ヒロインとは、小説・物語・戯曲などの、又は実際の事件の女主人公を指す。
そんな、ヒロイン。一度は誰もが憧れだった。とか云う私も其の一人だった。幼少期は映画やアニメで王子様にヒロインのお姫様が助けられるシーンを見て、私も何時かこんな素敵な王子様と幸せになるんだ!!と思っていた。
が、現実はそんな甘いものでは無かった。小学校・中学校・高校・大学・大学院・社会人。幾ら人生の転機、チャンスがあっても私は其れを掴むことが出来なかった。二十八歳独身の私。周りは結婚や出産ばかりで何時の間にか私が何時も御祝儀やお祝いやらを上げる立場だった。まあ、しょうが無いよね。明らかに私が悪いのは分かってた。
もう、これ以上惨めな想いをしたくない。だから転職しよう!そう思い立った。早く仕事を探して新しい出会いを…そう思った矢先に、
「…え?」
私は事故でこの世を去った。
向井 (なまえ)、二十八歳。独身。
こんな寂しい死に方があっただろうか?否、私以外こんな惨めな死に方はしない。嗚呼、最悪だ。
結局、ヒロインのあのくだりは何だったのか。私、このまま寂しく死んで、えーん。最後ぐらい転職して幸せ手に入れてから死にたかった。
来世!!今までそういうの信じてこなかったけど、来世が有るなら、私のことを好きでいてくれる人がいたらな。
そう、これが“前世”の記憶。
私は転生していた。結局、今世でも社畜と云うのは変わらない。が、職場の人達はみんな優しいし、珍しい探偵の事務所、〔武装探偵社〕で働くことが出来た。
探偵って夢があるなぁ。
今世は二十歳の若い女性事務員に転生出来たのだから矢張り、何時死ぬか分からないからやりたかったことは全部やってしまおう。何時死んでも良いように。
『ねぇ!(なまえ)さん!お昼一緒に食べない?』
そうやって声を掛けてくれたのは、花乃 雅(ハナノ ミヤビ)さん。同じ探偵社で働く事務員で可憐な人。正に私が冒頭で云った“ヒロイン”にピッタリだ。
クリーム色のツヤツヤな髪を靡かせて桃色の瞳を此方に覗かせる。私のブリーチしまくったパサパサ黒髪とは正反対だ。
「うん。良いよ。」
私は二つ返事で彼女の元へ行く。彼女の元に行くと何故か、探偵社の調査員の方たちからの視線がビシビシと感じる。嗚呼、そういう事か。
私みたいな女がヒロインちゃんと一緒に居るのが駄目なのか。
仕方ないじゃないか、可愛い女の子に声を掛けられて無視する奴がいるかっての。
この時、私は未だ気付くことが出来なかった。
この視線の意味が花乃さんではなく私に向けられていたこと。花乃さんが何故私に声をかけてくる意味すらも。
お昼休憩が終わり、数時間たった。太陽が沈み始めていた。私は資料作りに追われていた。隣の席の花乃さんは調査員の方たちの机で仲良くお喋りしている。花乃さんの机には大量の仕事があるにも関わらず…だ。
え、
これ、押し付けられるんじゃないの?何時も仲良くしてやってるんだから当然でしょって。いや、嫌なんですけど。こんな寂しい関係だったって気づかないようにしてたけど…もしかして…いや、未だ花乃さんがそうだと決まった訳では無い!!!
こうしてみると、彼女がこの世界のヒロインだと誰もが思う。来世に期待しても私は結局私だった。
資料作りも終わり、あとは帰るだけになった。他の事務員さんも身支度をしたり、パソコンと睨めっこしたりしている。調査員さんたちと花乃さんは未だに話を続けている。話が弾んで良い事だ。が、仕事ホントに終わるの…??(社畜からの余計なお世話)
よし、あとは帰るだけ…ぇ…ほんとに帰っていいのかな…目付けられないよね…?
バックを方に提げ、ドアノブを掴もうとしたその時、声がかかった。やばい、この声花乃さんだ…
『(なまえ)さん!!』
「は、はい…な、何ですか?」
『また明日!!さようなら!!』
と、元気よく挨拶されてしまった。私はなんてことをしてしまったのだろう。花乃さんを勝手に決めつけてた。彼女はこんなにもいい子なのに。もしかしたら、あの溜まってた資料、終わってたのかも。
「…はい。またあした。花乃さん。」
私は探偵社を後にした。
ガチャ、バタンと武装探偵社の扉が締まる。
『よっしゃ!!また、(なまえ)さんと話せちゃった〜』
ガッツポーズを作る花乃 雅。
『凄いですね…花乃さん。(なまえ)さんと話せるなんて…』
『ホントに其の度胸は凄いねぇ…相変わらず。』
『いや、二人もさっさと話しかければ良いじゃないですか?太宰さんに敦くん。』
『えぇ〜其れが出来たら苦労しないよね〜?敦くん。』
『そうですね…目の前にすると何故か話したいことが出てこないんですよね。』
『ま!私たちには花乃の異能力“咲き誇る度胸”みたいなものは生憎、持ち合わせてないもんだからねぇ。』
『異能のせいにされても困るんですけどぉ?其れより、今回話に乗ってあげたんで…半分資料作りお願いしますね♡もう半分は終わってるんで。』
『はいはい…気が向いたらね、国木田くんに投げるよ。』
彼女は、(なまえ)ちゃんは私が真のヒロイン。そう思ってるでしょう。
でもね、そんなことは無いの。
貴女が、真のヒロインで真の“乙女“なの。
『太宰〜。彼女、何時気付くかな?』
『さあ、明後日とか?』
『うーん。僕の予想は明日のお昼時だね。探偵社みんなの前で気付くかな。』
『其れは楽しみですね。乱歩さん。』
『うん!早く気づけばいいのに。』
『早く気づき給えよ。(なまえ)ちゃん。君に異能力が有ることを。』
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