テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……嘘でしょ」
そう呟くペトラの視線の先──
ウォール・ローゼの開閉口は、破壊されていた。
その光景を目にした瞬間、
兵士全員の表情が凍りつく。
「各班!入口付近の巨人、ならびに侵入個体を討伐せよ!」
絶望的な空気を裂くように、
エルヴィン団長の号令が響き渡る。
「俺たちは壁を伝って、壁内の巨人共を蹴散らす。全員、立体機動に移れ。」
「「「「「 了解! 」」」」」
リヴァイの声と同時に、
特別作戦班は戦闘態勢に入る。
立体機動を駆使し、
素早く壁面を駆け上がっていく。
「……こいつは、どういう事だ」
いち早く壁上に辿り着いた
リヴァイが目を見開き、ぽつりと呟く。
「兵長、どうしまし……た…」
リヴァイに続くレイが声をかけた瞬間、
衝撃の光景が目に飛び込んでくる。
(巨人が、岩を運んで……)
人の力では到底運べない大きさの岩を、
巨人が壁を目がけて運んでいた。
その上、その巨人を多数の兵士が死守している
2人に続く班員も、状況を飲み込めていない様子で立ち尽くしていた。
「状況は不明だが、俺はあの巨人に加勢する。お前たちは、壁に群がっている巨人共をどうにかしろ。」
「エルド、指揮はお前に任せる。」
「はっ!了解です、兵長!」
固まる空気を切り裂くように、
リヴァイが指示を出す。
その声で、全員が一斉に走り出した。
「入口付近は他班が防衛しているはずだ。俺たちは奥に流れ込んだ巨人を一掃する!」
エルドがすぐさま指示を出し、
皆は目を合わせて頷いた。
そんな中、レイがエルドに近づく。
「エルド、私が壁側に集まっている巨人をやる。4人は壁に寄り付く巨人の討伐をお願い。」
「正気かレイ!?あの数を見ただろ!1人で凌ぐなんて、いくらレイでも無謀過ぎる!」
エルドは、この無謀な申し出を否定するも、
彼女は淡々と続ける。
「問題ない。それに、壁には巨人誘導役の兵士が多い。これ以上寄せ付ける方が危険。」
彼女は迷いのない瞳でエルドを見つめ、
「大丈夫、信じて。」
短く言い切った。
(レイを失えば、この班は……いや、この班だけじゃない。兵団戦力も大幅に削がれる……。)
しかし 彼女の言う通り、周囲の状況は最悪。
これ以上巨人が群がれば、壁にいる兵士達の多くは命を落とすだろう。
エルドは、彼女を信じる他なかった。
「……分かった、レイを信じるよ。」
苦渋の決断。
彼の瞳は、まだ微かな迷いを帯びている。
「ありがとう、エルド。」
レイは彼の迷いを肌で感じつつも、
少し笑い、強く頷いた。
そして1人、多数の巨人が集まる壁へ向かった。
その様子を見たペトラは、慌てて叫ぶ。
「……っレイ!約束、忘れないでね!」
「……忘れないよ」
その声を背中に受け、レイは小さく呟いた。
━━━
アンカーを刺し、壁にぶら下がる兵士たち。
巨人の手が届かないギリギリの高度。
しかし、時折巨人の目の先まで降りないと、
意識が岩を運ぶ巨人に向いてしまう。
1人の兵士が、
少しだけワイヤーを伸ばし降下した。
その瞬間──
死角から伸びた腕が、ワイヤーごと掴んだ。
悲鳴が響く。
兵士はバランスを崩し、巨人に捕まった。
もうダメだ。
そう思った次の瞬間、巨人の手が宙を舞う。
瞬きをした頃には、捕らえられた兵士の身体は引き上げられ、安全な壁上に放り投げられた。
兵士は投げられた衝撃で目を瞑るが、
微かに開いた目には、白い影が映った。
レイだ──
彼女は兵士を助けると、すぐに周りを見渡した。
捕らえかけられている別の兵士を視認したその瞬間、右のブレードを巨人の左目に投げ放つ。
片目を潰された衝撃で、巨人の呻き声が上がる。
ブレードで目を穿つと同時に、
アンカーを頬に撃ち込み、加速。
目に刺さったブレードを掴み、加速した勢いのまま、右目まで一気に切り裂く。
巨人の視界は、完全に暗黒に囚われた。
レイは回復する間も与えず、
アンカーを打ち直し、的確にうなじを削ぐ。
蒸気が立ち上る。
(やはり数が多い……
でも、やり切れない数じゃない。)
大きく息を吐く。
そして、瞬きを忘れてしまう程の速さで
次々の巨人のうなじを削ぎ落す。
レイの兵服は真っ赤に、色濃く染っていた──
━━━
残りの1体を仕留め、ブレードにこびり付いた血を払い、一呼吸おいた。
その時、グンタのけたたましい声が響いた。
「……レイ!!すまん、逃がしてしまったっ…」
彼女が振り向いた瞬間、奇行種と思われる巨人が猛烈な速さで走ってきた。
即座に立体機動に移り、
巨人の背後に回り込む。
しかし、奇行種は上半身をぐるりと捻らせ、
うなじを切り裂く事が出来ない体勢に。
(っ……この状態からじゃ仕留められない、)
そう感じた瞬間、彼女はブレードを逆手で持ち直し、加速しながら身体に回転をかけた。
そして、次の瞬間。
奇行種は地面に倒れ込んだ。
「……な、なぁ。あの動きって」
「……うん、兵長と同じ動きに見えた。」
討伐の様子を見ていた
オルオとペトラが、ポツリと呟く。
そう、レイはあの一瞬で
リヴァイの動きを再現してみせたのだ。
「あの土壇場で……」
「俺たち、あんなすげぇ奴と同期なのかよ……」
グンタとエルドも、レイの動きに魅入った。
周囲の巨人を一掃したことを確認すると、
レイは空を見上げ、そっと目を閉じた。
(……出来た。精度はまだ甘いけど)
彼女はこの班に配属されてから、
毎日リヴァイの姿を見続けてきた。
一般的な持ち方とは異なるブレードの構え方。
独学故に、模範的な持ち方では出来ない芸当が可能になる。
彼女はそこを見抜き、影で1人
黙々とリヴァイの戦闘方法を練習した。
その時間が、奇行種の予測不可能な行動に適応し、討伐する力となった。
しかしレイ自身、練習でしか試した事のなかった戦闘スタイルを、あの瞬間に行うのは賭けだった。
止まれば死ぬ。
攻めても死ぬ。
姿勢を変えても死ぬかもしれない。
でも──
どうせ死ぬのであれば、後悔しない方を選ぼう
レイはそう思い、あの一瞬でリヴァイの芸当を真似た。
その姿は、周囲の兵士や同じ班の4人にも衝撃を与えた。
そして、
それを見ていたのは、彼らだけではなかった。
━━━
「おい、無茶はするなと言っただろうが。」
隣に立つ気配。
リヴァイだ。
「あれだけ啖呵を切っといて、俺の選択を間違いにさせる気か?」
「すみません……。でも、生きてます。」
「結果として、だ」
リヴァイの声からは、
怒りよりも、心配の色が見えていた。
彼女自身もそれは感じており、叱責されているにも関わらず、少し笑みが零れた。
「……何笑ってんだ。俺は怒ってる。」
「すみません、でも 心配してくださってるんですよね?」
リヴァイの目を見つめながら、首を傾げる。
「……現を抜かすな、さっさと残りの巨人もやるぞ。」
小さく舌打ちをしながら、
レイから目線を逸らした。
そして、残る巨人を捉える。
「了解」
レイは短く返事をし、新たな刃を構える。
2人同時に立体機動に移ろうとした
その時──
リヴァイの手が、レイの頭を無造作に撫でた。
「……無謀ではあるが、動きは悪くなかった。」
「よく、生き残った。」
そう言い残し、1歩先に飛び出していく。
胸の奥が、また熱を持った──
━━━
その後 調査兵団・駐屯兵団の活躍によって、
トロスト区は、巨人の侵入を阻んだ。
また、特別作戦班が担当した壁以外に群がっていた巨人は、トロスト区内に閉じ込め、壁上固定砲によって殲滅。
さらに──
4m級・7m級を各1体ずつ生け捕りに。
人類は初めて巨人に勝利し、目的としていた巨人の捕獲にも成功した。
しかし──
この作戦における死傷者は1000名以上。
歓喜の声を上げるには、
あまりに犠牲が多すぎた。