、兄ちゃんは頷く。
「凛。無理だけはするなよ。また苦しくなったら、電話をかけてくれ。ワンコールで出るから」
「うん。ありがとう」
兄ちゃんをそう言って見送ったはいいけれど⋯おれはフランスの街を全く知らない。兄ちゃんが居ないと迷子になってしまいそうだ。
適当にフラフラと歩いていると、この前のような路地裏が目に入った。ひゅ、と自分の喉が締まる。
カタカタと震える手でスマホを握って⋯⋯。
いやでも、もしかしたら、そこに世一がいるかもしれない。だから、通話アプリを開いて、直ぐに誰かに連絡出来る状態でそっと路地裏を覗いた。
「ょ、いち⋯?」
真っ暗な細い道。体が反応して背筋が寒くなる。誰もいない。そりゃそうか。
これ以上その場にいるとヤバそうなので、早めに離れようとした時、
「⋯ぇ」
ぐいっと手首が引っ張られて、路地裏に引きずり込まれた。視界が反転する。
目の前には、獣の目をした男が立っていた。
潔side
(おれ、最低だし最悪だ〜!!!)
俺は1人、凛の部屋で頭をかかえる。
許してもらうにはどうしたらいいんだろ。やっぱり鯛茶漬け持っていくか?あ、凛のお気に入りのホラー映画も見せてやって⋯。
解決策は頭に浮かぶが、凛の顔を思い出すと会いに行く勇気が無くなる。またあんな顔をさせてしまうと思うと、どうしても怖くなるから。
「⋯まぁ、モタモタしてても仕方ないよな。会いに行こう!」
そう決意して、俺は家を出た。
人気の少ない道。路地裏が沢山あって、絶対に凛が通れない道だな。と思う。
ふと、その内の1つに目をやると、男2人がキスをしている。
(わ⋯今からヤるんかな⋯)
自分にも男の恋人がいるので、いけないことだとは分かっていても興味が湧いてしまう。バレないように横目で見ると、2人は猛烈なキスをかましている。それはもう激しいやつを。
片方の男が、もう片方の男に尻を揉まれていて、多分突っ込まれる側だろうな。と考える。不意に差し込んだ、太陽の光で2人の顔がハッキリと見えるようになる。
それを見た瞬間、俺は走り出していた。
「お前、何してんの」
驚く程に低い声が出る。男⋯──凛は、涙で濡れた顔をこちらへ向けた。