テラーノベル
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そうだ。僕は出会った時から今まで、頼りないままだった。肝心な時に逃げてしまう臆病者だ。
それでも今日は絶対に逃げない。絶対にやり遂げるんだ。
そう腹を括って、ここに来たんだった。
いつの間にか、足が軽くなっていた。
気持ちが落ち着いたのだろうか。それとも、覚悟が固まったのだろうか。
君と何気ない話をしている間に、目的の場所が目の前に見えてきた。
ここは、僕と君の物語が始まった場所だ。
「やっと、着いたね。」
君がそう呟いた。その声には、懐かしさと少しの寂しさ、そして期待が混ざっているように聞こえた。
僕は少し空を見上げてから、ふっと口を開いた。
「あの時の流れ星のおかげだね。」
君が僕の方を振り返る。その瞳には微かな涙の輝きがあった。
「なんだ、ちゃんと覚えてくれてたんだ。」
鼻をすすりながら君が微笑む。その仕草に、僕の胸が少しだけ熱くなる。
「あの後、二人で約束したよね。絶対にこの願いを叶えようねって。」
「うん、覚えてる。あれからもう5年も経っちゃったんだね。」
「5年か。本当に、あっという間だったね。」
僕はなんとか言葉を返したものの、今から大事な時だというのに気の利いたことが思い浮かばない。
星空は静かだった。僕らの言葉を待っているように、夜はただそこにあるだけだった。
苦し紛れに、僕は君に声をかける。
「あの日みたいに、横になって星を眺めようよ。」
君は少し驚いた顔をしてから、すぐに笑顔を見せた。
「それ、いいね。そうしよう。」
僕らは地面にべったりと背をつけた。
硬いコンクリートの感触が背中に広がる。でも、それがかえって心を落ち着かせてくれる気がした。
「覚えてる?」君が問いかける。
「何を?」
「ここで、君が言ったこと。ほら、あの時。」
君は少し悪戯っぽく微笑んだ。
「もちろん覚えてるさ。」
僕は空を見上げながら答えた。
「『いつか、また二人で星を見に来られますように』って、願ったんだよね。」
「正解。」君は小さく笑った。その声はどこか照れくさそうで、優しかった。
「懐かしいね。この感じ。」
空を見つめながら、君が呟く。
「コンクリート、冷たいね。」
「真冬だもんね、しょうがないよ。」
僕も空を見上げる。星が綺麗だ。それなのに、胸のどこかが少しだけ締め付けられる感覚があった。
「人間ってさ、死んだらどうなるのかな。」
唐突に君が問いかけてきた。その声は、夜の静寂に吸い込まれるようだった。
「うーん。どうだろ。星になるんじゃないかな。」
「星かあ…なんかロマンチックでいいね。」
君はそう言いながら、ふっと僕の目を見つめて微笑むと、そのまま抱きついてきた。
その仕草がなんだか子供みたいで、僕はそっと君の頭を撫でる。寒さで手がかじかんでいるけど、それでも君の温もりはしっかりと伝わってきた。
「もう、心の準備はできたかい?」
瞳が暗闇に慣れてきた頃、僕は静かに君に問いかけた。
「ううん。まだ。もう少しこうしていたい。」
君はそう言いながら顔を隠し、背を丸める。顔を見られたくないのだろう。微かに声が震えている気がした。
そこからどれくらいの時間が経っただろうか。僕らは時計を持っていないから、正確な時間は分からない。
夜が更けて、街が静寂に包まれる頃、君が小さな声で口を開いた。
「本当に、これでよかったのかな。」
それは僕に話しかけたというよりも、自分自身に問いかけるような言葉だった。
君は僕の前ではいつも強いふりをしているけれど、本当はずっと迷っていたのだろう。
僕の言葉が、君の答えになるかは分からない。
それでも、僕は君を認めてあげたかった。
「もう、充分だよ。君は本当によくやった。やり切ったよ。」
僕の腕の中で君が鼻をすする音が聞こえる。
泣いているのか、照れているのか、それは分からない。でも、そんなことはどうでもよかった。
君が確かに隣にいる。それだけで充分だった。
「ありがとう。」
君はそう呟いて、ゆっくりと立ち上がる。
「お待たせ。もう、準備できたよ。」
君が差し伸べてくれた手を取って、僕も体を起こした。
その手は、少し冷たいけれど、しっかりと温もりを持っていた。
「君と出会えたおかげで、僕は強くなれたんだ。」
僕は君の手を強く握りしめる。
「私も君と出会えたおかげで、どれだけ辛くても乗り越えてこられた。」
君の手の震えが止まっている。きっと、気持ちの整理がついたのだろう。
「ねえ。」
「ん?どうした?」
「昔みたいにさ、一緒にせーので感謝を伝え合わない?」
君の提案に、僕は思わず笑みをこぼした。
「いいね。それ。懐かしい。」
「あの時は本当にびっくりしたよね!」
君の目が輝いている。
「そうだね。まさか二人とも願い事が一緒だなんて。」
「ああいう時って普通、男の人はエッチなこと考えるんじゃないの?」
「ばか、そんなわけないだろ。」
「えー、この隣にいる超絶美人で可愛い女の子とヤリてー!とかさ!」
「それは……思う。ていうか、それは願い事じゃなくて常に思ってる。」
「ばか!なにそれ!」
君の笑い声が冷たい空気を温めるように響く。その音が壁に反射してこだまする。
いつまでもこうやって笑い合える日々が続けばいいのに。
そんなことを考えるも束の間、笑い声が静まった頃、君は重たい口を開いた。
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