テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
トロスト区奪還後──急遽帰還した調査兵団は、事の顛末を聞いた。
超大型巨人が出現し、トロスト区の開閉口が
破壊されたこと。
104期訓練兵 “エレン・イェーガー” が
巨人の姿になれること。
その姿で多くの巨人を蹴散らし、岩を運んでトロスト区の開閉口を塞いだこと。
100年以上に渡る壁内の常識が、今日 覆った。
人類の敵であるはずの“巨人”が、人類を救ったのだ。
━━━
兵舎の一角──
リヴァイを除く、
特別作戦班のメンバーが集まっていた。
「……人間が巨人に、か」
レイが静かに呟く。
表情は変わらないが、明らかに動揺していた。
それは、他の班員も同様だ。
皆、神妙な面持ちで椅子に腰を掛けている。
「……味方、なんだよね」
「あぁ、恐らくな」
「お、俺はまだ信じられないぜ。人間が巨人になれるってのも、人類の味方ってのも……」
この場の全員が、半信半疑といった様子だった
(……無理もない。今まで敵対していた “巨人” が、人類の味方かもしれないなんて。)
「なぁ、レイはこの状況についてどう思う」
「エレン・イェーガーは、味方だと思うか?」
先程まで黙っていたグンタが、
彼女に問いかける。
レイは少しだけ視線を落とし、やがて答えた。
「……私にも分からない。」
「本人が言うように人類の味方かもしれないし、言葉巧みに騙してくる敵かもしれない。」
「でも1つ言える事は、彼がその命を賭して壁内人類を守った。これもまた事実だということ。」
彼女の言葉を聞き、
その場の空気が静まり返る。
「とにかく今は、彼の身柄を私たち調査兵団が
引き取れる事を願おう。」
「もう直き、審議も終わるはずだから。」
レイは窓の外を見つめる。
窓の外では、
鳥が自由に空を羽ばたいていた──
━━━
「お前ら、こいつがエレンだ。」
「俺の班で面倒を見ることにした。」
審議から数刻、リヴァイがエレンを連れ、
特別調査班の集まる兵舎へ戻ってきた。
人類の命運を握る少年
“エレン・イェーガー” を前にし、
班員たちには緊張が走った。
レイはエレンに歩み寄り、手を差し出した。
「私の名はレイ・ヴァイス。
貴方の話は聞いてるわ、エレン。」
「これからよろしく」
「レ、レイさんの噂は聞いてます…!俺たちより1つ前の103期兵に、凄腕の女性兵士がいるって!こちらこそ、よろしくお願いします!」
エレンは緊張した様子だが、同時に少し興奮したようにレイの手を握った。
その瞬間
舌打ちと共に
ドン、と鈍い音。
「……長ぇ」
リヴァイが無表情でエレンの尻を蹴り上げた。
「あっ……す、すみません!」
エレンは彼女の手をすぐに離した。
(((( そんなに長くなかった…… ))))
レイを除く班員の表情が、
エレンに同情の意を示した。
その後、
レイに続き 残りの班員も自己紹介を終え、
一同は “旧調査兵団本部” へ向かった──
━━━
壁や川から離れた場所に位置する、
調査兵団の活動趣旨にはそぐわない無用の長物
それが、旧調査兵団本部だ。
古城を改装した趣きのある建物だが、
その立地の悪さから、今では完全なる
お飾りに成り下がっている。
訓練任務に忙しい調査兵団はもちろん、調査兵団を変人扱いしている他の兵団も、誰も手を出さず利用をしてこなかった。
利用されなかった数年の間で、周りの草木は生い茂り、建物内では埃やゴミが舞っていた。
そんな建物をリヴァイが凝視する。
「……おい、レイ」
「はい、急ぎ “アレら” を準備します。」
彼の言わんとしている事を察し、
レイはすぐに返事をする。
そして物置から、
彼の所望する “アレら” を取り出した。
レイが準備に勤しんでいると、
近くからオルオとペトラの声がする。
近づいていくと、
相変わらずのやり取りが聞こえてきた。
「……ったくみっともない!」
「オルオ、ペトラ。」
レイが2人に声を掛ける。
「レイ!そんなに沢山
掃除用具を持ってどうしたの?」
彼女の手には、ほうき・雑巾・はたき・ダスターなど、様々な種類の用具が抱えられていた。
「兵長からの指示。2人も準備して。」
「それと、エレン。貴方も一緒に来て。」
オルオとペトラは、その一言で全てを察し、
すぐに行動を始める。
困惑するエレンを引き連れ、
一同は旧本部へ向かった──
━━━
「よし、出来た。」
振り分けられた部屋の片付けが終わると、
レイは一呼吸おき、辺りを見回した。
今回リヴァイが指示したこと、それは──
“掃除” だ
地下街出身とは思えない几帳面さに、
塵一つ残せば無言で蹴りが飛んでくる。
そんな男が、手入れの行き届いていない旧本部を使うなど、到底不可能だった。
この性格は、特別作戦班の共通認識であり、
“清潔な空間の確保” は、この班に配属されたからには、確実に遂行しなければならない必須事項だ。
レイは掃除を終えると、
ペトラとエレンの声がする方に足を運んだ。
「リヴァイ兵長、それとレイはね、昔 都の地下街に住んでいたみたいなの。」
「中でも兵長は、有名なゴロツキだったって。」
ペトラの話が聞こえ、レイは一瞬足を止める。
話の発端は分からない。
けれど、出身の話をしている事は確かだった。
「レイさんはともかく、兵長のような人がなぜ……」
「さぁね。詳しい事は分からないけど、エルヴィン団長に下る形で、調査兵団に連れてこられたって聞いたわ。」
「粗悪な環境で育った2人だけど、腕は誰よりも立つし、今は人類の為に命を捧げてる。」
「過去がどうであれ、私は2人の事を尊敬してる。きっといつか、エレンも分かるよ。」
(ペトラ……)
ペトラはいつも、レイに素直な気持ちを直接ぶつけてくれている。
その事は、レイ本人もよく分かっていたし、
本当の家族のように本音をぶつけ合える間柄になれた事が、心底嬉しかった。
しかし 本人が居ない時にまで、こんな風に言ってくれていた事は知らなかった。
レイは立ち尽くしたまま、微かに笑った。
その時──
「おい」
背後から低い声。
リヴァイだ。
「何突っ立ってんだ。邪魔だ。」
「あ……すみません。」
「……やけに嬉しそうだな」
レイの朗らかな表情に、彼は気付いた。
「そんなふうに見えましたか……?」
「あぁ。平和ボケした奴らみてぇな顔だ。」
皮肉な言葉。
だが 彼の表情は穏やかで、声色は柔らかかった
「まぁ良い。
とにかく俺は、エレンに言いてぇ事がある。」
先程まで穏やかな表情を浮かべていた彼は、
当初の用を思い出し、すぐ眉間に皺を寄せた。
(……掃除がなってなかったのね)
その顔を見た瞬間、レイは察した。
「おい、エレン。」
不機嫌そうなリヴァイの声が響く。
「……は、はい!」
「全然なってねぇ。一からやり直せ。」
そんなやり取りを見て、目と目があったレイとペトラはクスッと笑った──
━━━
その日の夜、
班員は同じテーブルを囲い紅茶を飲んでいた。
部屋の暗さも相まって重苦しい雰囲気ではあるが、皆リラックスした様子で会話が進む。
現在、エレンを含む特別作戦班には待機命令が出ており、恐らく数日はこの状況が続く。
しかし 30日後には、今期卒業の新兵を交えて大規模な壁外遠征が行われると、エルドが淡々と話した。
(……今回の襲撃によって、新兵たちには大きな恐怖心が植え付けられた。そんな中、新兵を交えて壁外遠征とは、)
レイを含め、班員たちは些か早急な判断ではないかと、口々に異を唱える。
しかし──
「作戦立案は、俺の担当じゃない。」
「だが、エルヴィンの事だ。俺たちよりずっと多くの事を考えているだろう。」
リヴァイがピシャリと言い放つ。
皆 その一言で納得し、口を噤んだ。
その後、突如として降って湧いた希望。
”エレンの巨人化” について、エルドが尋ねる。
エレンは戸惑いながらも、巨人化のトリガーについて話した。
しかし、本人も巨人化については不明な事が多いらしく、やはり報告書以上の情報は出てこなかった。
そんな中──
ドンッ
出入口の扉から大きな激突音がした。
同時に、激突したと思われる人物の呻き声が上がる。
ペトラが急ぎ扉を開けると、そこには──
「やぁやぁリヴァイ班の皆さん!
お城の住み心地はどうかな?」
意気揚々と話す女兵士 “ハンジ・ゾエ” だ。
彼女は勢いよくエレンに近づき、明日行われる実験の話を始める。
なんでも明日の実験にはエレンも必要らしく、許可を取りに来たらしい。
興奮した様子で巨人について話す彼女を見て、エレンを除く班員は、呆れた表情を浮かべた。
そしてふと、エレンが巨人の実験についてハンジに尋ねた。
その瞬間──
班員たちは目を合わせ頷いた。
椅子を引き、一斉に席を立つ。
この後始まるであろう、
ハンジ分隊長による巨人の話から逃げる為に。
━━━
そして翌日、兵団内にて由々しき事態が発生。
捕らえた巨人 “ソニー,ビーン” が殺された。
犯人は無許可で立体機動装置を使い、
夜明け前、2体同時に殺したとみられる。
兵団内では熟練兵士,新兵関係なく、
全員の立体機動装置の検査が行われた。
しかし、どの立体機動装置も無許可で使われた痕跡はなかった。
事件は未解決のまま、
新兵勧誘式が始まった──
エルヴィンは、エレンの持つ鍵の情報,入団後の死亡確率,今後の動向について、多大なる情報の提示・必要以上の脅しをかけた。
残った兵士は、約数名。
(……震えている)
残った兵士たちの反応は様々だった。
手や体を震わせる者、涙を浮かべる者、毅然とした様子でいる者。
それぞれが恐怖心に打ち勝ち、
今 ここに立っている。
「……勇敢な兵士がこんなに沢山」
幕の裏で、現場を見つめるペトラが呟く。
「えぇ、彼らは強い。」
「だからこそ、誰も死なせたくない。」
ペトラの言葉に応えるように、
レイが口を開く。
自分の命を顧みず、人類に心臓を捧げる若き兵士たち。
強いからこそ、生き延びて誰よりも幸せになって欲しい。
レイは、そう強く感じた。
(私がもっと強くなって、あの子達も守ってみせる。もう、誰も死なせたくない。)
決意を固めるように、
レイは己の拳を固く握った──
その時、小さく低い声が聞こえた。
「……力み過ぎだ。1人で全員を守れるなんて思い上がるな。」
「お前は、お前自身の命を守りきれ。」
リヴァイだ。
「……死ぬ気はありません。兵長との約束がありますから。」
「当たり前だ。」
「……どうしても守りてぇなら、死なねぇ程度にやれ。約束はできねぇが、出来る限り補佐はしてやる。」
予想外の言葉に、レイは目を見開いた。
レイは悦びを噛み締めながらも、
表情は変えず言った。
「では、兵長の補佐は私が。
必ず貴方の “影” になってみせます──」
「……随分と大口を叩くようになったな」
リヴァイは微かに笑った。
「頼りがいがありませんか?」
「頼りがいはねぇが……お前以上の適任はいないだろうな」
視線は合わない。
しかし、
たった数ヶ月、されど数ヶ月。
2人の信頼関係は確実に紡がれていた──