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堂々と恋人を放置して、佐々木と盛り上がることに不安を覚えた榊が話しかけると、橋本は肩を竦めながら呆れたように答えた。すると和臣が羨ましそうに宮本の様子を眺めつつ、ぽつりと零す。
「僕ははじめての人に対して、どうしても身構えちゃうので、宮本さんがすっごく羨ましいです」
「和臣、俺が宮本さんみたいに、ああやってほかの人と盛り上がっていたら、おまえは入ることができないだろう?」
「そんなこと、僕には絶対に無理だよ」
「つまりだ。蚊帳の外に居続けられる橋本さんのメンタル、すごいと思わないか?」
「あ……確かにそうかも!」
榊のひとことにより、宮本から自分に矛先が移ったことで橋本はドキマギしながら、羨望のまなざしを注ぐふたりを見やる。
「恭介、変なことを和臣くんに吹き込むなよ。俺はそんなに、ご立派な人間じゃねぇし……」
「だったら密かに、ヤキモチ妬いていたんですかねぇ」
「恭介っ、てめぇ! あとでオデコ百叩きの刑だからな!」
「陽さん?」
忍び笑いする榊に橋本が怒鳴り声をあげたら、宮本がやっとそれに気づき声をかけた。
「なんでもねぇよ。おまえは気にせずに、話を続ければいいだろ」
思いっきり顔を背ける橋本の頬に宮本は手をやり、容赦なく抓った。
「いででっ! なにするんだ?」
「よそ見をしてほしくなかったんです。話を聞いてください」
「すみません。僕が宮本さんとゴーカートの話で盛り上がってしまって……」
済まなそうに謝った佐々木に、榊が苦笑いを浮かべながら口を開く。
「いえいえ。宮本さんはそういう話が大好きだっただけですし、おふたりの邪魔になるかと思って、あえて車の話題に俺らはついていかなかっただけですので、そこのところはお気遣いなく」
「それでは失礼して、説明を続けさせていただきます。今回は体験走行ということで、ひとり一台ゴーカートに乗っていただき、僕のあとについて2周走ることになります」
流暢に説明を終えた佐々木に、和臣はきちんと向かい合い、緊張を隠すように両手に拳を作りながら話しかける。
「コースの長さは、どれくらいあるんですか?」
人見知りする話を事前に聞いていたので、積極的に質問した和臣を見て、橋本と榊は意味深に目配せしてから微笑みあった。ふたりのその様子を、宮本は微妙な面持ちでじっと眺める。
「一周400mです。二周するので800m走行することになりますが、ハンドルを握りしめてサーキット場を走ると、あっという間に終わっちゃう距離なんですよ」